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「お待ち下さい! フリージア様ぁ!」
大声と大股で向かってくるテレシア様に私は目眩がしてしまったが、なんとか作り笑顔を浮かべ返事をかえす。
「テレシア様、どうされましたか? 私はもうあなた方の邪魔をする気はないのですが……」
「それじゃあ、凄く困るのよぉ」
私はテレシア様にそう言われ一瞬、思考が止まってしまう。この方は何を言ったのだろうと。
困る? 邪魔をして欲しいという事?
「なぜ?」
私は思わず、心の声が出てしまう。するとテレシア様は不気味な笑みを浮かべる。
「だってぇ、あなたが私を虐めてくれないとアルフレッド様の好感度が上がらないのよねぇ。だからぁ、私をもっと虐めなさいよねぇ」
正直、何を言ってるのかわからなかった。もしかしたら、母国語じゃない言葉を話してるのかと思ってしまい、私は覚えていた異国の言葉を思い出していく。
しかし、テレシア様というわけのわからない存在に接してしまい頭がくらくらしていたのだ。だから、何も思い出すことができずにいると、またテレシア様がわけのわからない事を言ってくる。
「ちょっと早いけど階段落ち行っちゃうぅーー? きゃあぁーー。きゃあぁーー。もっと高い声を出した方が良いかしらね? あっ、あっ、テステス」
テレシア様はなんだかよくわからない事を言い出し始める。つい私はその言葉は何語でしょうかと聞こうとした瞬間、強い立ち眩みがきて足がもつれてしまったのだ。
私は思わず目を閉じてしまったが、気づくと天井を見上げていた。
何が起きたのかしら? とにかく床で寝るなんてはしたないわ。起きないと……
私はそう思い急いで体を起こそうとしたが、頭やら体中が痛む事に気づく。すると、エドガー様が私を覗き込む様に見て必死に何か言ってきた。
えっ?
しかし、エドガー様の声は私の耳には全く聞こえず、その内、エドガー様は涙目になってしまう。私はそんなエドガー様を見て思わず愛おしくなり、心の中に封じ込めていた思いが出てしまう。
エドガー、あなたと一緒に生きたかったわ。
そう思ったと同時に私の視界は真っ暗になったのだった。
◇
気がつくと自分の部屋に横になっていた。私が目を覚ました事に気づいた侍女が屋敷中に響き渡る声で叫んだ。
「お嬢様が起きられましたあーーーー‼︎」
その瞬間、屋敷中が大騒ぎになり私の部屋にお父様とお母様に主治医が入ってきた。
「おおっ、愛しのフリージアが目を覚ました!」
「フリージア! 良かったあ!」
「皆様、お嬢様のお体に障りますのでお静かに……」
主治医の一言に二人は静かになったが、やはり心配そうな表情で私を覗き込んでくる。そんな二人を一瞥した主治医は私を一通り診察した後に質問してきた。
「お嬢様は目が覚める前に何が起きたか覚えておいでですか?」
「……確か階段の近くでテレシア様に呼び止められて、異国語で話しかけられて……その時、目眩を感じてふらついてしまって……その後、気づくと天井を見上げていた感じですね……」
「ふむ、これなら記憶の方は大丈夫でしょう」
主治医の言葉にお父様とお母様は心底ほっとした様な表情になる。そんな二人を見て私はつい尋ねてしまう。
「私はそんなに危なかったのですか?」
「そうよ、階段から落ちて全身打撲に頭から血を流してたの。しかも、一週間も目を覚まさなかったのよ」
「私達はこの一週間まともに食事が喉に通らなかったよ……」
そう言うお父様やお母様はかなりやつれていた。
「ごめんなさい、お父様、お母様……」
「何を言ってるんだい。フリージアは何も悪くないんだよ」
「そうよ、悪いのは皆……いいえ、まずはフリージアが元気になる事が先決だわ」
「では、その為にはお嬢様は少しお休み下さい」
主治医はそう言って私に薬を飲ませると、私はあっという間に夢の世界へと落ちたのだった。
◇
私が目を覚ましてから二週間経った。その間、何も教えてもらえなかったが一つだけわかっていたことがある。それは私の部屋に飾られている花である。
エドガー様が毎日の様に来て花を渡しているらしいのだ。私は毎日増えていく花を見て楽しんでいると、セーラ様とアイリス様がお見舞いに来てくれた。
「フリージア様、元気になられて良かったですわ」
「フリージア様、心配しましたわ」
「セーラ様もアイリス様も来てくれて嬉しいわ」
「私達、本当はもっと早く来たかったのですが……」
「きっと、忙しかったのでしょう」
私がそう言うと、二人は顔を見合わせた後に頷く。
「あの階段の事故の後、騎士団が動いて違法取引をしていたドナール男爵とヌース商会が捕まり、その関係者も取り調べを受けていたのです」
アイリス様がそう言うとセーラ様が引き継ぐように喋りだす。
「そこから、色々と広がって一時期、レンブラント王国内は大騒ぎになったのですよ。まあ、今はだいぶ落ち着いてきましたが、おそらく貴族間は当分、この話で持ちきりですよ」
「……そうだったのですか」
まさか、私が寝ている間にそんな事が……。しかし、ドナール男爵は捕まったのね。
「あっ、そうなるとテレシア様は?」
「元ドナール男爵令嬢は一番厳しい修道院に連れて行かれましたわ」
「沢山の殿方と不貞行為をしていたのがバレたみたいですよ」
そう言ってくる二人は満面の笑顔だった。しかし、私はテレシア様が行った修道院に異国語を喋れる人がいるのか心配になっていた。
後で手紙を書こうかしら? まあ、母国語も喋れるし大丈夫よね。それより……
「……アルフレッド様やジラール様にベント様はどうなったのですか? 三人は不正を調べていたのですよね?」
そう聞くとアイリス様が答えてくれた。
「第二王子、ブランド伯爵令息、ダリル子爵令息のお三方はご自分達がドナール男爵家の不正を暴いたと主張したんですが、もちろん聞き入れられませんでした。なんせ、有力な情報を一つも提示できなかったんですからね。騎士団が大量の報告書を見せたら黙ってしまいましたよ。もちろん、誰かみたいに遊びでやっていたのではなく、水面下でしっかりと動いていたという言葉も忘れずに言ったそうです」
「そう……。じゃあ、もう三人は前みたいに戻られたの?」
私はそう聞きながらも不安になってしまう。はたして自分はアルフレッド様とこの先一緒にやっていけるのだろうかと……。しかし、その考えは杞憂に終わった。
「お三方は今回の件でかなりご家族に絞られたそうですわ。ちなみにベント様と私はフリージア様が事故に遭われた日に婚約解消をしました。今は騎士団のサンターナ様と婚約話が上がっているんです」
そう言って赤くなった自分の両頬に手を添えるアイリス様を見て、私は思わず手を合わせて喜ぶ。
「まあ、あの太陽の子と言われるサンターナ様ですか⁉︎」
「ええ、色々と相談をしているうちに、どうやら私の心も溶かされてしまったみたいですわ」
「良かったですわね」
赤くなったアイリス様を見て私まで温かくなっていると、セーラ様も嬉しそうに言ってきた。
「私もしっかりと違約金を頂き、向こうに問題ありという事で婚約破棄をしましたわ」
「ジラール様、破棄になってしまったのね……」
「当然ですよ。ちなみに今は三つの鉱山を持つルーセント辺境伯の御子息と縁談が上がっていますわ」
「まあ、レンブラント王国と対等と言われるあのルーセント辺境伯と!」
「はい、ジラール様が馬鹿な事をしてくれた事に感謝ですわ」
「そう……二人とも幸せを手に入れられそうね。おめでとう」
自分のことの様に嬉しく思っていると、二人は私に微笑んでくる。
「何言ってるんですか」
「そうですよ、フリージア様だって幸せになるんですよ」
二人がそう言うと同時に部屋にお父様とお母様が入ってきた。しかし、私の視線はその後ろに行ってしまった。何故なら二人の後ろに緊張した様子のエドガー様がいたから。
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私はテレシア様にそう言われ一瞬、思考が止まってしまう。この方は何を言ったのだろうと。
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「なぜ?」
私は思わず、心の声が出てしまう。するとテレシア様は不気味な笑みを浮かべる。
「だってぇ、あなたが私を虐めてくれないとアルフレッド様の好感度が上がらないのよねぇ。だからぁ、私をもっと虐めなさいよねぇ」
正直、何を言ってるのかわからなかった。もしかしたら、母国語じゃない言葉を話してるのかと思ってしまい、私は覚えていた異国の言葉を思い出していく。
しかし、テレシア様というわけのわからない存在に接してしまい頭がくらくらしていたのだ。だから、何も思い出すことができずにいると、またテレシア様がわけのわからない事を言ってくる。
「ちょっと早いけど階段落ち行っちゃうぅーー? きゃあぁーー。きゃあぁーー。もっと高い声を出した方が良いかしらね? あっ、あっ、テステス」
テレシア様はなんだかよくわからない事を言い出し始める。つい私はその言葉は何語でしょうかと聞こうとした瞬間、強い立ち眩みがきて足がもつれてしまったのだ。
私は思わず目を閉じてしまったが、気づくと天井を見上げていた。
何が起きたのかしら? とにかく床で寝るなんてはしたないわ。起きないと……
私はそう思い急いで体を起こそうとしたが、頭やら体中が痛む事に気づく。すると、エドガー様が私を覗き込む様に見て必死に何か言ってきた。
えっ?
しかし、エドガー様の声は私の耳には全く聞こえず、その内、エドガー様は涙目になってしまう。私はそんなエドガー様を見て思わず愛おしくなり、心の中に封じ込めていた思いが出てしまう。
エドガー、あなたと一緒に生きたかったわ。
そう思ったと同時に私の視界は真っ暗になったのだった。
◇
気がつくと自分の部屋に横になっていた。私が目を覚ました事に気づいた侍女が屋敷中に響き渡る声で叫んだ。
「お嬢様が起きられましたあーーーー‼︎」
その瞬間、屋敷中が大騒ぎになり私の部屋にお父様とお母様に主治医が入ってきた。
「おおっ、愛しのフリージアが目を覚ました!」
「フリージア! 良かったあ!」
「皆様、お嬢様のお体に障りますのでお静かに……」
主治医の一言に二人は静かになったが、やはり心配そうな表情で私を覗き込んでくる。そんな二人を一瞥した主治医は私を一通り診察した後に質問してきた。
「お嬢様は目が覚める前に何が起きたか覚えておいでですか?」
「……確か階段の近くでテレシア様に呼び止められて、異国語で話しかけられて……その時、目眩を感じてふらついてしまって……その後、気づくと天井を見上げていた感じですね……」
「ふむ、これなら記憶の方は大丈夫でしょう」
主治医の言葉にお父様とお母様は心底ほっとした様な表情になる。そんな二人を見て私はつい尋ねてしまう。
「私はそんなに危なかったのですか?」
「そうよ、階段から落ちて全身打撲に頭から血を流してたの。しかも、一週間も目を覚まさなかったのよ」
「私達はこの一週間まともに食事が喉に通らなかったよ……」
そう言うお父様やお母様はかなりやつれていた。
「ごめんなさい、お父様、お母様……」
「何を言ってるんだい。フリージアは何も悪くないんだよ」
「そうよ、悪いのは皆……いいえ、まずはフリージアが元気になる事が先決だわ」
「では、その為にはお嬢様は少しお休み下さい」
主治医はそう言って私に薬を飲ませると、私はあっという間に夢の世界へと落ちたのだった。
◇
私が目を覚ましてから二週間経った。その間、何も教えてもらえなかったが一つだけわかっていたことがある。それは私の部屋に飾られている花である。
エドガー様が毎日の様に来て花を渡しているらしいのだ。私は毎日増えていく花を見て楽しんでいると、セーラ様とアイリス様がお見舞いに来てくれた。
「フリージア様、元気になられて良かったですわ」
「フリージア様、心配しましたわ」
「セーラ様もアイリス様も来てくれて嬉しいわ」
「私達、本当はもっと早く来たかったのですが……」
「きっと、忙しかったのでしょう」
私がそう言うと、二人は顔を見合わせた後に頷く。
「あの階段の事故の後、騎士団が動いて違法取引をしていたドナール男爵とヌース商会が捕まり、その関係者も取り調べを受けていたのです」
アイリス様がそう言うとセーラ様が引き継ぐように喋りだす。
「そこから、色々と広がって一時期、レンブラント王国内は大騒ぎになったのですよ。まあ、今はだいぶ落ち着いてきましたが、おそらく貴族間は当分、この話で持ちきりですよ」
「……そうだったのですか」
まさか、私が寝ている間にそんな事が……。しかし、ドナール男爵は捕まったのね。
「あっ、そうなるとテレシア様は?」
「元ドナール男爵令嬢は一番厳しい修道院に連れて行かれましたわ」
「沢山の殿方と不貞行為をしていたのがバレたみたいですよ」
そう言ってくる二人は満面の笑顔だった。しかし、私はテレシア様が行った修道院に異国語を喋れる人がいるのか心配になっていた。
後で手紙を書こうかしら? まあ、母国語も喋れるし大丈夫よね。それより……
「……アルフレッド様やジラール様にベント様はどうなったのですか? 三人は不正を調べていたのですよね?」
そう聞くとアイリス様が答えてくれた。
「第二王子、ブランド伯爵令息、ダリル子爵令息のお三方はご自分達がドナール男爵家の不正を暴いたと主張したんですが、もちろん聞き入れられませんでした。なんせ、有力な情報を一つも提示できなかったんですからね。騎士団が大量の報告書を見せたら黙ってしまいましたよ。もちろん、誰かみたいに遊びでやっていたのではなく、水面下でしっかりと動いていたという言葉も忘れずに言ったそうです」
「そう……。じゃあ、もう三人は前みたいに戻られたの?」
私はそう聞きながらも不安になってしまう。はたして自分はアルフレッド様とこの先一緒にやっていけるのだろうかと……。しかし、その考えは杞憂に終わった。
「お三方は今回の件でかなりご家族に絞られたそうですわ。ちなみにベント様と私はフリージア様が事故に遭われた日に婚約解消をしました。今は騎士団のサンターナ様と婚約話が上がっているんです」
そう言って赤くなった自分の両頬に手を添えるアイリス様を見て、私は思わず手を合わせて喜ぶ。
「まあ、あの太陽の子と言われるサンターナ様ですか⁉︎」
「ええ、色々と相談をしているうちに、どうやら私の心も溶かされてしまったみたいですわ」
「良かったですわね」
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「私もしっかりと違約金を頂き、向こうに問題ありという事で婚約破棄をしましたわ」
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「当然ですよ。ちなみに今は三つの鉱山を持つルーセント辺境伯の御子息と縁談が上がっていますわ」
「まあ、レンブラント王国と対等と言われるあのルーセント辺境伯と!」
「はい、ジラール様が馬鹿な事をしてくれた事に感謝ですわ」
「そう……二人とも幸せを手に入れられそうね。おめでとう」
自分のことの様に嬉しく思っていると、二人は私に微笑んでくる。
「何言ってるんですか」
「そうですよ、フリージア様だって幸せになるんですよ」
二人がそう言うと同時に部屋にお父様とお母様が入ってきた。しかし、私の視線はその後ろに行ってしまった。何故なら二人の後ろに緊張した様子のエドガー様がいたから。
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