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白き灰がちになりてわろし 4
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外出届を出していたハルボンは、晩飯も外で食べるつもりだったらしい。
ワイワイと食事を終えて部屋にもどっても、顔を見せなかった。
点呼までに部屋にいなかったら色々と面倒なんだけどな。
しょうがないから、寮監室に迎えに行くかあと、部屋を出る。
まあちょっとだけデバガメっぽい下心があるのは否定しない。
だって、気になるじゃないか。
寮の入り口近くまで来たら、丁度寮監室から出てくるところで、すごく長い時間居座ってたんだと思った。
「ハルボ……ン?」
声をかけようと思ったら、様子が変なのに気がついた。
神妙な顔で寮監さんがハルボンの肩に手を置く。
「今は一人で寝込んでるわけじゃ、ないんだろ?」
「はい」
「お前の家っていう、正月に行く場所もできた。俺はそれで十分だと思うけどな」
「でも、歯痒いです」
「そりゃあ、お前、全部これからだよ。まあ焦んな」
ポンポンとなだめるように叩いた後、寮監さんは俺の方を見て、ハルボンに合図した。
「ほら、もう点呼だろ。お迎え来てるぞ」
「っす。ありがとうございました」
「おー。こっちこそ、ありがとな。生方によろしく言っといて」
「はい」
寮監さんはそのまま部屋に戻っていって、ハルボンは何にも言わないで俺の横を通り過ぎてったから、後ろをついて行く。
ハルボンは無言を貫いたままずんずんと歩いて行って、部屋に入ったらそのままベッドに転がって、顔の上に腕を置いた。
「いとーくんさあ、なんで?」
「何が?」
「何がって……」
言い澱んでたから先に質問してみた。
あんなに張り切って出かけて行ったのに、早々に帰ってきたりしたり、あんな暗い顔で寮監さんの部屋から出てきたり、今日のハルボンは予想外がいっぱいだ。
「俺も聞きたかったんだよ。何で、こんなに早く帰ってきたんだ? 寮監さんと何話してたの? お前もぶーさんも、寮監さんと親しいの?」
ベッドの上で片肘ついて、ハルボンがこっちを見る。
「え、それ、マジで聞きたいの?」
「気にはなるだろ?」
だって多分、カミヒは気にしている。
明日になったらサッキ―とタッグを組んで、本人には聞けないからって俺のとこに来るんだろうし。
「ええ、そうか? ええと、あの人はここの卒業生で、遠藤さんはその頃から寮監だったから世話になったんだって。で、早く帰ったのはあの人が体調悪そうだったから。あんまり丈夫じゃない人なんだ。そんで、頼まれモノ渡すついでに、昔の話聞いてた」
するすると答えるハルボンに嘘の気配はない。
でも、なんか胡散臭い。
「歯痒いってなんで?」
「聞こえてた?」
「ああ」
う~ん、って唸りながらハルボンは顔を隠す。
「今日会ったろ? めっちゃ、年上なんだよ」
「そうか?」
ぶーさんの顔を思い返しても、めっちゃというほど年上には思えなくて、首を傾げた。
社会人だなとは思ったけどそこまでか?
「あの人、あれでオレらより十歳上だから」
「え?」
「若々しい通り越してるだろ」
顔を上げて俺の顔を見たハルボンが、くくくっと笑う。
「歳も離れててこっちは学生で、オレもあの人もいろいろと家庭の事情とかあって、しかもあの人しょっちゅうぶっ倒れてんの。でも、何にもできなくて、めっちゃ悔しい」
ひとしきり笑った後、ハルボンは静かな声で言った。
その声はすごくホントの声に聞こえた。
何も返す言葉を思いつかなくて、ハルボンを見ていた。
部屋の外で、どたばたと音がする。
きっとどこかの部屋の奴が、点呼に間に合うように走り込んでる音がして、そのあとで俺たちの部屋のドアがノックされた。
何も言葉を交わさないままで、無事に今日の点呼を終えて、ふうと息をつく。
ワイワイと食事を終えて部屋にもどっても、顔を見せなかった。
点呼までに部屋にいなかったら色々と面倒なんだけどな。
しょうがないから、寮監室に迎えに行くかあと、部屋を出る。
まあちょっとだけデバガメっぽい下心があるのは否定しない。
だって、気になるじゃないか。
寮の入り口近くまで来たら、丁度寮監室から出てくるところで、すごく長い時間居座ってたんだと思った。
「ハルボ……ン?」
声をかけようと思ったら、様子が変なのに気がついた。
神妙な顔で寮監さんがハルボンの肩に手を置く。
「今は一人で寝込んでるわけじゃ、ないんだろ?」
「はい」
「お前の家っていう、正月に行く場所もできた。俺はそれで十分だと思うけどな」
「でも、歯痒いです」
「そりゃあ、お前、全部これからだよ。まあ焦んな」
ポンポンとなだめるように叩いた後、寮監さんは俺の方を見て、ハルボンに合図した。
「ほら、もう点呼だろ。お迎え来てるぞ」
「っす。ありがとうございました」
「おー。こっちこそ、ありがとな。生方によろしく言っといて」
「はい」
寮監さんはそのまま部屋に戻っていって、ハルボンは何にも言わないで俺の横を通り過ぎてったから、後ろをついて行く。
ハルボンは無言を貫いたままずんずんと歩いて行って、部屋に入ったらそのままベッドに転がって、顔の上に腕を置いた。
「いとーくんさあ、なんで?」
「何が?」
「何がって……」
言い澱んでたから先に質問してみた。
あんなに張り切って出かけて行ったのに、早々に帰ってきたりしたり、あんな暗い顔で寮監さんの部屋から出てきたり、今日のハルボンは予想外がいっぱいだ。
「俺も聞きたかったんだよ。何で、こんなに早く帰ってきたんだ? 寮監さんと何話してたの? お前もぶーさんも、寮監さんと親しいの?」
ベッドの上で片肘ついて、ハルボンがこっちを見る。
「え、それ、マジで聞きたいの?」
「気にはなるだろ?」
だって多分、カミヒは気にしている。
明日になったらサッキ―とタッグを組んで、本人には聞けないからって俺のとこに来るんだろうし。
「ええ、そうか? ええと、あの人はここの卒業生で、遠藤さんはその頃から寮監だったから世話になったんだって。で、早く帰ったのはあの人が体調悪そうだったから。あんまり丈夫じゃない人なんだ。そんで、頼まれモノ渡すついでに、昔の話聞いてた」
するすると答えるハルボンに嘘の気配はない。
でも、なんか胡散臭い。
「歯痒いってなんで?」
「聞こえてた?」
「ああ」
う~ん、って唸りながらハルボンは顔を隠す。
「今日会ったろ? めっちゃ、年上なんだよ」
「そうか?」
ぶーさんの顔を思い返しても、めっちゃというほど年上には思えなくて、首を傾げた。
社会人だなとは思ったけどそこまでか?
「あの人、あれでオレらより十歳上だから」
「え?」
「若々しい通り越してるだろ」
顔を上げて俺の顔を見たハルボンが、くくくっと笑う。
「歳も離れててこっちは学生で、オレもあの人もいろいろと家庭の事情とかあって、しかもあの人しょっちゅうぶっ倒れてんの。でも、何にもできなくて、めっちゃ悔しい」
ひとしきり笑った後、ハルボンは静かな声で言った。
その声はすごくホントの声に聞こえた。
何も返す言葉を思いつかなくて、ハルボンを見ていた。
部屋の外で、どたばたと音がする。
きっとどこかの部屋の奴が、点呼に間に合うように走り込んでる音がして、そのあとで俺たちの部屋のドアがノックされた。
何も言葉を交わさないままで、無事に今日の点呼を終えて、ふうと息をつく。
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