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7 野をひらく鍵
7-011 祓戸大神
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「ひつき! おお、ひつきかあ……! ひつきの何を聞きたいの?」
ん? と冨田は身を乗り出してきた。
「その、由来というか来歴というか。この教団のご神体みたいなものなんですよね?」
守が口を開くと、ああいやいや、と冨田は片手を振って否定する。
「ひつきはご神体と違う。アレは神様やで。正真正銘の神様」
「この、直観神理霊御道で祀ってらっしゃるんですか?」
須軽が訊くと、冨田は腕組みして難しい顔をした。
「むかーし、祀ろうとしてみたことがあった、っちゅう感じやなあ……。今はしてない」
「どういう種類の神様なんですか? なんかこう、祟ったりとか?」
守にとっては、それのせいで身近に人が死んでいるので、気になるところである。
何かタブーのようなものがあるなら、聞いておきたかったのだが、
「ああ、いやあ、それはないな。ひつきは祟る、ということはない。そういう類のモンやない」
と冨田はあっさり否定した。
「やから、余計にタチが悪い、ともいえる」
どうにもよくわからない。守と須軽が顔を見合わせていると、
「『ひつき』というのもまあ、昔アレをわざわざ掘り出してきた復古神道の学者さんが、勝手につけた名前でな。正式名称は『祓戸の大神』いう神様や」
二人の気持ちを察したのか、冨田は解説を続ける。
「『大祓』ちゅう祝詞に出てくるんやがな。知らんか?」
冨田は呼びかけたが、答えは無い。守は『大祓』とか『祝詞』とかいう単語自体に馴染みがなかった。他二人も何も言わないところをみると、似たようなものなのだろう。
「中臣氏が宣読するから、『中臣祓』とも言われるんやがな、ええー……」
冨田は目を半眼にして、中空を睨んだ。何か思い出しているようだ。
しばらくして、
「これのな、最後のほう、〝……遺る罪はあらじと、祓えたまえ清めたまふ事を、高山の末短山の末より、さくなだりに、落ちたぎつ、早川の瀬に坐す、瀬織津比売といふ神、大海の原に持ち出でなむ、かく持ち出で往なば、荒鹽の鹽の八百道の、八鹽道を鹽の八百會に坐す、速開津比売といふ神、持ちかか呑みてむ。かくかか呑みては、氣吹戸に坐す、氣吹戸主といふ神、根の國・底の國に、氣吹き放ちてむ。かく氣吹き放ちては、根の國・底の國に坐す、速佐須良比売といふ神、持ちさすらひ失ひてむ〝のところに出てくる神さんやなあ」
と、一息に言った。案の定、ああ疲れた、と冨田は息切れしている。
「今言うた中に『瀬織津比売』『速開津比売』『氣吹戸主』『速佐須良比売』いう、四柱の神さんが出てくる。これのうちのどれかが、ひつきや。どれかはワシもわからん」
守も須軽も、難しい顔をして聞いてはいるが、いきなりこう言われてもピンとこない。
ん? と冨田は身を乗り出してきた。
「その、由来というか来歴というか。この教団のご神体みたいなものなんですよね?」
守が口を開くと、ああいやいや、と冨田は片手を振って否定する。
「ひつきはご神体と違う。アレは神様やで。正真正銘の神様」
「この、直観神理霊御道で祀ってらっしゃるんですか?」
須軽が訊くと、冨田は腕組みして難しい顔をした。
「むかーし、祀ろうとしてみたことがあった、っちゅう感じやなあ……。今はしてない」
「どういう種類の神様なんですか? なんかこう、祟ったりとか?」
守にとっては、それのせいで身近に人が死んでいるので、気になるところである。
何かタブーのようなものがあるなら、聞いておきたかったのだが、
「ああ、いやあ、それはないな。ひつきは祟る、ということはない。そういう類のモンやない」
と冨田はあっさり否定した。
「やから、余計にタチが悪い、ともいえる」
どうにもよくわからない。守と須軽が顔を見合わせていると、
「『ひつき』というのもまあ、昔アレをわざわざ掘り出してきた復古神道の学者さんが、勝手につけた名前でな。正式名称は『祓戸の大神』いう神様や」
二人の気持ちを察したのか、冨田は解説を続ける。
「『大祓』ちゅう祝詞に出てくるんやがな。知らんか?」
冨田は呼びかけたが、答えは無い。守は『大祓』とか『祝詞』とかいう単語自体に馴染みがなかった。他二人も何も言わないところをみると、似たようなものなのだろう。
「中臣氏が宣読するから、『中臣祓』とも言われるんやがな、ええー……」
冨田は目を半眼にして、中空を睨んだ。何か思い出しているようだ。
しばらくして、
「これのな、最後のほう、〝……遺る罪はあらじと、祓えたまえ清めたまふ事を、高山の末短山の末より、さくなだりに、落ちたぎつ、早川の瀬に坐す、瀬織津比売といふ神、大海の原に持ち出でなむ、かく持ち出で往なば、荒鹽の鹽の八百道の、八鹽道を鹽の八百會に坐す、速開津比売といふ神、持ちかか呑みてむ。かくかか呑みては、氣吹戸に坐す、氣吹戸主といふ神、根の國・底の國に、氣吹き放ちてむ。かく氣吹き放ちては、根の國・底の國に坐す、速佐須良比売といふ神、持ちさすらひ失ひてむ〝のところに出てくる神さんやなあ」
と、一息に言った。案の定、ああ疲れた、と冨田は息切れしている。
「今言うた中に『瀬織津比売』『速開津比売』『氣吹戸主』『速佐須良比売』いう、四柱の神さんが出てくる。これのうちのどれかが、ひつきや。どれかはワシもわからん」
守も須軽も、難しい顔をして聞いてはいるが、いきなりこう言われてもピンとこない。
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