空想宵闇あやかし奇譚 ♢道化の王♢

八花月

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11 夜のさまざまな力

11-004

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「ただ大君、充分にお気をつけなさいますように……手負いの獣が一番危ないと申しますぞ」

輔星の真剣な面持ちを見て須軽は鬱陶しく思いつつも、微笑ましく感じる部分もあった。

「わかってるよ。無茶はしないから」
須軽は笑顔で応えて、右手を振ってみせる。

紫微達と開陽は本当にわかってんのか、あいつ? などとブツクサ会話しつつ、どこかへ消えて行った。

一人になった後、須軽は壁にもたれた姿勢のまま、じっと非常口のほうを注視していた。

五、六分ほど経っただろうか。静かに、ためらうように揺れたあと、ドアノブがゆっくり回り始めた。そして音もなく、そっと内側に向かってドアが開いていく。

須軽はその様子を静かに見ていた。

昔から、須軽は暗闇でも難なく周囲の様子がわかる。自分では普通のことだと思っていたので、子供の頃から目が良い、と人から評されるのを不思議に思っていた。

どうもこれは自分の視力が思っていた以上に特殊なせいらしい、ということが理解出来たのは小人達の話を聞いてからのことである。

「〝にゃっ!?」

暗闇の中で瞬く、二つの光点。二、三回パチクリしたあと、光は消えた。

「た、探偵のお兄さんですか……。驚かせないでください」

「ごめん」  

平静を装ってはいるが、内心須軽はかなりぞっとしていた。未夜はもう少しで、須軽に飛びかかってくる寸前だったのだ。

何か声をかけたほうが良かったかな、と一瞬思ったが余計に危なかったかもしれない、とすぐに考え直した。

「ここで何してるんですか?  鍵を開けるのは守さんだったはずでは?」

矢継ぎ早に質問を重ねながら、未夜は須軽を見据える。重く険のある視線だった。最早戦う姿勢はとっていないが、警戒は緩めていない。

「早まったかなあ……。やっぱ俺も隠れてたほうがよかったか」

「俺も?  まだ誰かいるんですか?」

須軽のぼやきを聞きつけ、再び未夜に鋭い緊張が走る。

「いや、違うんだよ。それはこっちの話。古谷さんはちょっと事情があって来られなかったんだ。俺はまあ……一応挨拶でもしとこうかと思って」 
 
須軽は慌てて雑に説明した。さすがに身の危険を感じたのだ。

「ほら、あっち。あの下に多分あんたが探してるものがあるよ」

指差して、須軽は未夜に教える。先ほど少名が開けた、地下に通じる階段であった。それはどうも、と形だけ礼を言うが、相変わらず未夜は刺々しい態度である。

「鍵を開ける、っていうより誰かに招き入れられたってかたちにしたかったんだろう?」  


未夜の顔から表情がスッと消えた。
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