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5 磁場
5-017 〝ひつき〟
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守は、横の須軽の身体がピクッっと小さく反応したような気がした。
いきなり神様の死体、と言われても全くイメージがわかない。色々聞きたいことがあったが、守には取りあえず聞いておかなければいけないことがある。
「その神様の死体というものは、運んでいる最中に周囲の人間が死ぬようなものなんですか?」
ほぼそれのおかげで、宗州と三浦が死んだと思って間違いはないだろう。
「死んでるままなら、安全なようですがねぇ……。ああ、そうそう。名前は〝ひつき〟だそうですよ」
また未夜は、謎のようなことを言う。
「名前ってなんです?」
「なにって、神様の死体、の名前ですよ」
神様が生きていたころの名前、ということなのだろうか? よくわからない。
「あたしオカルト関係あまり詳しくないんで、あまり突っ込んだことまではよくわかりません。しかし、まあ、聞いた話によると非常に危険なもののようですね」
「あなたは、そういうの信じるほうなんですか?」
須軽のこの質問には、少々挑発的な響きがあるように、守には感ぜられた。守は知っているが、須軽は当然そういうのを信じる側の人間なのだ。
「別に唯物主義者ってわけでもありません。あたしも人並みに雑誌やテレビの占いには目を通します」
韜晦なのかなんなのか、未夜はよくわからない応じ方をする。
「正直に言いますとあたし、ひつきにはあまり関心がありません。どんなものであろうが、どうでもよい、ってスタンスだと申し上げておきましょうか」
まあ、古谷のお兄さんにとってはそうはいきませんよね、と、未夜は最後に微笑んだ。
「私がわからないのは、佐一って人はなんでそんなものを欲しがったのか? ってことなんですが」
須軽は独り言のように、言葉を置いた。
「佐一は多分、自前で新しく宗教を立ち上げる気なんでしょう」
未夜は、これも解説が必要ですね、と前置きをして喋り始める。
「前述のように、講務長さんは怒り心頭に発してます。直観神理本部の幹部達は三分の二くらい、支部長会議は完全に講務長さんの意見と同じです。つまり、これ以上佐一及びLCCに勝手なことをさせるな、という立場ですね」
「講務長派ってわけですね」
須軽の合いの手に、未夜は黙って頷く。
「直観神理の上層部では、当然ですが圧倒的にこの意見が多いです。しかしだからと言って、無理矢理LCCを解散させるわけにもいきません。佐一を迎え入れて好きにやらせたのも、ちゃんと幹部全員が集まった会議で話し合って、なおかつ全信者さんの投票にかけておこなったことなんです」
「え? 信者さん全員の投票なんですか? 講務長の選挙は、支部長会議の密室の投票で決めちゃうんでしょう?」
「ええ。ですからこれは、教団の歴史でも異例中の異例です。今回が初めて。まあ、最後になるでしょう。講務長さんは、よっぽど淀んだ空気が嫌だったんでしょうね。こういう民主的な方法にあくまでも固執したという話です。ですので、まあ、講務長さんも佐一に対してあまり強くは出られないんですよ。自分が民主的にやろう、って言い出した結果なので」
「もう一回投票すればいいんじゃ?」
守が言うと、未夜はンフフフフ、と楽しげに鼻を鳴らす。
「お金や時間がかかりますし、上手くいかなったから、お手軽にじゃあもう一回って具合にはいかないようですねぇ。それに、多数決って意外にしこりが残っちゃうんですよ。もし、やるにしても、もう少し先になるでしょう」
未夜は最後に、やらないでしょうが、と付け足した。
いきなり神様の死体、と言われても全くイメージがわかない。色々聞きたいことがあったが、守には取りあえず聞いておかなければいけないことがある。
「その神様の死体というものは、運んでいる最中に周囲の人間が死ぬようなものなんですか?」
ほぼそれのおかげで、宗州と三浦が死んだと思って間違いはないだろう。
「死んでるままなら、安全なようですがねぇ……。ああ、そうそう。名前は〝ひつき〟だそうですよ」
また未夜は、謎のようなことを言う。
「名前ってなんです?」
「なにって、神様の死体、の名前ですよ」
神様が生きていたころの名前、ということなのだろうか? よくわからない。
「あたしオカルト関係あまり詳しくないんで、あまり突っ込んだことまではよくわかりません。しかし、まあ、聞いた話によると非常に危険なもののようですね」
「あなたは、そういうの信じるほうなんですか?」
須軽のこの質問には、少々挑発的な響きがあるように、守には感ぜられた。守は知っているが、須軽は当然そういうのを信じる側の人間なのだ。
「別に唯物主義者ってわけでもありません。あたしも人並みに雑誌やテレビの占いには目を通します」
韜晦なのかなんなのか、未夜はよくわからない応じ方をする。
「正直に言いますとあたし、ひつきにはあまり関心がありません。どんなものであろうが、どうでもよい、ってスタンスだと申し上げておきましょうか」
まあ、古谷のお兄さんにとってはそうはいきませんよね、と、未夜は最後に微笑んだ。
「私がわからないのは、佐一って人はなんでそんなものを欲しがったのか? ってことなんですが」
須軽は独り言のように、言葉を置いた。
「佐一は多分、自前で新しく宗教を立ち上げる気なんでしょう」
未夜は、これも解説が必要ですね、と前置きをして喋り始める。
「前述のように、講務長さんは怒り心頭に発してます。直観神理本部の幹部達は三分の二くらい、支部長会議は完全に講務長さんの意見と同じです。つまり、これ以上佐一及びLCCに勝手なことをさせるな、という立場ですね」
「講務長派ってわけですね」
須軽の合いの手に、未夜は黙って頷く。
「直観神理の上層部では、当然ですが圧倒的にこの意見が多いです。しかしだからと言って、無理矢理LCCを解散させるわけにもいきません。佐一を迎え入れて好きにやらせたのも、ちゃんと幹部全員が集まった会議で話し合って、なおかつ全信者さんの投票にかけておこなったことなんです」
「え? 信者さん全員の投票なんですか? 講務長の選挙は、支部長会議の密室の投票で決めちゃうんでしょう?」
「ええ。ですからこれは、教団の歴史でも異例中の異例です。今回が初めて。まあ、最後になるでしょう。講務長さんは、よっぽど淀んだ空気が嫌だったんでしょうね。こういう民主的な方法にあくまでも固執したという話です。ですので、まあ、講務長さんも佐一に対してあまり強くは出られないんですよ。自分が民主的にやろう、って言い出した結果なので」
「もう一回投票すればいいんじゃ?」
守が言うと、未夜はンフフフフ、と楽しげに鼻を鳴らす。
「お金や時間がかかりますし、上手くいかなったから、お手軽にじゃあもう一回って具合にはいかないようですねぇ。それに、多数決って意外にしこりが残っちゃうんですよ。もし、やるにしても、もう少し先になるでしょう」
未夜は最後に、やらないでしょうが、と付け足した。
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