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ピンチです。
なにって、オレの冬の楽しみが。
記憶にある限りずっと、二月の後半には美味しいおやつが好きなだけ食べられていたのに。
なのに、今年はない。
多分さっきの様子だと、これからずっとない。
なんてこった!!
「いっちゃん、大変、聞いて! これからオレのおやつがピンチ!」
近所の幼馴染のいっちゃん家に駆けこんで、訴えた。
勝手知ったるなんとやらだから、二階のいっちゃんの部屋まで直通さ!
ベッドの上でゴロゴロしてるとこにのしかかっても、いつものことだからすっかり慣れちゃって、いっちゃんはオレにされるがままになってくれる。
「リク、話が見えん。最初から言ってみ?」
「だからさ、二月のオレのおやつがピンチなんだってば。さっき、しょうちゃんが帰ってきたら、朝のカバンしか持ってなかったん! で、すげえ困った顔して『忘れてたけどさあ、普通はバレンタインってあげる方なんだったよね……』って!」
「ああ、なるほど……しょうちゃん、今までもらう方だったもんね」
オレの訴えに、いっちゃんはうんうんと頷く。
しょうちゃんはオレの姉ちゃん。
自慢の、優しくて賢くて格好いい女子大生。
去年までは女子校に通っていて、バレンタインには山ほどお菓子を貰って行きよりも大荷物で帰ってきていたのに、今年は朝と同じカバンひとつだった。
つまり朝と荷物の量は変わってないってこと!
「で?」
「でって?」
そんで話の続きは? っていっちゃんが言うから、オレも首を傾げた。
だって、しょうちゃんがプレゼント貰ってきてくれなかったら、オレのおやつなくなる。
それは困るよねっていう話なんだけど?
「リクのおやつはさあ、しょうちゃんのプレゼント分けてもらわなくても、最近は俺んとこで食べてるんだからいいじゃん。夜に食べる分がないなら、うちから帰る時持っていけばいいっしょ? なんか問題ある?」
「あ、そっか」
そういえばそうだった。
腹の上にオレがのっかっているのは苦しかったのか、もぞもぞ身体を動かして、いっちゃんがオレをベッドに下ろす。
そんでオレの横に転がりなおした。
片肘ついて、オレをのぞき込んでくる。
その顔が格好良くって、何も問題ないよって言ってるみたいで、納得しそうになった。
あ、ちょっと待って、まだあった。
「問題あるよ。しょうちゃんに悪いムシついてないかチェックできない」
「チェック?」
「たくさんもらってきてたから、誰が何贈ってきてるのかって、オレが見てもしょうちゃんは怒らなかったんだよ。リスト作るのも悪くならないうちに食べるのもひとりじゃ無理だったから、手伝いってことでしょうちゃんが見てるとこでならオレが開封してよかったん。でも、カバン一個に収まるくらいなら、オレが手伝う必要ないから、オレがチェックできない」
「お前、何気にシスコンだよな……ってことは、今年も、ゼロじゃないんだ?」
「それすらわかんないんだよ! そうだ、おやつも困ってたけど、それも相談したいんだった! ねえ、しょうちゃんに恋人が出来ちゃったらどうしよう?!」
そう言ったとたんに、いっちゃん部屋の外からがたがたって音がした。
それから階段駆け下りる音と、玄関がばたんって閉まる音。
「なに?」
「ああ、今更気がついた人が慌ててる音だから、気にしなくていいよ」
いっちゃんがしょうがねえなあって顔した。
そんで、次にオレが口を開く前に、オレに覆いかぶさってきた。
「いっちゃん?」
「リクはさあ、しょうちゃんのお裾分けのおやつの方がいいの?」
「そういう質問は意地悪だと思う」
「だって、今日、しょうちゃんが貰ってくるおやつ気にしてるのも、大概だと思うけど?」
いっちゃんの顔がちょっと拗ねてて、かわいい。
そんで、オレは思い出してしまったのだ。
「あ、そっか……バレンタインってオレがあげてもいいんだ」
バレンタインはオレには関係ない日だと思ってた。
しょうちゃんがたくさんプレゼントを貰ってくる日、オレにとってはそれだけの日。
だから、自分が誰かにあげてもいいんだって、今の今まで気がつかなかった。
「おまっ……よりによって、そこからか~」
いっちゃんがオレの上に落ちてきて、ゲラゲラ笑う。
重い重いって暴れても全然離してくれなくて、くすぐったくて一緒になって笑った。
笑いすぎて喉がヒューヒューいいだしたとこで、いっちゃんがオレを開放して、机の上からかわいい袋を取って渡してくれた。
「大丈夫、俺は特製品、用意してるから。リクはホワイトデーにちょうだい」
「うん!」
ホントはさ。
しょうちゃんに恋人が出来ちゃうのは嫌なんだけど、でも、お前が言うなってのはわかってるんだ。
いっちゃんは幼馴染で、オレにたくさんおやつを食べさせてくれて、部屋に突撃しても、ベッドでのしかかっても、わけわかんない相談しても、許してくれる。
バレンタインデーに特製品くれる人。
オレがホワイトデーにお返しする一人だけの人。
オレの、大事な恋人。
待ってろ。
今年のホワイトデーはちゃんとお返しするからな!
そんで来年のバレンタインには、もっと特製品、オレから贈るから!
<end>
なにって、オレの冬の楽しみが。
記憶にある限りずっと、二月の後半には美味しいおやつが好きなだけ食べられていたのに。
なのに、今年はない。
多分さっきの様子だと、これからずっとない。
なんてこった!!
「いっちゃん、大変、聞いて! これからオレのおやつがピンチ!」
近所の幼馴染のいっちゃん家に駆けこんで、訴えた。
勝手知ったるなんとやらだから、二階のいっちゃんの部屋まで直通さ!
ベッドの上でゴロゴロしてるとこにのしかかっても、いつものことだからすっかり慣れちゃって、いっちゃんはオレにされるがままになってくれる。
「リク、話が見えん。最初から言ってみ?」
「だからさ、二月のオレのおやつがピンチなんだってば。さっき、しょうちゃんが帰ってきたら、朝のカバンしか持ってなかったん! で、すげえ困った顔して『忘れてたけどさあ、普通はバレンタインってあげる方なんだったよね……』って!」
「ああ、なるほど……しょうちゃん、今までもらう方だったもんね」
オレの訴えに、いっちゃんはうんうんと頷く。
しょうちゃんはオレの姉ちゃん。
自慢の、優しくて賢くて格好いい女子大生。
去年までは女子校に通っていて、バレンタインには山ほどお菓子を貰って行きよりも大荷物で帰ってきていたのに、今年は朝と同じカバンひとつだった。
つまり朝と荷物の量は変わってないってこと!
「で?」
「でって?」
そんで話の続きは? っていっちゃんが言うから、オレも首を傾げた。
だって、しょうちゃんがプレゼント貰ってきてくれなかったら、オレのおやつなくなる。
それは困るよねっていう話なんだけど?
「リクのおやつはさあ、しょうちゃんのプレゼント分けてもらわなくても、最近は俺んとこで食べてるんだからいいじゃん。夜に食べる分がないなら、うちから帰る時持っていけばいいっしょ? なんか問題ある?」
「あ、そっか」
そういえばそうだった。
腹の上にオレがのっかっているのは苦しかったのか、もぞもぞ身体を動かして、いっちゃんがオレをベッドに下ろす。
そんでオレの横に転がりなおした。
片肘ついて、オレをのぞき込んでくる。
その顔が格好良くって、何も問題ないよって言ってるみたいで、納得しそうになった。
あ、ちょっと待って、まだあった。
「問題あるよ。しょうちゃんに悪いムシついてないかチェックできない」
「チェック?」
「たくさんもらってきてたから、誰が何贈ってきてるのかって、オレが見てもしょうちゃんは怒らなかったんだよ。リスト作るのも悪くならないうちに食べるのもひとりじゃ無理だったから、手伝いってことでしょうちゃんが見てるとこでならオレが開封してよかったん。でも、カバン一個に収まるくらいなら、オレが手伝う必要ないから、オレがチェックできない」
「お前、何気にシスコンだよな……ってことは、今年も、ゼロじゃないんだ?」
「それすらわかんないんだよ! そうだ、おやつも困ってたけど、それも相談したいんだった! ねえ、しょうちゃんに恋人が出来ちゃったらどうしよう?!」
そう言ったとたんに、いっちゃん部屋の外からがたがたって音がした。
それから階段駆け下りる音と、玄関がばたんって閉まる音。
「なに?」
「ああ、今更気がついた人が慌ててる音だから、気にしなくていいよ」
いっちゃんがしょうがねえなあって顔した。
そんで、次にオレが口を開く前に、オレに覆いかぶさってきた。
「いっちゃん?」
「リクはさあ、しょうちゃんのお裾分けのおやつの方がいいの?」
「そういう質問は意地悪だと思う」
「だって、今日、しょうちゃんが貰ってくるおやつ気にしてるのも、大概だと思うけど?」
いっちゃんの顔がちょっと拗ねてて、かわいい。
そんで、オレは思い出してしまったのだ。
「あ、そっか……バレンタインってオレがあげてもいいんだ」
バレンタインはオレには関係ない日だと思ってた。
しょうちゃんがたくさんプレゼントを貰ってくる日、オレにとってはそれだけの日。
だから、自分が誰かにあげてもいいんだって、今の今まで気がつかなかった。
「おまっ……よりによって、そこからか~」
いっちゃんがオレの上に落ちてきて、ゲラゲラ笑う。
重い重いって暴れても全然離してくれなくて、くすぐったくて一緒になって笑った。
笑いすぎて喉がヒューヒューいいだしたとこで、いっちゃんがオレを開放して、机の上からかわいい袋を取って渡してくれた。
「大丈夫、俺は特製品、用意してるから。リクはホワイトデーにちょうだい」
「うん!」
ホントはさ。
しょうちゃんに恋人が出来ちゃうのは嫌なんだけど、でも、お前が言うなってのはわかってるんだ。
いっちゃんは幼馴染で、オレにたくさんおやつを食べさせてくれて、部屋に突撃しても、ベッドでのしかかっても、わけわかんない相談しても、許してくれる。
バレンタインデーに特製品くれる人。
オレがホワイトデーにお返しする一人だけの人。
オレの、大事な恋人。
待ってろ。
今年のホワイトデーはちゃんとお返しするからな!
そんで来年のバレンタインには、もっと特製品、オレから贈るから!
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