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16 私は驚かす
16-001
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塩見は白妙会館の事務室に来ていた。年に二回行う、直観神理の大祭の打ち合わせのためだ。
「本当に、大変ですわねえ」
事務室の女性が、あまり心のこもっていない調子で、塩見に向かってこう言った。
もう、大祭の期日が迫っている。祭りの集会は本部の建物でやるのだが、地方から参加しに来る人々に向けて、白妙会館を休憩所として開放する段取りを決めようとしているのだ。
当然その日は、外部の人々の習い事などの教室などは遠慮してもらう。これは例年のことである。
なぜこんな時期にそんなことをやっているのかというと、別館が使えなくなったからだ。
何でも、昨日佐一の行っていたセミナーの最中、スプリンクラーが壊れたらしく、建物全体が水浸しになったらしい。
LCC側は別館を開放するのをなんのかんの言って渋っていたが、塩見は有無を言わせなかった。
普段我が物顔で別館を使っているのだ。大祭の時期くらいは、こっちで好きに使わせてもらう。はっきりとは言わなかったが、塩見はこのような大意を佐一に伝え意見を通した。
その矢先に昨夜のごたごたである。塩見は、言ってしまえば佐一もそれに追随しているLCCの会員どもも嫌いなので、連中が濡れ鼠になったのを腹の中では痛快に思っていたが、建物が使えなくなったのは困った。
業者の点検が入ったのだが、故障の原因がわからないらしいのだ。
そのわりに、一個二個が異常な反応をしたのではなく、別館全てが水に浸かったというのだからわけがわからない。
何でも佐一は何かにショックを受けて呆けたようになってしまっているらしいが、他のLCCの会員達は特に怪我もないようでその点は一安心であった。
とにかく、原因がはっきりするまでは、また同じことが起こるかもしれないので、折角地方から集まってくれる身内の人々を別館に入れるわけにはいかないのだ。
元々白妙会館も使う予定ではあったのだが、普段休憩所には使わないような大きいホールなども、今回はそれに割り当てるように調整しようとしているのである。
「そうですわねえ、元々祭りの時期は外の人は遠慮してもらってますし、全部空いてますけど……。休憩所として使うのなら、それ用に色々整えなきゃいけませんわね」
のんびりした口調で事務員が言う。急だと言っても、大祭の日取りにはまだ数日余裕がある。それくらいなら何とかなるだろう。あとは、リストを見ながら地域別に部屋を割り振って……。
塩見があれこれと考えていると、あらあ、と事務員の女が甲高い声を上げた。つられて振り向き、塩見もあっ、と声を上げてしまう。
「どうも。お久しぶりです」
そこには科乃がいた。ぺこりと頭を下げたあと前を向いた顔は、塩見が以前会った時と同じ無表情だ。
「あ、ああ、お久しぶりです」
塩見も慌てて礼をする。内心の不満が表に出ないように気を使った。
いや、塩見としては科乃に会えるのは大歓迎なのだが、タイミングというものがある。つい最近は、一人で佐一に会いにいったというし、あまり唐突な行動は控えてもらいたいものだ、と塩見は内心の苛立ちを押さえきれない。
何をしに行ったのかは知らないが、あまり勝手なことをしてもらうと、庇いきれなくなる。
一部の支部長や本部の幹部達の間では、科乃から白妙会館四階を取り上げようという話も出ているのだ。
そうだ、この際だ。その辺りのことも、全て今伝えよう。いい機会だ。次はいつ出てくるかわからない。
「本当に、大変ですわねえ」
事務室の女性が、あまり心のこもっていない調子で、塩見に向かってこう言った。
もう、大祭の期日が迫っている。祭りの集会は本部の建物でやるのだが、地方から参加しに来る人々に向けて、白妙会館を休憩所として開放する段取りを決めようとしているのだ。
当然その日は、外部の人々の習い事などの教室などは遠慮してもらう。これは例年のことである。
なぜこんな時期にそんなことをやっているのかというと、別館が使えなくなったからだ。
何でも、昨日佐一の行っていたセミナーの最中、スプリンクラーが壊れたらしく、建物全体が水浸しになったらしい。
LCC側は別館を開放するのをなんのかんの言って渋っていたが、塩見は有無を言わせなかった。
普段我が物顔で別館を使っているのだ。大祭の時期くらいは、こっちで好きに使わせてもらう。はっきりとは言わなかったが、塩見はこのような大意を佐一に伝え意見を通した。
その矢先に昨夜のごたごたである。塩見は、言ってしまえば佐一もそれに追随しているLCCの会員どもも嫌いなので、連中が濡れ鼠になったのを腹の中では痛快に思っていたが、建物が使えなくなったのは困った。
業者の点検が入ったのだが、故障の原因がわからないらしいのだ。
そのわりに、一個二個が異常な反応をしたのではなく、別館全てが水に浸かったというのだからわけがわからない。
何でも佐一は何かにショックを受けて呆けたようになってしまっているらしいが、他のLCCの会員達は特に怪我もないようでその点は一安心であった。
とにかく、原因がはっきりするまでは、また同じことが起こるかもしれないので、折角地方から集まってくれる身内の人々を別館に入れるわけにはいかないのだ。
元々白妙会館も使う予定ではあったのだが、普段休憩所には使わないような大きいホールなども、今回はそれに割り当てるように調整しようとしているのである。
「そうですわねえ、元々祭りの時期は外の人は遠慮してもらってますし、全部空いてますけど……。休憩所として使うのなら、それ用に色々整えなきゃいけませんわね」
のんびりした口調で事務員が言う。急だと言っても、大祭の日取りにはまだ数日余裕がある。それくらいなら何とかなるだろう。あとは、リストを見ながら地域別に部屋を割り振って……。
塩見があれこれと考えていると、あらあ、と事務員の女が甲高い声を上げた。つられて振り向き、塩見もあっ、と声を上げてしまう。
「どうも。お久しぶりです」
そこには科乃がいた。ぺこりと頭を下げたあと前を向いた顔は、塩見が以前会った時と同じ無表情だ。
「あ、ああ、お久しぶりです」
塩見も慌てて礼をする。内心の不満が表に出ないように気を使った。
いや、塩見としては科乃に会えるのは大歓迎なのだが、タイミングというものがある。つい最近は、一人で佐一に会いにいったというし、あまり唐突な行動は控えてもらいたいものだ、と塩見は内心の苛立ちを押さえきれない。
何をしに行ったのかは知らないが、あまり勝手なことをしてもらうと、庇いきれなくなる。
一部の支部長や本部の幹部達の間では、科乃から白妙会館四階を取り上げようという話も出ているのだ。
そうだ、この際だ。その辺りのことも、全て今伝えよう。いい機会だ。次はいつ出てくるかわからない。
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