空想宵闇あやかし奇譚 ♢道化の王♢

八花月

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1 この出会いの偶然と必然

1-007 夢か現か

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翌日、茶をがぶ飲みして二日酔いをごまかしながら、為綱は何とか出勤した。午前を乗り切り、食堂で味噌汁のみの昼食を取っていると、顔色の悪い吉村が横に座った。

「よう……俺もう酒やめるわ」

吉村は青い顔でぼそぼそ呟く。チラっと窺うと、完全に憔悴しきっていた。

「ど、どうしたんですか?」

粗方わかっているが、一応訊いてみる。

「昨日お前が帰ったあとよう、なんかこう、幻覚っつうか、すげえリアルなバッドトリップみたいなもんがきちゃってよ」

為綱は、生唾を飲み込み吉村を注視する。

「この、こんぐれえの、この、な、人間が居たんだよ、部屋に。小人っつうのかな。これが俺の周りをウロチョロして、うるせえのなんの」

吉村は両掌で十センチくらいの空間を表現しながら言った。

「夢ってことすか?」

「いやそれがな。夢だろうとは思うんだけど、俺もちょっと錯乱しててブン殴ろうと思ってな」

「え?!  その、小人をですか?  ……当たったんですか?」

さすがに色々心配になる。

「いや、当たんなかった。酒瓶振り回して、柱だのなんだのにブツかってよ。割れた破片が部屋ん中に飛びちっちゃってな」

「ケガとか大丈夫すか」
どうせ、吉村はベロンベロンに酔っ払っている状態であっただろう。ガラスの破片の上に寝たりしなかったかと思ったのだ。

「うん。ケガはなかったな。朝起きたら、なんか酒瓶の破片はキレイに片付いてた。まあ俺がやったんだろうけど」

吉村は首を捻っている。おそらく小人達が掃除したのだろう。なかなか気が利くな、と思い為綱は心中密かに小人達を評価していた。

「ア……酒の禁断症状で出てくる幻覚って、ピンクの象が出てきたとか、小さい大名行列が畳の上歩いてた、とか聞きますけどね」

「俺、アル中になるほどは飲んでないはずなんだけどなあ」
為綱は気を使い、アル中という言葉を飲み込んだのだが、吉村にはバッチリ伝わっている。

「まあとにかく、今後ちょっと酒量は控えるわ。真面目に仕事するよ。昨日はお前もつきあわせて悪かったな」

そう言うと、ちょっと外出てくるわ、と言い捨て吉村は顔面蒼白のまま去って行った。

「おい」

不意に聞こえた声に驚き、為綱は顔を横に向けてさらに驚く。いつの間にか  小人の一人、紫微が肩に乗っていたのだ。

「わかって頂けた?」

誇らしげに胸を張っている。

「お前らいつもあんなことしてんの?」

「象ははっきり言えませんが、大名行列のほうは多分我々と同族でしょうな」
輔星がすました様子で答える。さっきの会話を聞いていたらしい。

「そんな大がかりなこと出来るってことは、結構大きな集まりだね」
輿鬼もぼそっと、言葉を漏らす。

「なあ、そんなことより手助けしてやったんだから、俺らのいうことも聞いてくれよ」

「しょうがねえなあ……フォークリフトは、もうちょっと先だな」
為綱は舌打ちした。

「えっ?」

「俺、フォークリフトの免許取ろうと思ってたんだよ。この分じゃ当分無理そうだな、って思ったの」

「やって頂けるということですな?!」

「仕事は辞めないぞ。ただまあ、ちょっとはお前らに割く時間を多めにするよ」

イエー、と声を上げながら紫微と輿鬼がハイタッチしている。
その様子を見ながら為綱は、もう一度〝しょうがねえなあ〟と呟いた。
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