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2 二つの死体

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次の日もバタバタしていた。解剖した遺体が棺桶に入って帰ってきて、通夜の準備をしなければいけないのだ。棺桶は警察と提携している葬儀社が用意したという話で、そのまま葬式もそこに頼むことになった。

もう一つの死体も、無事遺族の手に渡ったらしい。

「まったく、あのお手伝いのコは何してんですかねェ。この忙しい時に」

安東は朝から古谷家に来て色々やってくれていた。こういう時に、はりきるタイプの男だ。他人には不謹慎に見えるかもしれないが、右も左もわからない守にとっては、大変ありがたい存在だった。昨日も守が寝ていた時に、安東は煩瑣な手続きで立ち働いていてくれたらしい。

「飯豊さん、連絡もないんですよね。今まで無断で休んだことなんかなかったんですけど」

ちょっとした作業の小休止に守と安東は会話していた。飯豊というのは、志摩の名字である。

「……こりゃア、うん。どうかなあー……」

安東は、しきりに太い首をひねって何か言いたげに唸っている。しょうがなく守が、何です?  と水を向けると、堰を切ったように喋り始めた。

「いやね、あたしも色々考えたわけですよ。その、ねえ。吾川のダンナが何考えてるか知りませんが、やっぱり兄さんの死に方はちょっとこう……異常でしょう?」

兄さんというのは、守の父親を指している。

「あの、一緒に死んでた人、安東さんも知りませんか?」

「あのヒゲですか?  見たことねェんですよねえ。いやそんでね、明らかに不審な死に方をした人間の家に出入りしてたお手伝いが、翌日からパッタリ姿を見せなくなっちまった。こりゃあなんていうか、ねえ?」

  何が言いたいのか嫌というほどわかる。自分も似たようなことを考えていたからだ。

「まだ何もわからないですよ?  今日たまたま何か重い病気にかかったのかもしれないし」

あっ、その言い方!  と口走って、安東は守を指差した。目が爛々として、大変生き生きとしている。基本的に人に気を使う、という発想があまりない大人が守の周囲には多い。

「坊っちゃんも怪しいと思ってんでしょ?  あのお手伝いが」

「わからない、って言ってるじゃないですか」

守は強引にこの話を打ち切った。安東はしょうがなく話題を変える。

「……兄さんとあのヒゲの死体、解剖して色々調べたんでしょう?  吾川のダンナ何か言ってました?」

遺体を受け取った時、ちょうど安東はいなかったのである。

「そうですね、何とも言えないそうです。解剖した先生がいうところによると、見た限りでは両方の遺体に直接の死因と見られる部分はなかったそうですよ。検案書にも死因は不詳って……。これから追加の報告がくるらしいですけど」

守にこのことを告げた吾川は、どうにも納得のいかない様子であった。七面倒くさい他の検査などを行うまでもなく、解剖すればすぐに何か異常が発見されると考えていたらしい。

『そりゃ、俺も検視だけじゃ不十分だと思ったから、解剖に回したんだけどよ』
  吾川は苦虫を噛み潰したような顔でそうぼやいていたのを、守は思いだした。

「へえ……まだ結果が出てないのに、ホトケさん燃しちまってもいいんで?」

「さあ。帰ってきたからいいんじゃないですかね」

安東の疑問はもっともだ、と守も思ったのだが正直疲れていたこともあって、多少ぞんざいに答えてしまう。
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