7 / 20
7
しおりを挟む屋敷に戻ると執事にお父様とお母様を呼んでもらうよう声をかけた。現在、私はユリと共に応接間で二人が来るのを待っていた。
「うっ!」
突然、寒気を感じ身震いしてしまう。すると心配そうにユリが声をかけてきた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「なんだか寒気がしたけれど今は大丈夫よ。それより、ユリにはお礼を言わないと」
「もしかして、ウルフイット第三王子に文句を言ったことですか?」
「ええ、王族にあんな事を言ったのだもの。勇気がいったでしょう……」
私は尊敬の眼差しを向けるとユリは苦笑してきた。
「ふふふ、全然勇気なんて出してませんよ。だって、ウルフイット第三王子は全然怖くなかったですから」
「えっ……。怖くなかった?」
私は驚く。今ではウルフイット第三王子の事は全く怖いと思わないが、ユリがああ言う前は心底怖いイメージがあったのだ。
しかも、ウルフイット第三王子は王族である。普通はあんな事を言うのは凄い勇気がいるはずだ。
それをユリは全然怖くないと……
思わず理解できないという表情でユリを見ると笑いながら言ってきた。
「はい、だって……ぷぷ、お嬢様に声をかける時、ウルフイット第三王子って……ぷぷぷっ、も、もの凄い緊張してましたからね」
「緊張⁉︎ う、嘘よね?」
「嘘じゃないですよーー。きっとお嬢様の美しさがわかってるタイプなんでしょうね」
「えっ、ど、どういう……」
思わずユリに続きを聞こうとしたら間が悪い事にお父様とお母様が入ってきてユリはさっと私の後ろに移動してしまう。結局、それ以上は話を聞く事はできなかった。
「フィーネ、用事とは何かな?」
「……それはアルバン・ダナトフ子爵令息の件です」
そう答えると、お父様が顔を強張らせながら聞いてきた。
「ダナトフ子爵令息が何かしたのか?」
「……はい。リーシュ・ダーマル男爵令嬢と不貞行為をしています。私とユリ以外に証人もいますし証拠もあります。だから婚約を取りやめたいのです」
するとお母様は口元を押さえて驚き、お父様は垂れ目が一気に吊り上がり、テーブルをしばらく睨む。そして、しばらくするとゆっくりと目を閉じ私に聞いてきた。
「フィーネ、証人と証拠はすぐ用意できるのかい?」
「はい、ウルフイット第三王子が証言してくれますし証拠もすぐに用意してくれます」
そう答えるとお父様は驚愕した表情になった。
「ウ、ウルフイット第三王子が証言だって⁉︎ しかも証拠も⁉︎ ま、まさか、ダナトフ子爵は何かやらかしたのか?」
「それですけど……」
私はウルフイット第三王子がしてくれた話と生徒会で聞いた話を二人にする。二人はみるみる顔を真っ赤にして怒りだしだ。
「ぐぬう、心優しいフィーネを利用するとは……ダナトフ子爵家は絶対許さん……」
「ダーマル男爵家もね。一生表に出られないようにしてあげるわ……」
今にも人を殺めそうな勢いだったが、すぐにユリがカモミールティーを私達の前に置いてくれる。その香りに二人はなんとか落ち着いたらしく、紅茶に口をつけながら言ってきた。
「とりあえずウルフイット第三王子とは一度話をしないとな」
「そうね。でも、私達が突然、お手紙をお出してもすぐには読んでもらえないわよね……」
「それなら、明日ウルフイット第三王子が生徒会にいる時、私が直接お手紙を渡しておきますわ」
「そうか、ならお願いしよう」
お父様はそう言うと、すぐに手紙を書くために部屋に行ってしまった。
そこで残された私とお母様はユリを交えてしばらく雑談する事にしたのだが、お母様は紅茶を一口飲んだ後、思いだしたように言ってきた。
「そういえば、ウルフイット第三王子ってまだ婚約者がいないらしいわね」
「そうなのですか?」
「中々、きつい性格をしてるって噂なのよ。そうなの?」
「口は悪いですが、人の気持ちや痛みを理解できる素敵な方だと思いますよ」
「あら、まあ……」
お母様は目を丸くして私を見た後、微笑んでくる。そして、少し真顔になりながら聞いてきた。
「もう、ダナトフ子爵令息の事は気にしてない?」
「……それがもう全然気になってないのです。これは私が冷たい人間だからなのでしょうか?」
「そんな事はないわよ。もしかしたらフィーネちゃんは本当の恋をしてなかったのかもしれないわよ」
「えっ……。本当の恋じゃない?」
「フィーネちゃんとダナトフ子爵令息を見ていて感じたのは、憧れや、兄に甘える妹みたいな感じに見えたのよね。まあ、多少は何かあったかもしれないだろうけど……」
私はお母様に言われて確かにそんな感じであると理解する。
「じ、じゃあ、私は思い違いをしていたのですか?」
「まあ、フィーネちゃんの中でその思いが残ってないなら確かめようがないわ。でも、次に相手に触れたいとか、本人を前にするとドキドキしちゃうとか、離れてると常に相手を思ってしまう様になったらそれは間違いなく恋よ」
「な、なるほど……」
残念ながら、私は今言われた事はアルバン様に感じなかった。いや、ちょっとドキドキしたが、それはお父様以外の男性を前にしたからだと今思えばわかる。
衝撃の事実だった。
アルバン様に私は恋してなかった。愛してるではなく憧れていたとは……。だが、それと同時にほっとする。
だって、未練なく婚約を取りやめられるものね。
私はそう思いながらも、恋をまだ知らない事に少し寂しく思うのだった。
115
お気に入りに追加
3,847
あなたにおすすめの小説
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
恋人が聖女のものになりました
キムラましゅろう
恋愛
「どうして?あんなにお願いしたのに……」
聖騎士の叙任式で聖女の前に跪く恋人ライルの姿に愕然とする主人公ユラル。
それは彼が『聖女の騎士(もの)』になったという証でもあった。
聖女が持つその神聖力によって、徐々に聖女の虜となってゆくように定められた聖騎士たち。
多くの聖騎士達の妻が、恋人が、婚約者が自分を省みなくなった相手を想い、ハンカチを涙で濡らしてきたのだ。
ライルが聖女の騎士になってしまった以上、ユラルもその女性たちの仲間入りをする事となってしまうのか……?
慢性誤字脱字病患者が執筆するお話です。
従って誤字脱字が多く見られ、ご自身で脳内変換して頂く必要がございます。予めご了承下さいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティ、ノークオリティのお話となります。
菩薩の如き広いお心でお読みくださいませ。
小説家になろうさんでも投稿します。
【完結】婚約破棄した王子と男爵令嬢のその後……は幸せ?……な訳ない!
たろ
恋愛
「エリザベス、君との婚約を破棄する」
「どうしてそんな事を言うのですか?わたしが何をしたと言うのでしょう」
「君は僕の愛するイライザに対して嫌がらせをしただろう、そんな意地の悪い君のことは愛せないし結婚など出来ない」
「……愛せない……わかりました。殿下……の言葉を……受け入れます」
なんで君がそんな悲しそうな顔をするんだ?
この話は婚約破棄をして、父親である陛下に嘘で固めて公爵令嬢のエリザベスを貶めたと怒られて
「そんなにその男爵令嬢が好きなら王族をやめて男爵に婿に行け」と言われ、廃嫡される王子のその後のお話です。
頭脳明晰、眉目秀麗、みんなが振り向くかっこいい殿下……なのにエリザベスの前では残念な男。
★軽い感じのお話です
そして、殿下がひたすら残念です
広ーい気持ちで読んでいただけたらと思います
【完結】貴族の矜持
仲村 嘉高
恋愛
「貴族がそんなに偉いんですか!?」
元平民の男爵令嬢が言った。
「えぇ、偉いですわよ」
公爵令嬢が答える。
「そんなところが嫌なんだ!いつでも上から物を言う!地位しか誇るものが無いからだ!」
公爵令嬢の婚約者の侯爵家三男が言う。
「わかりました。では、その地位がどういうものか身をもって知るが良いですわ」
そんなお話。
HOTで最高5位まで行きました。
初めての経験で、テンション上がりまくりました(*≧∀≦*)
ありがとうございます!
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。
ふまさ
恋愛
伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。
「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」
正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。
「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」
「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」
オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。
けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。
──そう。
何もわかっていないのは、パットだけだった。
【完結】婚約破棄の明と暗
仲村 嘉高
恋愛
題名通りのお話。
婚約破棄によって、幸せになる者、不幸になる者。
その対比のお話。
「お前との婚約を破棄する!」
馬鹿みたいに公の場で宣言した婚約者を見て、ローズは溜め息を吐き出す。
婚約者の隣には、ローズの実妹のリリーが居た。
「家に持ち帰って、前向きに検討させていただきます」
ローズは、婚約者の前から辞した。
※HOT最高3位!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる