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17 王権の儀式
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「佐一哲郎氏がお身内から抜けることにより、LCCも自然に消滅することになるでしょう。もちろん直観神理は、信者の皆さんの私生活の部分に大きく干渉する性格の信仰を強要することはございませんので、元LCCの皆さんが例えば佐一氏の会社、TNN等に関わったり、それに類似の活動を続けることについて非難したり、何か罰則を設けたりすることはございません。しかし当然、別館をお貸しすることは出来なくなります。ご理解いただきたいと思います」
会場の信者達の中から、ポツポツと拍手や歓声があがる。
「私からお身内の皆さんにお伝えしたいことは以上です。ご清聴を感謝いたします。最後になりますが、佐一哲郎氏の直観神理におけるご活動については、停滞していた教団に、ほどよい刺激を与えていただいた、という意味で素直に感謝いたしております。ありがとうございました。今後のご活躍を心より期待しております」
ゆっくり、淀みなく話し終えると、科乃はペコリと頭を下げて、しずしずと壇上を降りて行った。
その途端、会場内に割れんばかりに喝采がこだまする。
収容がつかなくなりそうなので、慌てて講務長が壇上に上がって何事か信者に呼びかけようとしたところで、動画は終わった。
よく聞いてみると、かなりトゲを含んだ言い方も散見されるのだが、不思議とそういう風に感じないのは科乃の人徳だろうか、と守が考えていると、
「狙いすましたタイミング、ってやつですね」
と須軽が呟く。
「これって、直観神理の祭りの日だったんでしょう? 僕らがLCCに行ったのと直接的な関連あるんですかね?」
守が口を開くと、当然です、と未夜がすぐさま嘴を入れる。
「全てを見越してたに決まってます。そういう人間です」
私はあの人苦手です、と、以前にも言ったような台詞を未夜は繰り返した。
「しかし、佐一哲郎はよっぽど嫌われてたんですね。拍手喝采受けてたじゃないですか」
「そうそう。野次や罵声なんかはまだしも、詳しい事情を聞きたい、なんていう声も上がりませんでしたよ」
「これ〝お言葉〝ですからね。質疑応答とかはありません。一方的に宣言して終わりです」
と、未夜が口をつけたコーヒーカップをテーブルに置きながら応える。
「まあ、お兄さんがたの活躍で、佐一はひつきを失ってますからね。LCC勢力がもしこの場にいたとしても、何か言う気力もなかったのかもしれません」
未夜は、何か言いたそうな須軽に強い視線を向けながら言い添えた。
付け加えるなら、佐一は小人達にも逃げられている。一夜にして、自分の力の拠り所の大半を喪失してしまっているのだ。
それから一週間と経たないうちにこれである。確かに偶然というには、タイミングが良すぎるかもしれない、と守は思った。
「見ようによっては、この後の信者への対応とか骨の折れる部分は、全部講務長さんらに押し付けようとしている、という風にも見えますね」
須軽はスマートフォンを未夜に押しやりながら言う。絶対そうです。あの人、基本面倒くさがりですから、と、未夜は鼻を鳴らした。本当にウマが合わないのだろう。
「佐一のほうは、今本当に抜け殻みたいになっちゃってるみたいですねえ」
未夜はため息をつきながら言った。
「TNNの方は残るみたいですが、他の人に実権を譲っちゃうかもしれないって話です。……何があったんですかねー」
「本当に。何があったのか」
白々しく須軽が応じる。
「そういえばひつきって、どうなったんですかね?」
須軽や未夜が口に出さないことを、守は敢えてはっきり言ってみた。
会場の信者達の中から、ポツポツと拍手や歓声があがる。
「私からお身内の皆さんにお伝えしたいことは以上です。ご清聴を感謝いたします。最後になりますが、佐一哲郎氏の直観神理におけるご活動については、停滞していた教団に、ほどよい刺激を与えていただいた、という意味で素直に感謝いたしております。ありがとうございました。今後のご活躍を心より期待しております」
ゆっくり、淀みなく話し終えると、科乃はペコリと頭を下げて、しずしずと壇上を降りて行った。
その途端、会場内に割れんばかりに喝采がこだまする。
収容がつかなくなりそうなので、慌てて講務長が壇上に上がって何事か信者に呼びかけようとしたところで、動画は終わった。
よく聞いてみると、かなりトゲを含んだ言い方も散見されるのだが、不思議とそういう風に感じないのは科乃の人徳だろうか、と守が考えていると、
「狙いすましたタイミング、ってやつですね」
と須軽が呟く。
「これって、直観神理の祭りの日だったんでしょう? 僕らがLCCに行ったのと直接的な関連あるんですかね?」
守が口を開くと、当然です、と未夜がすぐさま嘴を入れる。
「全てを見越してたに決まってます。そういう人間です」
私はあの人苦手です、と、以前にも言ったような台詞を未夜は繰り返した。
「しかし、佐一哲郎はよっぽど嫌われてたんですね。拍手喝采受けてたじゃないですか」
「そうそう。野次や罵声なんかはまだしも、詳しい事情を聞きたい、なんていう声も上がりませんでしたよ」
「これ〝お言葉〝ですからね。質疑応答とかはありません。一方的に宣言して終わりです」
と、未夜が口をつけたコーヒーカップをテーブルに置きながら応える。
「まあ、お兄さんがたの活躍で、佐一はひつきを失ってますからね。LCC勢力がもしこの場にいたとしても、何か言う気力もなかったのかもしれません」
未夜は、何か言いたそうな須軽に強い視線を向けながら言い添えた。
付け加えるなら、佐一は小人達にも逃げられている。一夜にして、自分の力の拠り所の大半を喪失してしまっているのだ。
それから一週間と経たないうちにこれである。確かに偶然というには、タイミングが良すぎるかもしれない、と守は思った。
「見ようによっては、この後の信者への対応とか骨の折れる部分は、全部講務長さんらに押し付けようとしている、という風にも見えますね」
須軽はスマートフォンを未夜に押しやりながら言う。絶対そうです。あの人、基本面倒くさがりですから、と、未夜は鼻を鳴らした。本当にウマが合わないのだろう。
「佐一のほうは、今本当に抜け殻みたいになっちゃってるみたいですねえ」
未夜はため息をつきながら言った。
「TNNの方は残るみたいですが、他の人に実権を譲っちゃうかもしれないって話です。……何があったんですかねー」
「本当に。何があったのか」
白々しく須軽が応じる。
「そういえばひつきって、どうなったんですかね?」
須軽や未夜が口に出さないことを、守は敢えてはっきり言ってみた。
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