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スローライフ

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 今朝もおれはちゃんとジュタのままで目が覚めて、仏壇にむかってお経をあげた。

 あとは、のんびりとしている。
 『聖女』の時はさ、こっちのしきたりとか常識を勉強したり、言われるままに式典に出たり、色々とやることがあったけど今は違うから。

 のんびり暮らしだから、ホントに身の回りのことしかしない。
 ていったって、日本にいた時みたいに便利な家電があるわけじゃないから、すごく身体を使ってる。
 掃除は箒とはたきと雑巾で、洗濯はたらいを使ってする。
 自分で土をおこして畑を作るとこから始めての、農作業もする。
 森に入る時は採取作業。
 狩りや漁はおれには無理だった。
 切り身しか知らない現代男子ですまんって感じで。
 そんな生活そのものは、『令和日本で流行りのスローライフ』と思えばどうってことない。
 近くの村の人たちがいろいろと教えてくれるしね。
 家事の仕方から、畑仕事から、森での暮らしに至るまで。
 自分の仕事もあるだろうに、何くれとなくここに来て、無駄話をしながら手を動かしながら、おれに色んな事を教えてくれる。
 その風景はまるで、近所の人たちがばあちゃんに会いにきていた、とうちゃんの寺。
 おれはもう成人しているって何度も言っているのに、村の人たちはどうも半信半疑らしくって、心配だからって言うんだ。
 まあ、おれ、平均的日本人の外見でこっちの人からしたら小柄だし童顔だから、どうしても子ども扱いになるらしい。
 
 今日は畑仕事。
 家の裏側、物干しの横には小さな畑があって、おれはそこで育てるのが簡単な野菜と、鮮度が重要な薬草を育てている。
 『聖女』が作る薬は特別効きがいい……らしい。
 育てた材料で作ったり買った材料で作ったり、いろいろと試して、一番効き目のいい薬を探って、今では生活費のために作っているんだ。
 働かざる者、食うべからず。
 再度呼び出されたけど今度は帰れないっていうし、それならいつまでもお客さんでいちゃいけないでしょう。
 おれだって成人男子だからね。
 そんなことをしなくてもって、王宮からは言われた。
 だけど言葉に甘えて頼ってしまったとして、また誰かがおれに何かして、生活できなくなっちゃうのは怖いじゃないか。

「やあ、ジュタ、調子はどうだい?」

 草を抜いて一か所に集めてっていう作業をしていたら、声がした。
 森の方から家にやって来た、ミリヒ。
 ミリヒの家は森の中のどこかにある、妖精族の村。
 本来妖精族は自分たちの領域から出てこないんだそうだけど、ミリヒは『守人』なので、妖精族の村からでてあちこちに足を運ぶらしい。
 妖精族なんてゲームの中でしか見たことがなかった。

 色んな事を知るたびに、おれの常識との違いに驚いて、納得するときについうっかり思ってしまうのは『ゲームみたい』。
 こっちでは剣も魔法も不思議も妖精も魔獣も、身近にある。
 作り物でもなんでもなくて、それは、目の前にある現実。
 いかんいかんと思いなおして、ミリヒに手を振った。

「こんにちは、ミリヒ。悪くないよ。畑もいい感じ」
「そうか。それは良かった」
「そっちはどうなの? 『世界』のご機嫌はまだ悪い?」

 おれがこの世界から消えた時、『世界』が荒れたんだってさ。
 だからおれは呼び戻された。

「君が毎日きちんと祈りを捧げてくれているのに、そんな訳ないだろ?」
「だといいんだけどね」

 にこにこと笑うミリヒに、一応は役に立っているんだなって、ほっとする。
 時々おれの様子を見に来る王宮の人たちは、そうは思っていないようだ。
 王宮の中にある祈りの場と同じようにして、同じように祈って欲しいと、暗に告げてくる。
 いや、聖女時代に覚えさせられたからできるよ。
 できるんだけどね。
 でもおれ、もう、『聖女』じゃないから。

「ちょうど、休憩にしようと思ってたんだ。ミリヒ、お茶にしよう」

 ミリヒも来たことだしと、畑仕事にけりを付けて、おれは家の中にミリヒを招いた。


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