82 / 124
7 野をひらく鍵
7-018 にせもの
しおりを挟む
「科乃様も今そんな感じになってますよね」
未夜が口を開くと冨田は〝きっついなー、未夜ちゃん〝とぼやく。
「だってそうでしょ? 科乃様、教祖だけど、権力なんかほぼないも同然だから、何もできない。でもみんなの不満や希望を一身に集めて好き勝手言われてる。そして今この教団を実質的に動かしてる、講務長さんや佐一は上手く科乃様を利用して、自分に有利にことを進めようとしてます」
言われてみればその通りだな、と守が考えていると、
「まあ、教祖さんを利用するやり方は、確かに身代わりって言い方もできるかもしれませんね。そして、利用できない、って悟った佐一は今度はひつきを使おうとしてる、と」
未夜の言葉を受け、須軽が微妙にやるせない様子で言った。
「まあ、お姫さんも生き神様というほど崇められとるわけではないが、確かに期せずして、そういう位置に行ってしもうた、という感はあるな……。そういう話なら、御霊やら祓戸の大神よりももっとふさわしいたとえがある。『モック・キング』や。日本語にすると……うーん、まあ、偽物の王、『道化の王』っちゅう感じになるかな」
興が乗ってきたようで、冨田の口調に熱が入り始めた。
「古代ローマでやっとったサトゥルナリア、という冬至のお祭りにな、このお祭りの間だけ権力を委ねられる特別な王様が選ばれたんや。この期間だけは好き勝手に振舞うて許される。酒池肉林も自由自在。まあ、羨ましいこっちゃ。宝くじに当たったようなもんやな」
冨田は歯を見せて笑顔をつくる。
「しかしその後がようない。祭りが終わったら玉座から引きずりおろされて殺される。あら、かわいそう、っちゅうようなもんや。わりと世界中で見られるモチーフらしい。つまりこれも、原理としてはおんなじ。罪やら穢れやら、都合の悪いモノは死にゆくもんに全部持ってってもらお、というドあつかましい発想」
よほど面白いらしく冨田は、カカカカッと大口を開けて笑っている。
「冨田さん、科乃様のたとえでそれを出すって、ちょっと……。大丈夫なんです?」
未夜が心配そうに訊ねる。
「お、おお」
指摘されて我に返ったのか、冨田は気まずそうによくわからない呻き声を発した。
「いや、お姫さんはな、こういう話わりと好きなんや。何が面白いんか知らん、いっつも熱心に聞いとる。まあ、大丈夫や。大丈夫」
冨田のこの喋り方は、自分に言い聞かせているようにも聞こえる。
未夜が口を開くと冨田は〝きっついなー、未夜ちゃん〝とぼやく。
「だってそうでしょ? 科乃様、教祖だけど、権力なんかほぼないも同然だから、何もできない。でもみんなの不満や希望を一身に集めて好き勝手言われてる。そして今この教団を実質的に動かしてる、講務長さんや佐一は上手く科乃様を利用して、自分に有利にことを進めようとしてます」
言われてみればその通りだな、と守が考えていると、
「まあ、教祖さんを利用するやり方は、確かに身代わりって言い方もできるかもしれませんね。そして、利用できない、って悟った佐一は今度はひつきを使おうとしてる、と」
未夜の言葉を受け、須軽が微妙にやるせない様子で言った。
「まあ、お姫さんも生き神様というほど崇められとるわけではないが、確かに期せずして、そういう位置に行ってしもうた、という感はあるな……。そういう話なら、御霊やら祓戸の大神よりももっとふさわしいたとえがある。『モック・キング』や。日本語にすると……うーん、まあ、偽物の王、『道化の王』っちゅう感じになるかな」
興が乗ってきたようで、冨田の口調に熱が入り始めた。
「古代ローマでやっとったサトゥルナリア、という冬至のお祭りにな、このお祭りの間だけ権力を委ねられる特別な王様が選ばれたんや。この期間だけは好き勝手に振舞うて許される。酒池肉林も自由自在。まあ、羨ましいこっちゃ。宝くじに当たったようなもんやな」
冨田は歯を見せて笑顔をつくる。
「しかしその後がようない。祭りが終わったら玉座から引きずりおろされて殺される。あら、かわいそう、っちゅうようなもんや。わりと世界中で見られるモチーフらしい。つまりこれも、原理としてはおんなじ。罪やら穢れやら、都合の悪いモノは死にゆくもんに全部持ってってもらお、というドあつかましい発想」
よほど面白いらしく冨田は、カカカカッと大口を開けて笑っている。
「冨田さん、科乃様のたとえでそれを出すって、ちょっと……。大丈夫なんです?」
未夜が心配そうに訊ねる。
「お、おお」
指摘されて我に返ったのか、冨田は気まずそうによくわからない呻き声を発した。
「いや、お姫さんはな、こういう話わりと好きなんや。何が面白いんか知らん、いっつも熱心に聞いとる。まあ、大丈夫や。大丈夫」
冨田のこの喋り方は、自分に言い聞かせているようにも聞こえる。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く
液体猫(299)
キャラ文芸
香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。
ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……
その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。
香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。
彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。
テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。
後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。
⚠最新話投稿の宣伝は基本しておりませんm(。_。)m
祇園あやかし茶屋〜九尾の狐が相談のります〜
菰野るり
キャラ文芸
京都の最強縁切り〝安井金比羅宮〟には今日も悩める人々が訪れる。
切るも縁、繋ぐも縁。
祇園甲部歌舞練場と神社の間の小さな通りにある茶屋〝烏滸〟では、女子高生のバイト塔子(本当はオーナー)と九尾の狐(引き篭もりニート)の吹雪が、縁切りを躊躇い〝安井金比羅神社〟に辿り着けない悩める人間たちの相談にのってます。
※前日譚は〜京都あやかし花嫁語り〜になりますが、テイストがかなり異なります。純粋にこちらを楽しみたい場合、前日譚を読む必要はありません‼︎
こちらだけ読んでも楽しんでいただけるように書いていくつもりです。吹雪と塔子と悩める人々、それから多彩なあやかしが織りなす現代ファンタジーをお楽しみいただければ幸いです。
逢魔ヶ刻の迷い子3
naomikoryo
ホラー
——それは、閉ざされた異世界からのSOS。
夏休みのある夜、中学3年生になった陽介・隼人・大輝・美咲・紗奈・由香の6人は、受験勉強のために訪れた図書館で再び“恐怖”に巻き込まれる。
「図書館に大事な物を忘れたから取りに行ってくる。」
陽介の何気ないメッセージから始まった異変。
深夜の図書館に響く正体不明の足音、消えていくメッセージ、そして——
「ここから出られない」と助けを求める陽介の声。
彼は、次元の違う同じ場所にいる。
現実世界と並行して存在する“もう一つの図書館”。
六人は、陽介を救うためにその謎を解き明かしていくが、やがてこの場所が“異世界と繋がる境界”であることに気付く。
七不思議の夜を乗り越えた彼らが挑む、シリーズ第3作目。
恐怖と謎が交錯する、戦慄のホラー・ミステリー。
「境界が開かれた時、もう戻れない——。」
蛇に祈りを捧げたら。
碧野葉菜
キャラ文芸
願いを一つ叶える代わりに人間の寿命をいただきながら生きている神と呼ばれる存在たち。その一人の蛇神、蛇珀(じゃはく)は大の人間嫌いで毎度必要以上に寿命を取り立てていた。今日も標的を決め人間界に降り立つ蛇珀だったが、今回の相手はいつもと少し違っていて…?
神と人との理に抗いながら求め合う二人の行く末は?
人間嫌いであった蛇神が一人の少女に恋をし、上流神(じょうりゅうしん)となるまでの物語。
十二支vs十二星座
ビッグバン
キャラ文芸
東洋と西洋、場所や司る物は違えど同じ12の物を司る獣や物の神達。普通なら会うはずの彼等だが年に一度、お互いの代表する地域の繁栄を決める為、年に一度12月31日の大晦日に戦い会うのだ。勝負に勝ち、繁栄するのは東洋か、それとも西洋か
182年の人生
山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。
人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。
二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。
(表紙絵/山碕田鶴)
※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「60」まで済。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる