60 / 124
5 磁場
5-023
しおりを挟む
「しかし、僕はその佐一って人に会ったこともないんですよ? 嫌いって言っても説得力がないと思うんですが」
「そこはまあ……。宗州さんの死と絡めたりして、上手いことお願いします」
随分簡単に言ってくれる。
「親父の仇討ち路線でストーリーを作れってことですか……」
嘆息しながら守が応えると、未夜は嬉しそうにですですぅ、と顔をほころばせた。
「嫌いなのに、そのLCCの講座に行ってみたい、ってのはおかしくありませんか?」
守が早速会見に向けて考え込んでいると、須軽がもっともなことを言った。
「うーん、直接会ってひとこと言いたいことがある、って感じで話を持って行けばいけるんじゃないですかねえ」
未夜も熟考している風である。
「じゃ、可能な限りそちらの都合に合わせますから、行ける日にちなんかが決まったらお知らせください。これ、連絡先です」
喋りながら未夜は、テーブルの上を滑らせるように動かして、名刺を守に渡す。
守はすぐに確認してみたが、名前と携帯電話のメールアドレスしか書いていない、妙な名刺だった。
あ、そうそう。ついでにこれもよろしければ、と言いながら未夜は律儀に描いていた、直観神理内の人間関係図も一緒に守に手渡した。
「さて、これでだいたいあたしの伝えたいことは伝え終わりました」
未夜は一息ついて、かわるがわる二人の顔を見る。
「お二人からあたしに何かありますか? 何もなければ本日は、これにておひらきにしたいと思うのですが」
「僕は特にありませんが……。須軽さんは?」
少し考えた末、守は須軽に水を向ける。
「そうですね、私も特に無いですが」
喋りながら、須軽は上に向けた右の掌をゆっくりと目の前に差しだした。
「??? なんです?」
きょとんとした顔で、眼前の掌を眺めながら未夜が訊ねる。しばらくその様子をじっと観察しながら須軽は一言、
「これ、見えます?」
と、聞いた。
「え? 掌ですよね?」
訝しげに未夜は聞き返す。未夜は須軽の真意を測りかねているように見えた。
「なんです? 手品?」
冗談めかして喋っているが、瞳は笑っていない。次第に苛々が募ってきているようだ。
「……いえ、ただの掌です」
時間にして一分くらいだろうか。ひどく長い時間に思えたが、やっと須軽は掌を引っ込めた。
「もういいです。終わりました」
須軽が宣言しても、まだその場には妙な緊張感が残っている。
「フム……。わかりました」
何に対してのわかった、なのか判然としないが、未夜はそう言って目を細めた。
「そこはまあ……。宗州さんの死と絡めたりして、上手いことお願いします」
随分簡単に言ってくれる。
「親父の仇討ち路線でストーリーを作れってことですか……」
嘆息しながら守が応えると、未夜は嬉しそうにですですぅ、と顔をほころばせた。
「嫌いなのに、そのLCCの講座に行ってみたい、ってのはおかしくありませんか?」
守が早速会見に向けて考え込んでいると、須軽がもっともなことを言った。
「うーん、直接会ってひとこと言いたいことがある、って感じで話を持って行けばいけるんじゃないですかねえ」
未夜も熟考している風である。
「じゃ、可能な限りそちらの都合に合わせますから、行ける日にちなんかが決まったらお知らせください。これ、連絡先です」
喋りながら未夜は、テーブルの上を滑らせるように動かして、名刺を守に渡す。
守はすぐに確認してみたが、名前と携帯電話のメールアドレスしか書いていない、妙な名刺だった。
あ、そうそう。ついでにこれもよろしければ、と言いながら未夜は律儀に描いていた、直観神理内の人間関係図も一緒に守に手渡した。
「さて、これでだいたいあたしの伝えたいことは伝え終わりました」
未夜は一息ついて、かわるがわる二人の顔を見る。
「お二人からあたしに何かありますか? 何もなければ本日は、これにておひらきにしたいと思うのですが」
「僕は特にありませんが……。須軽さんは?」
少し考えた末、守は須軽に水を向ける。
「そうですね、私も特に無いですが」
喋りながら、須軽は上に向けた右の掌をゆっくりと目の前に差しだした。
「??? なんです?」
きょとんとした顔で、眼前の掌を眺めながら未夜が訊ねる。しばらくその様子をじっと観察しながら須軽は一言、
「これ、見えます?」
と、聞いた。
「え? 掌ですよね?」
訝しげに未夜は聞き返す。未夜は須軽の真意を測りかねているように見えた。
「なんです? 手品?」
冗談めかして喋っているが、瞳は笑っていない。次第に苛々が募ってきているようだ。
「……いえ、ただの掌です」
時間にして一分くらいだろうか。ひどく長い時間に思えたが、やっと須軽は掌を引っ込めた。
「もういいです。終わりました」
須軽が宣言しても、まだその場には妙な緊張感が残っている。
「フム……。わかりました」
何に対してのわかった、なのか判然としないが、未夜はそう言って目を細めた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
須加さんのお気に入り
月樹《つき》
キャラ文芸
執着系神様と平凡な生活をこよなく愛する神主見習いの女の子のお話。
丸岡瑠璃は京都の須加神社の宮司を務める祖母の跡を継ぐべく、大学の神道学科に通う女子大学生。幼少期のトラウマで、目立たない人生を歩もうとするが、生まれる前からストーカーの神様とオーラが見える系イケメンに巻き込まれ、平凡とは言えない日々を送る。何も無い日常が一番愛しい……

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
182年の人生
山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。
人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。
二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。
(表紙絵/山碕田鶴)
※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「60」まで済。
藤に隠すは蜜の刃 〜オッドアイの無能巫女は不器用な天狗に支えられながら妹を溺愛する〜
星名 泉花
キャラ文芸
「超シスコンな無能巫女」の菊里と、「完璧主義でみんなの憧れ巫女」の瀬織は双子姉妹。
「最強巫女」と称えられる瀬織が中心となり「あやかし退治」をする。
弓巫女の筆頭家門として、双子姉妹が手を取り合う……はずだった。
瀬織は「無能巫女」の菊里を嫌っており、二人は「一方的に仲が悪い」関係だった。
似ても似つかない二人を繋ぐのは生まれつきの「オッドアイ」だけ。
嫌われて肩身の狭い環境……だが、菊里は瀬織を溺愛していた!
「強いおねーちゃんになって、必ず瀬織を守る」
それが菊里の生きる理由であり、妹を溺愛する盲目な姉だった。
強くなりたい一心で戦い続けたが、ある日あやかしとの戦いに敗北し、菊里と瀬織はバラバラになってしまう。
弱さにめげそうになっていた菊里を助けてくれたのは、「天狗のあやかし・静芽」だった。
静芽と協力関係となり、菊里は「刀」を握ってあやかしと戦う。
それが「弓巫女一族」である自分と瀬織を裏切ることであっても。
瀬織を守れるなら手段は選ばないとあやかしに立ち向かう内に、不器用にも支えてくれる静芽に「恋」をして……。
恋と愛に板挟みとなり、翻弄されていく。
これは「超・妹溺愛」な無能の姉が、盲目さで「愛を掴みとろう」と奮闘するお話。
愛を支える「天狗の彼」にとってはなかなか複雑な恋の物語。
【藤の下に隠す想いは、まるで蜜のように甘くて鋭い】
雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う
ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。
煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。
そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。
彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。
そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。
しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。
自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる