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「しかし、僕はその佐一って人に会ったこともないんですよ? 嫌いって言っても説得力がないと思うんですが」
「そこはまあ……。宗州さんの死と絡めたりして、上手いことお願いします」
随分簡単に言ってくれる。
「親父の仇討ち路線でストーリーを作れってことですか……」
嘆息しながら守が応えると、未夜は嬉しそうにですですぅ、と顔をほころばせた。
「嫌いなのに、そのLCCの講座に行ってみたい、ってのはおかしくありませんか?」
守が早速会見に向けて考え込んでいると、須軽がもっともなことを言った。
「うーん、直接会ってひとこと言いたいことがある、って感じで話を持って行けばいけるんじゃないですかねえ」
未夜も熟考している風である。
「じゃ、可能な限りそちらの都合に合わせますから、行ける日にちなんかが決まったらお知らせください。これ、連絡先です」
喋りながら未夜は、テーブルの上を滑らせるように動かして、名刺を守に渡す。
守はすぐに確認してみたが、名前と携帯電話のメールアドレスしか書いていない、妙な名刺だった。
あ、そうそう。ついでにこれもよろしければ、と言いながら未夜は律儀に描いていた、直観神理内の人間関係図も一緒に守に手渡した。
「さて、これでだいたいあたしの伝えたいことは伝え終わりました」
未夜は一息ついて、かわるがわる二人の顔を見る。
「お二人からあたしに何かありますか? 何もなければ本日は、これにておひらきにしたいと思うのですが」
「僕は特にありませんが……。須軽さんは?」
少し考えた末、守は須軽に水を向ける。
「そうですね、私も特に無いですが」
喋りながら、須軽は上に向けた右の掌をゆっくりと目の前に差しだした。
「??? なんです?」
きょとんとした顔で、眼前の掌を眺めながら未夜が訊ねる。しばらくその様子をじっと観察しながら須軽は一言、
「これ、見えます?」
と、聞いた。
「え? 掌ですよね?」
訝しげに未夜は聞き返す。未夜は須軽の真意を測りかねているように見えた。
「なんです? 手品?」
冗談めかして喋っているが、瞳は笑っていない。次第に苛々が募ってきているようだ。
「……いえ、ただの掌です」
時間にして一分くらいだろうか。ひどく長い時間に思えたが、やっと須軽は掌を引っ込めた。
「もういいです。終わりました」
須軽が宣言しても、まだその場には妙な緊張感が残っている。
「フム……。わかりました」
何に対してのわかった、なのか判然としないが、未夜はそう言って目を細めた。
「そこはまあ……。宗州さんの死と絡めたりして、上手いことお願いします」
随分簡単に言ってくれる。
「親父の仇討ち路線でストーリーを作れってことですか……」
嘆息しながら守が応えると、未夜は嬉しそうにですですぅ、と顔をほころばせた。
「嫌いなのに、そのLCCの講座に行ってみたい、ってのはおかしくありませんか?」
守が早速会見に向けて考え込んでいると、須軽がもっともなことを言った。
「うーん、直接会ってひとこと言いたいことがある、って感じで話を持って行けばいけるんじゃないですかねえ」
未夜も熟考している風である。
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喋りながら未夜は、テーブルの上を滑らせるように動かして、名刺を守に渡す。
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あ、そうそう。ついでにこれもよろしければ、と言いながら未夜は律儀に描いていた、直観神理内の人間関係図も一緒に守に手渡した。
「さて、これでだいたいあたしの伝えたいことは伝え終わりました」
未夜は一息ついて、かわるがわる二人の顔を見る。
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「僕は特にありませんが……。須軽さんは?」
少し考えた末、守は須軽に水を向ける。
「そうですね、私も特に無いですが」
喋りながら、須軽は上に向けた右の掌をゆっくりと目の前に差しだした。
「??? なんです?」
きょとんとした顔で、眼前の掌を眺めながら未夜が訊ねる。しばらくその様子をじっと観察しながら須軽は一言、
「これ、見えます?」
と、聞いた。
「え? 掌ですよね?」
訝しげに未夜は聞き返す。未夜は須軽の真意を測りかねているように見えた。
「なんです? 手品?」
冗談めかして喋っているが、瞳は笑っていない。次第に苛々が募ってきているようだ。
「……いえ、ただの掌です」
時間にして一分くらいだろうか。ひどく長い時間に思えたが、やっと須軽は掌を引っ込めた。
「もういいです。終わりました」
須軽が宣言しても、まだその場には妙な緊張感が残っている。
「フム……。わかりました」
何に対してのわかった、なのか判然としないが、未夜はそう言って目を細めた。
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