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10 接近する二つの現実

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僕と須軽さんが、直観神理の教主に会ってから一週間ほど経って、LCCの会合に出席する日となった。

週に二回やっているのだから、最短ならもっと早く行けるはずだったのだが、LCC側の都合でこの日取りになったらしい。

須軽さんは、
「俺、最近ちょっと休みすぎだったから、これくらい間が開いたほうがちょうどいいですよ」
と、言っていた。白妙会館の事務室からの連絡を伝えるために電話した時のことである。

「どういうことですか?」
「ああ、俺普段は倉庫で仕分けやってるんですよ。探偵は休みの日にやってるんです」

初耳だ。

「須軽さんって、探偵が本業じゃなかったんですか?!」

「違いますよ。言ってませんでしたっけ?」

須軽さんはさらりと言ったあと、結構休み代わって貰ったから当分休日無しだなあ、ととぼけた口調でぼやいていた。

まあ、仕事はきちんとやってもらったので他で何をやっていようが、かまわないといえばかまわない。

今や事件の全容はだいたい明らかになった。科乃さんに会ったあと、約束通り須軽さんと小人が直観神理の敷地内で何を話していたのか聞いたのだ。

小人からも直接聞いたほうがわかりやすいだろう、ということでわざわざ僕の家まで移動して、例の薬を瞼に塗り彼らからも話を聞いた。

未夜の話、冨田の話、科乃の話、それにこの時に聞いた話を、全て合わせると確かに須軽さんの言っていた通り、おおよそ事件の全貌が把握できる。

「どうします?」

この時、僕は須軽さんに問われた。

「表向きの依頼は、飯豊志摩さんの行方を調べること。これはまあ一応わかりましたが建前なので置いておくとして……。本当の依頼はお父様が死んだ原因を調べること、でしたよね?」

殺した犯人を捕まえることだ、と言いたいところだったが、今回の事件にそんな人間はいない、ということが最早理解できてしまった。強いていえば、直接手を下したのはひつきだが、彼女(と言っていいのかどうかわからないが)に対して憎しみや怒りは沸いてこない。

「LCCの会合なんかもうどうでもいい、っていうんなら、ここで止めてもいいと思います」

「いえ、行きますよ。やっぱり佐一って人には興味があります」

これは本当のことである。自分の父親がその人物や、あるいはその人物の行動や言動のどこにそんなに惹かれたのかが気になった。

「どっちかって言うと、俺に付き合ってもらう感じになっちゃいますね。料金は、今までの分だけで結構ですよ。LCCの講座に行く日のお代はいただかなくていいです」

「いえ、そういうわけにはいきません。その日の分も払います」

別に僕が義理堅い性格なわけではない。後々、須軽さんにその時の話を聞いておきたいのだ。

……当日はおそらく早い段階から別行動になるだろうから。


須軽さんに、お金を受け取ってもらうことを了解してもらい、この日の通話は幕を閉じた。
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