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 翌日、侍女のユリを伴い街に出ていた。主な目的はウルフイット第三王子へのお礼を購入しにである。

「これが良いわね」

 一枚の栞を見てつい微笑む。ウルフイット第三王子にぴったりのものを見つけてしまったから。私は早速、その栞とついでにブックカバーを購入する。

 良い買い物ができたわ。

 そう思いお店を出ると偶然にもウルフイット第三王子に出会ってしまったのだ。しかも、無視してくれれば良いのにわざわざ声までかけてきたのである。

「なんだ、買い物か?」
「……はい」

 私はそう答えて、購入した栞とブックカバーが入った紙袋をさりげなく後ろに隠す。
 正直、今、お礼を言って渡してしまいたかったが、お返しするハンカチを持っていなかったのだ。
 すると、ウルフイット第三王子はしばらく私を見つめた後に鼻を鳴らす。

「ふん、アルバンへのプレゼントか……。全く、見る目がないな……」

 ウルフイット第三王子はなんとも言えない表情をする。私はそんなウルフイット第三王子の言葉に力なく笑うしかなかった。

「……ふふ、そうかもしれませんね」

 見る目がない。全くその通りである。アルバン様はお父様の経営する商会のパーティーで会ったのだ。その時、アルバン様が声をかけてきて意気投合し、あっという間に婚約を結んだのである。
 あの時は私に好意的な感じだったけど当時からダナトフ子爵は資金繰りに苦労していた。だから最初からお金目的だったのかもしれない。

 本当に馬鹿ね……

 考えれば考えるほど自分が情けなくなっていく。すると、ウルフイット第三王子が私の顔を覗きこんでくる。

「勘違いするな。見る目がないのはあいつの方だ」
「えっ……」

 思わず驚いてしまうとウルフイット第三王子が頭をかきながら言ってきた。

「だ、だが、お前も少し見る目がないのは確かだな。よし、ちょっと来い。良いものを見せてやる」

 ウルフイット第三王子はさっさと歩きだしてしまう。私はどうして良いかわからないでいるとユリが声をかけてきた。

「お嬢様、付いていきましょう」
「えっ、でも……」
「私がついていますので、あらぬ疑いは持たれませんよ」
「そういう事じゃ……」
「はいはい、行きますよ」

 ユリは私の言葉なんか聞く気はないらしく背中を押してくる。そんな行動をするユリに私は諦め押されながら歩き出す。
 まあ、こういう時のユリの行動は後でいい方向にいくのだ。なので私はユリに押されながらウルフイット第三王子の後を付いていく。すると、ゴシック様式のお洒落なカフェに到着した。
 思わずウルフイット第三王子を見てしまうと、頬をかきながら言ってきた。

「ここの紅茶は王宮で出されるものより香りが良いんだ」
「……そうなのですか?」
「ああ、それで王宮におろせないか交渉したが断られた。飲みたきゃ来いってな。だから、こうやって通ってるんだ」
「お、王族にそんな態度とは……。ずいぶんと強気なお店なのですね……」

 思わず驚いてしまう。今の話を聞く限り王家に喧嘩を売ってるようなものだからだ。

 とんでもないお店ね……

 私は経営者が辿る末路を想像して憐れんでいると、ウルフイット第三王子は不敵な笑みを浮かべる。

「ちなみにお前の子爵家が経営してる店だぞ」
「えっ⁉︎」

 私はウルフイット第三王子に言われお店の看板を凝視する。確かにうちの家紋が入っていた。
 その瞬間、私は血の気が引いてしまい、思わずフラついてしまう。ウルフイット第三王子が慌てて私を抱き止めてくれた。
 そして、あろうことか頭を下げてきたのだ。

「刺激が強すぎたか。すまない」
「い、いえ……」
「別にどうこうしようなんて思ってないから安心してくれ。むしろ、気にいってる店なんだ」
「そ、そうなのですか」

 私はそう言いながらなんとか一人で立つ事ができたので、ウルフイット第三王子から離れようとする。しかし、何故か肩を掴まれてしまう。

「あ、あの……」
「なんだ?」
「あ、いえ……」

 度胸のない私は肩から手を離して欲しいとは言えなかった。だから、ユリに思わず目を向けたのだが微笑まれるだけだった。
 おかげで私はウルフイット第三王子にエスコートされ、何故か店内に入店することになってしまったのである。



 どうしてこうなってしまったの……

 私の頭の中は疑問だらけになっている。それはそうだろう。ウルフイット第三王子と紅茶を一緒に飲んでいるから。
 もちろんユリが側にいるから決して不貞行為には当たらない。それに今の私はそれを気にする余裕はない。

 それにしても……

 私はウルフイット第三王子をチラッと見る。美しき銀狼と呼ばれている理由がよくわかる。
 まあ、私には冷酷な牙のイメージの方が強いが。なにせいくら美しいお顔でも私にとっては例の件もあるので恐怖しかない。
 お礼も兼ねて私をどう思っているのか探ろうと考えていた過去の自分を恨みたい。そんな事を思いながら必死に震えそうになる手を押さえ恐怖のあまり味が全くわからない紅茶を飲んでいると、突然ウルフイット第三王子が口を開いたのだ。

「……俺が怖いか?」

 その問いにはもちろん答えられるはずない。本当の事を言ったら終わりだと思っているから。
 だけど、嘘をついてもそれは違うと思ったのだ。するとウルフイット第三王子は紅茶を一口飲むと話題を変えてきた。

「あのクッキーはこの紅茶を使ってるのだろう。しかも曜日で茶葉を変えている。月曜と水曜はダージリン、火曜と木曜はカモミール、金曜はセージだ」

「えっ……」

 驚いてウルフイット第三王子を見つめてしまった。

 どうして知ってるの?
 
 私は頭の中が疑問だらけになっていると、ウルフイット第三王子は私を見つめてきた。

「アルバンが食べないからいつも俺がもらっていた」
「……ああ、そういうことでしたか」

 腑に落ちてしまった。やっぱり、アルバン様は……

 思わず苦笑してしまう。自分一人で舞い上がっていた事に。すると、口元が笑っている私を見たウルフイット第三王子が怪訝な顔をする。

「落ち込まないのか?」
「なぜ落ち込むのですか?」

 私は不敬だと思ったが逆に聞き返す。ウルフイット第三王子は目を丸くしたがすぐに真顔になる。

「アルバンの事をどう思ってる?」
「なぜ聞くのです?」

 また逆に聞き返してしまう。正直、自暴自棄になってしまっていたのだ。そんな私にウルフイット第三王子は答えた。

「お前があいつと婚約関係を解消したいなら手を貸そうと思ってるからだ」
「えっ……」

 耳を疑ってしまった。今、この人は何を言ったのだろうと。すると、ウルフイット第三王子は再び言ってくる。

「お前がアルバンと婚約関係を解消したいなら手を貸す」

 今度はちゃんと理解できた私は驚いて立ち上がってしまう。

「私とアルバン様が……」

 そう呟いた後、ゆっくり視線を向けるとウルフイット第三王子は頷いたのだ。
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