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寂しい会いたい
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ちゅ。
合わせられる唇は、身体を抑え込む力に対して優しい。
かわいい音を立てて、合わせては離れる。
ちゅ。
ちゅ。
何度も角度を変えて合わせられるけど、不思議と怖くなかった。
戯れるようなバードキス。
あたしはゆきさん相手にそんな気にならないし、ゆきさんも唇を合わせるだけで、舌をのばして舐めることすらしてこない。
「裕子さん……逃げないの?」
「どうしてもしたいんだったら、付き合ってあげてもいいわよ」
「それはお付き合いしましょう的な?」
「一回くらいなら、お試しするのもやぶさかではないなって方向で」
「なるほど」
あたしの目を覗き込んでから、ゆきさんは、右の耳にキスを落とした。
「ホントにいいの?」
どうしてだろう。
元夫と気持ちが通じていた時は、こんな体勢になったら心が震えた。
別れ話の途中で、誤魔化すように押し倒された時はもっと、頭の奥が冴えわたってた気がする。
なのに、今は何にも思わない。
いいとも悪いとも。
それよりゆきさんが本当にいいのか、その目の奥を覗き返してしまう。
「いいわよ」
「裕子さん、男前だなぁ」
「それでゆきさんが納得するなら、いい。逃げるためにあたしを抱くんでも、別にかまわないわよ」
「そうなんだ」
「ゆきさんだからね」
あたしを助けてくれた人だから。
だからいいよ、そういって瞳の奥を覗き込めば、そこにあるのはすがりつくような色。
あたしを抱きたいっていう欲情じゃなくて、小さい子供が泣くのをこらえているかのような、そんな感じ。
「悲しいの?」
「どうして?」
「寂しい?」
「そうだね、その方が近いかな」
ゆきさんがあたしの顔を見ながら、手探りでトップスをたくしあげる。
薄い手のひら。
下着をよけて素肌に触れても、触っているなと思うだけで、熱は感じない。
「その人に、会いたいの?」
「会いたくない」
「どうして?」
「会うと別れなきゃいけなくなるから」
「あたしともそうよ?」
「裕子さんは……違う。違うんだ、そうじゃなくて……」
「ゆきさん、正直に言っていいのよ。ここには、ゆきさんとあたししかいないんだから。その人に、会いたいんでしょ?」
「……会いたい」
呟いたゆきさんの瞳から、ポロリと涙がこぼれた。
こうしていさせて。
そう、ゆきさんが望んだから、あたしはおとなしく身を任せる。
床に座ってソファにもたれたゆきさんの脚の間にあたし。
背後から抱きこまれた形になって、ゆきさんはあたしの首筋に顔を埋める。
それからぽつりぽつりと、ゆきさんの口から、ゆきさんのお相手のことが語られた。
実の伯父さん、ですって。
子どもの頃から憧れていて、追いかけていたんだってゆきさんは言った。
義務教育の終盤に、求められて身体を重ねてから、もう、何年もの間そういう関係なのだという。
ゆきさんは相手が自分にほだされてくれたと言っているけど、そんな訳ないじゃない。
合意で身体を重ねたなら全部が等分だと、あたしは思う。
これじゃいけないと他の人と付き合ったこともあるけど、でも結局その人のところに戻ってしまうのだと、ゆきさんは言った。
誰に止められても諭されても、自分の根幹にその人の存在があるのだと。
「二親等だし男同士だし、倫理的におかしいのはわかってるんだけどね」
ものすごく悪いことをしているかのような口ぶりで自嘲するように言うから、鼻で笑ってしまった。
「裕子さん……笑った?」
「笑った」
「酷いな」
「どうして?」
「笑うようなことだった?」
「うん」
だってそうじゃない。
笑っちゃうでしょ。
合わせられる唇は、身体を抑え込む力に対して優しい。
かわいい音を立てて、合わせては離れる。
ちゅ。
ちゅ。
何度も角度を変えて合わせられるけど、不思議と怖くなかった。
戯れるようなバードキス。
あたしはゆきさん相手にそんな気にならないし、ゆきさんも唇を合わせるだけで、舌をのばして舐めることすらしてこない。
「裕子さん……逃げないの?」
「どうしてもしたいんだったら、付き合ってあげてもいいわよ」
「それはお付き合いしましょう的な?」
「一回くらいなら、お試しするのもやぶさかではないなって方向で」
「なるほど」
あたしの目を覗き込んでから、ゆきさんは、右の耳にキスを落とした。
「ホントにいいの?」
どうしてだろう。
元夫と気持ちが通じていた時は、こんな体勢になったら心が震えた。
別れ話の途中で、誤魔化すように押し倒された時はもっと、頭の奥が冴えわたってた気がする。
なのに、今は何にも思わない。
いいとも悪いとも。
それよりゆきさんが本当にいいのか、その目の奥を覗き返してしまう。
「いいわよ」
「裕子さん、男前だなぁ」
「それでゆきさんが納得するなら、いい。逃げるためにあたしを抱くんでも、別にかまわないわよ」
「そうなんだ」
「ゆきさんだからね」
あたしを助けてくれた人だから。
だからいいよ、そういって瞳の奥を覗き込めば、そこにあるのはすがりつくような色。
あたしを抱きたいっていう欲情じゃなくて、小さい子供が泣くのをこらえているかのような、そんな感じ。
「悲しいの?」
「どうして?」
「寂しい?」
「そうだね、その方が近いかな」
ゆきさんがあたしの顔を見ながら、手探りでトップスをたくしあげる。
薄い手のひら。
下着をよけて素肌に触れても、触っているなと思うだけで、熱は感じない。
「その人に、会いたいの?」
「会いたくない」
「どうして?」
「会うと別れなきゃいけなくなるから」
「あたしともそうよ?」
「裕子さんは……違う。違うんだ、そうじゃなくて……」
「ゆきさん、正直に言っていいのよ。ここには、ゆきさんとあたししかいないんだから。その人に、会いたいんでしょ?」
「……会いたい」
呟いたゆきさんの瞳から、ポロリと涙がこぼれた。
こうしていさせて。
そう、ゆきさんが望んだから、あたしはおとなしく身を任せる。
床に座ってソファにもたれたゆきさんの脚の間にあたし。
背後から抱きこまれた形になって、ゆきさんはあたしの首筋に顔を埋める。
それからぽつりぽつりと、ゆきさんの口から、ゆきさんのお相手のことが語られた。
実の伯父さん、ですって。
子どもの頃から憧れていて、追いかけていたんだってゆきさんは言った。
義務教育の終盤に、求められて身体を重ねてから、もう、何年もの間そういう関係なのだという。
ゆきさんは相手が自分にほだされてくれたと言っているけど、そんな訳ないじゃない。
合意で身体を重ねたなら全部が等分だと、あたしは思う。
これじゃいけないと他の人と付き合ったこともあるけど、でも結局その人のところに戻ってしまうのだと、ゆきさんは言った。
誰に止められても諭されても、自分の根幹にその人の存在があるのだと。
「二親等だし男同士だし、倫理的におかしいのはわかってるんだけどね」
ものすごく悪いことをしているかのような口ぶりで自嘲するように言うから、鼻で笑ってしまった。
「裕子さん……笑った?」
「笑った」
「酷いな」
「どうして?」
「笑うようなことだった?」
「うん」
だってそうじゃない。
笑っちゃうでしょ。
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