空想宵闇あやかし奇譚 ♢道化の王♢

八花月

文字の大きさ
上 下
21 / 124
3 問いと答え

3-003 夢魔

しおりを挟む
「あくまで、ないとはいえない、ということです。原因不明の突然死みたいなものは世界中で結構報告されてはいるんですよ。変わったところでは、フィリピンのバゴオン、とか」

「バ、バゴ……?  怪獣みたいな名前ですな」

「バゴオンというのは、フィリピンで夢魔という意味がある言葉だそうです。夢の悪魔、と書いて夢魔。塩辛みたいな食べ物もこう呼んどるそうですが」  

悪魔ァ?  と、吾川は素っ頓狂な声を上げる。

「どうもフィリピン人の若い壮健な男子が睡眠中に突然死する、という事例が流行のように多発した時期があったようなんです。犠牲者の多くは全く既往歴がなく、極めて健康そうな若い男子。夕食を食べ、就寝して間もなく咳、息切れ、うめき、絶叫、もがき等が観察された後、再び目覚めることなく突然死亡する、と。その現象を現地ではバゴオンと呼んどるらしいのですな」

「なに、その、悪魔だかバケモンだかに殺されたってんですか?  それは空想のものでしょう?」

「いや、そうバカにしたものでもありませんよ。現地の人ではそれを信じておる人も多いようで、根拠のない話でもないんです。あるかたは一度悪夢から覚め、夢の中で夢魔に襲われた、と家人に話した後また眠りに入り、それから間もなく死亡した、という話もあります」

何ですかそりゃあ、怪談にはまだ早いですよ。と、しゃがれた声を出しながら吾川は受話器を持ってない方の手で頭のうしろを掻いた。

「私も夢魔に殺された、というのを頭から信じておるわけではありませんけどね。就寝中の悪夢による極度の緊張が、突然死の引き金になった、というのは有り得ると思います」

「しかし先生、男二人があんなとこで、寄り添って寝てたってのはおかしいでしょう?」
吾川は、あさっての方向に行きそうな話を、無理矢理今回の事件に引き戻した。

「男女でもおかしいですよ。車内ならまだしもですが……。まあ、夢魔については、あくまでこういう事例もある、ということをお知らせしただけです。しかし吾川さん、案外我々、色々難しく考えすぎなのかもしれませんよ」

教授は茫洋とした口調で、何やら考えながら後を続ける。
「人の死というのはある種、運命的なところがありますからねえ」

この一言が、事実上今回の通話の締めくくりとなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが当たり前になった世界。風間は平凡な会社員として日々を暮らしていたが、ある日見に覚えのないミスを犯し会社をクビになってしまう。その上親友だった男も彼女を奪われ婚約破棄までされてしまった。世の中が嫌になった風間は自暴自棄になり山に向かうがそこで誰からも見捨てられた放置ダンジョンを見つけてしまう。どことなく親近感を覚えた風間はダンジョンで暮らしてみることにするが、そこにはとても可愛らしいモンスターが隠れ住んでいた。ひょんなことでモンスターに懐かれた風間は様々なモンスターと暮らしダンジョン内でのスローライフを満喫していくことになるのだった。

毎日記念日小説

百々 五十六
キャラ文芸
うちのクラスには『雑談部屋』がある。 窓側後方6つの机くらいのスペースにある。 クラスメイトならだれでも入っていい部屋、ただ一つだけルールがある。 それは、中にいる人で必ず雑談をしなければならない。 話題は天の声から伝えられる。 外から見られることはない。 そしてなぜか、毎回自分が入るタイミングで他の誰かも入ってきて話が始まる。だから誰と話すかを選ぶことはできない。 それがはまってクラスでは暇なときに雑談部屋に入ることが流行っている。 そこでは、日々様々な雑談が繰り広げられている。 その内容を面白おかしく伝える小説である。 基本立ち話ならぬすわり話で動きはないが、面白い会話の応酬となっている。 何気ない日常の今日が、実は何かにとっては特別な日。 記念日を小説という形でお祝いする。記念日だから再注目しよう!をコンセプトに小説を書いています。 毎日が記念日!! 毎日何かしらの記念日がある。それを題材に毎日短編を書いていきます。 題材に沿っているとは限りません。 ただ、祝いの気持ちはあります。 記念日って面白いんですよ。 貴方も、もっと記念日に詳しくなりません? 一人でも多くの人に記念日に興味を持ってもらうための小説です。 ※この作品はフィクションです。作品内に登場する人物や団体は実際の人物や団体とは一切関係はございません。作品内で語られている事実は、現実と異なる可能性がございます…

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

花束を咲良先生に(保育士)

未来教育花恋堂
キャラ文芸
キャラ文芸に書き換えました。

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

マーちゃんの深憂 設定・用語集

釧路太郎
キャラ文芸
『マーちゃんの深憂』 設定や用語を解説しています

処理中です...