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いつもの職場
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職場に到着。
って一言で言っても、到着してから自分のデスクまでが遠い。
あたしの職場は、大学の図書館。
正確には、学校法人の図書館勤務で配属先が大学の本館。
なので、守衛さんの常駐する門をくぐって、大学図書館の職員通用口で入館証を通して、ロッカールームで着替えてから事務室に出勤ってなる。
あたしは、通勤の時の服とその日の作業内容によって、変えている。
制服があるわけでもないので、比較的緩い服装基準なのはありがたい。
何せ扱うのが書籍。
知ってた?
本って結構汚れているのよ。
紙って埃を吸うものだから、一見、なんてことないように見えてもこれが結構汚れている。
扱いが雑だとホントに「何これ?」っていう汚れがついて戻ってきたりするしね。
なので、あたしは通勤用の服と勤務用の服は、一式全部着替えるわけじゃないにせよ、ちょっと気をつけることにしている。
ブラウスを取り換えるとか、館内では自前の専用のジャケットを着るとか、支給されたデニムエプロンはちゃんと利用するとか。
そんな程度のことだけど。
女子は大体あたしと同じ感じ。
ずっとエプロンを使ってる正職員女子は、寿退職が決まっている山本美弥子ちゃんくらいのもの。
因みにデニムのエプロンは二十人ほどいる職員・バイト、全員に支給されているけど、使うのは各自に任されている。
「おはようございます」
「はい、おはよう」
挨拶しながらデスクについたら、ぽつぽつとあちこちから声が返ってくる。
たとえば課長はスーツでデスクワークが主だから、ほぼ使わない。
後輩の椎くんは会議やパソコン作業ではスーツ姿だけど、書庫に入る時にだけは着用。
逆に、バイトのハルタくんは名札を付けていても学生さんに紛れてしまうから、基本的には常に着用している。
自分のデスクについて今日の予定を確認していたら、受けていた電話を切った椎くんが、ホワイトボードに文字を書き込みはじめた。
「何? ハルタくん、休み?」
「熱出したらしいですよ」
「あらま。昨夜は元気そうだったのにね」
昨日一緒にタコパをしたバイトのハルタくんは、今日は欠勤なのだそうだ。
「看病する人がいなさそうだったんで、あとで、派遣しときます」
誰をどこに、が抜けているその言葉に突っ込みいれようかと思ったけど、そこはかとなく漂う自慢げな雰囲気に悟りました。
うん、そうね。
君をご主人さまのように慕ってるあの幼馴染くんは、確かに役に立ちそうな感じだものね。
だからって、椎くんが自慢げにすることじゃないのに。
多分、つきあいが長いからわかる、普段つんつんしてる椎くんの微妙な表情。
「君んとこのワンコを派遣?」
「多分、なんとかすると思うんで」
「見舞いなら、自分で行ってあげたらいいのに」
「俺が行っても邪魔なんで」
そこは、よく自分をわかってるねって言ってあげた方がいいのかなって気もしたけど、朝礼が始まるようだったので、言いそびれた。
それにしても一番若いハルタくんだけがダウンとは。
梅雨明け間近っていう時期のせいかな。
困ったものだねと思いながら、今日の仕事が始まる。
いつもの、日常。
始まりはそうだったし、そのつもりでいたのだけど。
実は厄日だったのかもしれないと思ったのは、終業間際のことだった。
って一言で言っても、到着してから自分のデスクまでが遠い。
あたしの職場は、大学の図書館。
正確には、学校法人の図書館勤務で配属先が大学の本館。
なので、守衛さんの常駐する門をくぐって、大学図書館の職員通用口で入館証を通して、ロッカールームで着替えてから事務室に出勤ってなる。
あたしは、通勤の時の服とその日の作業内容によって、変えている。
制服があるわけでもないので、比較的緩い服装基準なのはありがたい。
何せ扱うのが書籍。
知ってた?
本って結構汚れているのよ。
紙って埃を吸うものだから、一見、なんてことないように見えてもこれが結構汚れている。
扱いが雑だとホントに「何これ?」っていう汚れがついて戻ってきたりするしね。
なので、あたしは通勤用の服と勤務用の服は、一式全部着替えるわけじゃないにせよ、ちょっと気をつけることにしている。
ブラウスを取り換えるとか、館内では自前の専用のジャケットを着るとか、支給されたデニムエプロンはちゃんと利用するとか。
そんな程度のことだけど。
女子は大体あたしと同じ感じ。
ずっとエプロンを使ってる正職員女子は、寿退職が決まっている山本美弥子ちゃんくらいのもの。
因みにデニムのエプロンは二十人ほどいる職員・バイト、全員に支給されているけど、使うのは各自に任されている。
「おはようございます」
「はい、おはよう」
挨拶しながらデスクについたら、ぽつぽつとあちこちから声が返ってくる。
たとえば課長はスーツでデスクワークが主だから、ほぼ使わない。
後輩の椎くんは会議やパソコン作業ではスーツ姿だけど、書庫に入る時にだけは着用。
逆に、バイトのハルタくんは名札を付けていても学生さんに紛れてしまうから、基本的には常に着用している。
自分のデスクについて今日の予定を確認していたら、受けていた電話を切った椎くんが、ホワイトボードに文字を書き込みはじめた。
「何? ハルタくん、休み?」
「熱出したらしいですよ」
「あらま。昨夜は元気そうだったのにね」
昨日一緒にタコパをしたバイトのハルタくんは、今日は欠勤なのだそうだ。
「看病する人がいなさそうだったんで、あとで、派遣しときます」
誰をどこに、が抜けているその言葉に突っ込みいれようかと思ったけど、そこはかとなく漂う自慢げな雰囲気に悟りました。
うん、そうね。
君をご主人さまのように慕ってるあの幼馴染くんは、確かに役に立ちそうな感じだものね。
だからって、椎くんが自慢げにすることじゃないのに。
多分、つきあいが長いからわかる、普段つんつんしてる椎くんの微妙な表情。
「君んとこのワンコを派遣?」
「多分、なんとかすると思うんで」
「見舞いなら、自分で行ってあげたらいいのに」
「俺が行っても邪魔なんで」
そこは、よく自分をわかってるねって言ってあげた方がいいのかなって気もしたけど、朝礼が始まるようだったので、言いそびれた。
それにしても一番若いハルタくんだけがダウンとは。
梅雨明け間近っていう時期のせいかな。
困ったものだねと思いながら、今日の仕事が始まる。
いつもの、日常。
始まりはそうだったし、そのつもりでいたのだけど。
実は厄日だったのかもしれないと思ったのは、終業間際のことだった。
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