空想宵闇あやかし奇譚 ♢道化の王♢

八花月

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「しかし、僕はその佐一って人に会ったこともないんですよ?  嫌いって言っても説得力がないと思うんですが」

「そこはまあ……。宗州さんの死と絡めたりして、上手いことお願いします」

随分簡単に言ってくれる。

「親父の仇討ち路線でストーリーを作れってことですか……」

嘆息しながら守が応えると、未夜は嬉しそうにですですぅ、と顔をほころばせた。

「嫌いなのに、そのLCCの講座に行ってみたい、ってのはおかしくありませんか?」

守が早速会見に向けて考え込んでいると、須軽がもっともなことを言った。

「うーん、直接会ってひとこと言いたいことがある、って感じで話を持って行けばいけるんじゃないですかねえ」

未夜も熟考している風である。

「じゃ、可能な限りそちらの都合に合わせますから、行ける日にちなんかが決まったらお知らせください。これ、連絡先です」

喋りながら未夜は、テーブルの上を滑らせるように動かして、名刺を守に渡す。

守はすぐに確認してみたが、名前と携帯電話のメールアドレスしか書いていない、妙な名刺だった。

あ、そうそう。ついでにこれもよろしければ、と言いながら未夜は律儀に描いていた、直観神理内の人間関係図も一緒に守に手渡した。

「さて、これでだいたいあたしの伝えたいことは伝え終わりました」

未夜は一息ついて、かわるがわる二人の顔を見る。

「お二人からあたしに何かありますか?  何もなければ本日は、これにておひらきにしたいと思うのですが」

「僕は特にありませんが……。須軽さんは?」

少し考えた末、守は須軽に水を向ける。

「そうですね、私も特に無いですが」
喋りながら、須軽は上に向けた右の掌をゆっくりと目の前に差しだした。

「???  なんです?」

きょとんとした顔で、眼前の掌を眺めながら未夜が訊ねる。しばらくその様子をじっと観察しながら須軽は一言、
「これ、見えます?」
と、聞いた。

「え?  掌ですよね?」

訝しげに未夜は聞き返す。未夜は須軽の真意を測りかねているように見えた。

「なんです?  手品?」

冗談めかして喋っているが、瞳は笑っていない。次第に苛々が募ってきているようだ。

「……いえ、ただの掌です」

時間にして一分くらいだろうか。ひどく長い時間に思えたが、やっと須軽は掌を引っ込めた。

「もういいです。終わりました」

須軽が宣言しても、まだその場には妙な緊張感が残っている。

「フム……。わかりました」

何に対してのわかった、なのか判然としないが、未夜はそう言って目を細めた。
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