21 / 21
秋の怪談話
一陣の風
しおりを挟む
「じいさまを待つって言ったって、ウチのじいさまは死んだし、ここ何にもないじゃん。こんなとこで待つっていうのか? いつまで? っていうか、全然わけわかんないんだけど」
千代見は細い指でそっと押さえているだけなのに、何故かオレの手は動かせない。
なんだこれ。
誰かが遠くから今の様子を見ていたとしたら、二人で手を取り合って見つめあっているように見えるだろう。
だけどオレ、必死だからね。
訳わからんしもう内心冷や汗ダラダラよ。
「優太さまには信じていただけないやもしれませぬが……お話いたします」
千代見がそう前置きして話し始めたのは、信じられない話。
いやだって、人じゃないって言われたって、信じられないっしょ。
けどまあ、千代見の話はこうだ。
ウチのじいさまは、それはもう、丹精込めて菊を育てるヒトで、その腕前は名人通り越して仙人の域に達してたんだという。
何でそう言えるかっていうと、千代見が生まれたからだそうだ。
「わたくしは多比良さまの手による菊花の精……とでも申しましょうか。多比良さまが心血を注いてくださったので、わたくしは生まれました。それでずっと多比良さまのお手伝いをしていたのです。けれど多比良さまが此岸を離れてしまわれて、多比良さまの菊花は咲かず、わたくしは現身をなくしてしまったのです」
じいさまは死んだあと身軽になって、期間限定であちこち彷徨っているんだという。
その期間が一年。
じいさまが戻って彼岸に渡って菊の花を育てたら、その時はまた千代見は姿を現せることになっていたそうだ。
けど、千代見はそれを待てなかった。
少しでも早くにじいさまに会いたいと、姿はないまま嘆いていたんだってさ。
それを苅屋姫さまとかいう人? が同情して、力を貸してくれた。
縁のあるここにじいさまは必ず帰ってくるから、ここでじいさまを待つと約束したんだという。
「よくできた話だよね」
「わたくしにとっては真のことでございますから。姫さまは丞相にお話をしてくださいましたの。『飛梅がありなのでしたら、元の土がある場所で姿を持つくらい大したことはないでしょう』と。それで、わたくしはここに参ったのでございます」
ええと、もう、どこからどう突っ込んでいいんだかわからないんだけど。
うふふと笑ってもうすぐ会えると喜んでいるけど、相手のウチのじいさまは死んで彷徨っているんだろ?
それ、幽霊じゃん。
怪談話じゃん。
もう夏は終わったんですよ~って気分。
ありえねえ何この不審者なんとかしてよって思うのに、なんというか、この不審者がかわいいんだ。
素材というか造りもキレイだなって最初から思っていたけどさ、じいさまに会えるってワクワクしている感じが、すごいかわいいの。
あのじいさまのどこが良かったん? って聞きたい。
それくらいかわいい。
「多比良さまは菊の出荷をとても気にしておいででした。ですから、本当にじきなのです。ほんのしばしの間、こちらにあることを、お許しくださいませ」
両手を合わせて上目遣いにお願いポーズする和装ポニテの美少女って、これ、破壊力すげえんですが。
ってホントにこれ、どうしたらいいんだろう。
オレ、トホホって感じなんだけど。
「あのさ」
オレが口を開きかけた時、ざざ~って風が吹いた。
爽やかな草の香りが巻き上がる。
「多比良さま!」
千代見が喜びの声を上げた。
え? って振り向いたけど誰もいなくて、それで「いないじゃん」って言おうとしたら、千代見の姿もなくなっていた。
「え?」
え?
何、今の?
あたりはびっくりするほど菊の香りに満たされていて、でも、さっきまでいたはずの千代見はいなくて、オレは一人で畑の真ん中に立っていた。
なんだったんだ……
首をかしげながらも、水場の方に足を向けたら、片付けたはずのそこは、じいさまが作業の途中で席を立った時みたいな感じで、散らかっていた。
『出荷した後が大事だぞ。そこから来年に向けて、また、花を育てるんだ』
じいさまがそう言っていた姿を思い出す。
「いや、だからさあ……もう、秋なんだって……勘弁してよ……」
オレ、怪談話は苦手なんだよ。
もうわけわかんないし背中はぞわぞわしてくるし、涙目でオレは帰り支度をして畑を離れた。
社長に怒られてもいい。
今日はお終いだ。
明日、片付ける。
その晩夢の中で、オレはじいさまと千代見と三人で、菊の手入れをしていた。
じいさまは生きていた頃より柔らかく笑っていて、千代見がこの上なくかわいかった。
ホントに、かわいかったんだ。
これがオレがじいさまの後を追いかけようと、思ってしまったきっかけの、不思議の話。
千代見は細い指でそっと押さえているだけなのに、何故かオレの手は動かせない。
なんだこれ。
誰かが遠くから今の様子を見ていたとしたら、二人で手を取り合って見つめあっているように見えるだろう。
だけどオレ、必死だからね。
訳わからんしもう内心冷や汗ダラダラよ。
「優太さまには信じていただけないやもしれませぬが……お話いたします」
千代見がそう前置きして話し始めたのは、信じられない話。
いやだって、人じゃないって言われたって、信じられないっしょ。
けどまあ、千代見の話はこうだ。
ウチのじいさまは、それはもう、丹精込めて菊を育てるヒトで、その腕前は名人通り越して仙人の域に達してたんだという。
何でそう言えるかっていうと、千代見が生まれたからだそうだ。
「わたくしは多比良さまの手による菊花の精……とでも申しましょうか。多比良さまが心血を注いてくださったので、わたくしは生まれました。それでずっと多比良さまのお手伝いをしていたのです。けれど多比良さまが此岸を離れてしまわれて、多比良さまの菊花は咲かず、わたくしは現身をなくしてしまったのです」
じいさまは死んだあと身軽になって、期間限定であちこち彷徨っているんだという。
その期間が一年。
じいさまが戻って彼岸に渡って菊の花を育てたら、その時はまた千代見は姿を現せることになっていたそうだ。
けど、千代見はそれを待てなかった。
少しでも早くにじいさまに会いたいと、姿はないまま嘆いていたんだってさ。
それを苅屋姫さまとかいう人? が同情して、力を貸してくれた。
縁のあるここにじいさまは必ず帰ってくるから、ここでじいさまを待つと約束したんだという。
「よくできた話だよね」
「わたくしにとっては真のことでございますから。姫さまは丞相にお話をしてくださいましたの。『飛梅がありなのでしたら、元の土がある場所で姿を持つくらい大したことはないでしょう』と。それで、わたくしはここに参ったのでございます」
ええと、もう、どこからどう突っ込んでいいんだかわからないんだけど。
うふふと笑ってもうすぐ会えると喜んでいるけど、相手のウチのじいさまは死んで彷徨っているんだろ?
それ、幽霊じゃん。
怪談話じゃん。
もう夏は終わったんですよ~って気分。
ありえねえ何この不審者なんとかしてよって思うのに、なんというか、この不審者がかわいいんだ。
素材というか造りもキレイだなって最初から思っていたけどさ、じいさまに会えるってワクワクしている感じが、すごいかわいいの。
あのじいさまのどこが良かったん? って聞きたい。
それくらいかわいい。
「多比良さまは菊の出荷をとても気にしておいででした。ですから、本当にじきなのです。ほんのしばしの間、こちらにあることを、お許しくださいませ」
両手を合わせて上目遣いにお願いポーズする和装ポニテの美少女って、これ、破壊力すげえんですが。
ってホントにこれ、どうしたらいいんだろう。
オレ、トホホって感じなんだけど。
「あのさ」
オレが口を開きかけた時、ざざ~って風が吹いた。
爽やかな草の香りが巻き上がる。
「多比良さま!」
千代見が喜びの声を上げた。
え? って振り向いたけど誰もいなくて、それで「いないじゃん」って言おうとしたら、千代見の姿もなくなっていた。
「え?」
え?
何、今の?
あたりはびっくりするほど菊の香りに満たされていて、でも、さっきまでいたはずの千代見はいなくて、オレは一人で畑の真ん中に立っていた。
なんだったんだ……
首をかしげながらも、水場の方に足を向けたら、片付けたはずのそこは、じいさまが作業の途中で席を立った時みたいな感じで、散らかっていた。
『出荷した後が大事だぞ。そこから来年に向けて、また、花を育てるんだ』
じいさまがそう言っていた姿を思い出す。
「いや、だからさあ……もう、秋なんだって……勘弁してよ……」
オレ、怪談話は苦手なんだよ。
もうわけわかんないし背中はぞわぞわしてくるし、涙目でオレは帰り支度をして畑を離れた。
社長に怒られてもいい。
今日はお終いだ。
明日、片付ける。
その晩夢の中で、オレはじいさまと千代見と三人で、菊の手入れをしていた。
じいさまは生きていた頃より柔らかく笑っていて、千代見がこの上なくかわいかった。
ホントに、かわいかったんだ。
これがオレがじいさまの後を追いかけようと、思ってしまったきっかけの、不思議の話。
11
お気に入りに追加
9
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)
俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!
しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎
高校2年生のちょっと激しめの甘党
顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい
身長は170、、、行ってる、、、し
ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ!
そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、
それは、、、
俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!!
容姿端麗、文武両道
金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい)
一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏!
名前を堂坂レオンくん!
俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで
(自己肯定感が高すぎるって?
実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して
結局レオンからわからせという名のおしお、(re
、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!)
ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど
なんとある日空から人が降って来て!
※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ
信じられるか?いや、信じろ
腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生!
、、、ってなんだ?
兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる?
いやなんだよ平凡巻き込まれ役って!
あーもう!そんな睨むな!牽制するな!
俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!!
※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません
※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です
※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇♀️
※シリアスは皆無です
終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる