屋台の夜から暮らす猫

猫の侍

文字の大きさ
上 下
5 / 18

奇祭神転がし

しおりを挟む
20時になると
通りの真ん中を
神様に見立てた大きな人形が
神社から一本糸通りの端までを
駆け抜ける。

駆け抜けるというか
まるで大玉送りのように
人形が千里屋台のお客さんたちによって
端へ端へと投げてリレーされるのだ。

神転がしと呼ばれる奇祭だ。

猫を抱えた私の目の前を
神様が転がって行った。

「あれ!来てたの!」

親友と会ってしまった…
会うつもりは無かったしデートを譲った手前なんだか気まずい。

「今日から僕たち恋人になったんだ。」

初恋の男の子が私にそう告げた。
そんな気はしてた。
だからこその胸騒ぎだったのかもしれない。

「そうなんだ… お似合いだよ。お幸せにね…」

頭は空っぽなのに口からは
テンプレートのような言葉はちゃんと出た。

親友は何も言わずに彼の手を引いて立ち去った。
あの娘なりの気遣いと優しさだと分かっていた。
猫のことは何も聞かれなかった。

路地に戻って私は泣いた。
何もしないでいた私が
何かを言う資格もない。
それが分かっているから泣くしかなかった。
子猫が涙を舐めていた。

根っから優しいんだね君は…
しおりを挟む

処理中です...