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9 魔術師の領土を侵犯
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ひつきだ。今は何よりも、ひつきをどうにかしなくてはならない。
佐一哲郎は、直観神理別館の複数ある小会議室の中の一つで考えていた。
今日は直観神理の講座のある曜日なので、ここでその準備をしているのだ。事前に講務長に許可も取ってある。今のように関係の悪化する前のことだ。
とはいっても、今では佐一はこの別館自体を、ある意味自分の私物のように扱っている。それに文句をいってくる人間もほぼいないので、佐一は正直自分の事務所兼倉庫、くらいに考えている部分があった。
元々この別館は、直観神理の中の金持ち連中の献金で、近年本館に付け足されたものなのだ。そして今や、直観神理の金持ち連中はほとんどLCCの会員なので、佐一がこのような態度をとっても、あまり強く苦情を申し入れてくる人間はいない、というわけだった。
本部の幹部達や、地方の支部長達がうるさく言ってこないのは、おそらくこちらの穴を探しているのだ、と佐一は考えていた。何か隙を見せたら一気に攻撃して追い出そうという腹づもりなのだ。それまでは野放しにしておいても、かまわないだろうとタカをくくっているに違いない。
直観神理を動かしている上層部には、いわゆるセレブと呼ばれるような人種は少なかった。いないということはないのだが、LCCには入っていない。
これは『世俗の職業や世間的なポジションは、教団内の地位とは関係ない』という教団の信条の結果で、これを建前だけでなく実行するために、むしろ外の世界で社会的地位の高い人は、教団内ではあまり重きをおかれない、というきらいが直観神理には伝統的にある。
佐一のLCCは、長年その部分で溜まってきた不満の受け皿になっている部分もあった。
ただ、この『不満』は、あくまでも幹部達に向けられたもので、教主・椋戸辺科乃については全く別の話だったのだ。
これは佐一にとっても予想外のことで、まさか講務長のあんな真偽不明の〝科乃様はLCCを快く思っていない〝という宣言だけで、ここまで風向きが変わるとは思わなかった。
まだ表だって、LCCを抜ける会員は少ない。だが、講座への出席率が悪くなってきている人間も、ちらほら出てきている。
どれだけ信仰心があろうが、単純な欲の前にはそんなものは無力だろうと思っていたのだが、甘かった。
だからこそ、今の内にひつきを完全に掌握してしまわなければならない、と佐一は考えている。講務長の会見の後、自分もどうにかして、科乃をコントロールしようと手を尽くしたのだが、無理だった。
科乃は頑として、LCCに関わる者と会わなかったし、対話もしない。それ以外の人間にも冨田以外とはほとんど会わない。
佐一も白妙会館までは入れるが、四階の住居での会見などもってのほか、という態度であしらわれた。
仲が良いという噂の、冨田を介して科乃とコンタクトしようと思ったこともあったが、あの老人はモジャモジャとわけのわからないことをいうばかりで、一向に埒があかない。
科乃を軽視しすぎていた、と佐一が本当に気付いたのはこの時である。
佐一哲郎は、直観神理別館の複数ある小会議室の中の一つで考えていた。
今日は直観神理の講座のある曜日なので、ここでその準備をしているのだ。事前に講務長に許可も取ってある。今のように関係の悪化する前のことだ。
とはいっても、今では佐一はこの別館自体を、ある意味自分の私物のように扱っている。それに文句をいってくる人間もほぼいないので、佐一は正直自分の事務所兼倉庫、くらいに考えている部分があった。
元々この別館は、直観神理の中の金持ち連中の献金で、近年本館に付け足されたものなのだ。そして今や、直観神理の金持ち連中はほとんどLCCの会員なので、佐一がこのような態度をとっても、あまり強く苦情を申し入れてくる人間はいない、というわけだった。
本部の幹部達や、地方の支部長達がうるさく言ってこないのは、おそらくこちらの穴を探しているのだ、と佐一は考えていた。何か隙を見せたら一気に攻撃して追い出そうという腹づもりなのだ。それまでは野放しにしておいても、かまわないだろうとタカをくくっているに違いない。
直観神理を動かしている上層部には、いわゆるセレブと呼ばれるような人種は少なかった。いないということはないのだが、LCCには入っていない。
これは『世俗の職業や世間的なポジションは、教団内の地位とは関係ない』という教団の信条の結果で、これを建前だけでなく実行するために、むしろ外の世界で社会的地位の高い人は、教団内ではあまり重きをおかれない、というきらいが直観神理には伝統的にある。
佐一のLCCは、長年その部分で溜まってきた不満の受け皿になっている部分もあった。
ただ、この『不満』は、あくまでも幹部達に向けられたもので、教主・椋戸辺科乃については全く別の話だったのだ。
これは佐一にとっても予想外のことで、まさか講務長のあんな真偽不明の〝科乃様はLCCを快く思っていない〝という宣言だけで、ここまで風向きが変わるとは思わなかった。
まだ表だって、LCCを抜ける会員は少ない。だが、講座への出席率が悪くなってきている人間も、ちらほら出てきている。
どれだけ信仰心があろうが、単純な欲の前にはそんなものは無力だろうと思っていたのだが、甘かった。
だからこそ、今の内にひつきを完全に掌握してしまわなければならない、と佐一は考えている。講務長の会見の後、自分もどうにかして、科乃をコントロールしようと手を尽くしたのだが、無理だった。
科乃は頑として、LCCに関わる者と会わなかったし、対話もしない。それ以外の人間にも冨田以外とはほとんど会わない。
佐一も白妙会館までは入れるが、四階の住居での会見などもってのほか、という態度であしらわれた。
仲が良いという噂の、冨田を介して科乃とコンタクトしようと思ったこともあったが、あの老人はモジャモジャとわけのわからないことをいうばかりで、一向に埒があかない。
科乃を軽視しすぎていた、と佐一が本当に気付いたのはこの時である。
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