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3 問いと答え
3-003 夢魔
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「あくまで、ないとはいえない、ということです。原因不明の突然死みたいなものは世界中で結構報告されてはいるんですよ。変わったところでは、フィリピンのバゴオン、とか」
「バ、バゴ……? 怪獣みたいな名前ですな」
「バゴオンというのは、フィリピンで夢魔という意味がある言葉だそうです。夢の悪魔、と書いて夢魔。塩辛みたいな食べ物もこう呼んどるそうですが」
悪魔ァ? と、吾川は素っ頓狂な声を上げる。
「どうもフィリピン人の若い壮健な男子が睡眠中に突然死する、という事例が流行のように多発した時期があったようなんです。犠牲者の多くは全く既往歴がなく、極めて健康そうな若い男子。夕食を食べ、就寝して間もなく咳、息切れ、うめき、絶叫、もがき等が観察された後、再び目覚めることなく突然死亡する、と。その現象を現地ではバゴオンと呼んどるらしいのですな」
「なに、その、悪魔だかバケモンだかに殺されたってんですか? それは空想のものでしょう?」
「いや、そうバカにしたものでもありませんよ。現地の人ではそれを信じておる人も多いようで、根拠のない話でもないんです。あるかたは一度悪夢から覚め、夢の中で夢魔に襲われた、と家人に話した後また眠りに入り、それから間もなく死亡した、という話もあります」
何ですかそりゃあ、怪談にはまだ早いですよ。と、しゃがれた声を出しながら吾川は受話器を持ってない方の手で頭のうしろを掻いた。
「私も夢魔に殺された、というのを頭から信じておるわけではありませんけどね。就寝中の悪夢による極度の緊張が、突然死の引き金になった、というのは有り得ると思います」
「しかし先生、男二人があんなとこで、寄り添って寝てたってのはおかしいでしょう?」
吾川は、あさっての方向に行きそうな話を、無理矢理今回の事件に引き戻した。
「男女でもおかしいですよ。車内ならまだしもですが……。まあ、夢魔については、あくまでこういう事例もある、ということをお知らせしただけです。しかし吾川さん、案外我々、色々難しく考えすぎなのかもしれませんよ」
教授は茫洋とした口調で、何やら考えながら後を続ける。
「人の死というのはある種、運命的なところがありますからねえ」
この一言が、事実上今回の通話の締めくくりとなった。
「バ、バゴ……? 怪獣みたいな名前ですな」
「バゴオンというのは、フィリピンで夢魔という意味がある言葉だそうです。夢の悪魔、と書いて夢魔。塩辛みたいな食べ物もこう呼んどるそうですが」
悪魔ァ? と、吾川は素っ頓狂な声を上げる。
「どうもフィリピン人の若い壮健な男子が睡眠中に突然死する、という事例が流行のように多発した時期があったようなんです。犠牲者の多くは全く既往歴がなく、極めて健康そうな若い男子。夕食を食べ、就寝して間もなく咳、息切れ、うめき、絶叫、もがき等が観察された後、再び目覚めることなく突然死亡する、と。その現象を現地ではバゴオンと呼んどるらしいのですな」
「なに、その、悪魔だかバケモンだかに殺されたってんですか? それは空想のものでしょう?」
「いや、そうバカにしたものでもありませんよ。現地の人ではそれを信じておる人も多いようで、根拠のない話でもないんです。あるかたは一度悪夢から覚め、夢の中で夢魔に襲われた、と家人に話した後また眠りに入り、それから間もなく死亡した、という話もあります」
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「男女でもおかしいですよ。車内ならまだしもですが……。まあ、夢魔については、あくまでこういう事例もある、ということをお知らせしただけです。しかし吾川さん、案外我々、色々難しく考えすぎなのかもしれませんよ」
教授は茫洋とした口調で、何やら考えながら後を続ける。
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