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1 この出会いの偶然と必然
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「こっちこっち!」
食器の手前に、いつの間にかいつぞやの小人達が揃っている。
「きたみたいじゃないの。出番が」
「何の話?」
別に嫌味でも何でもなく、為綱は本当にわからなかったのだが、どうも小人達は気分を害したらしい。
「今の話をさあ、解決してやるって言ってんの」
紫微は気を取り直し、両手を大きく振りながら、呼びかけてくる。
「これほど、おあつらえむきのケースも、なかなかありませんな」
輔星も何かに感心した様子で頷いた。
「ただし、大君にも少しお力添えしてもらわんとなりませんぞ」
「俺もかよ……!」
少し声が大きくなってしまい、為綱は急いで語尾をかぼそくしていく。
「先輩のためだろ?」
紫微がニヤニヤ笑いながら言った。為綱は軽く舌打ちして頷く。
「じゃあ、また後でな」
と言い残して小人達は去って行った。為綱は周囲の人間達の様子を、それとなく観察してみたが気付いた者はいないようだ。俺以外には見えない、ってのは本当みたいだな、とぼんやり考えていたが、まだ飯を食べていないことを思い出し、急いでかき込み始めた。
数日後。
「これでいいのか?」
為綱は顔を近づけ、床の小人達に囁いた。
「オッケー!」
紫微は、満面の笑みで親指を立てて見せる。ここは吉村のアパートの一室である。今為綱は、促されるままに小人達に渡された薬を、寝ている吉村のまぶたの上に塗ったところだ。吉村は床に大の字になって酒臭い息を吐きながら、大いびきをかいている。
「なんか後遺症とか残らないだろうな、これ」
「大丈夫です。効果は一日で消えますので」
輔星が胸を張って答えた。
「じゃあ俺帰るぞ」
「どうぞどうぞ。後はわしらにおまかせを」
「俺ら入るのはしんどいけど、出るのは楽勝だから」
楽しくてしょうがないらしく、先程から紫微は頬がゆるみっぱなしである。少々不安に思いながらも、為綱は吉村の部屋を後にした。
すぐ自分のアパートに帰る気にもならず、外の道路からしばらく吉村の部屋を眺める。
しばらくすると吉村の絶叫と、ガチャガチャと物が壊れたり何かが倒れたりするような、騒々しい音が聞こえてきた。
「本当に良かったのかな……」
ぼそっと一言残して、為綱はフラフラと千鳥足で歩を進め始める。
食器の手前に、いつの間にかいつぞやの小人達が揃っている。
「きたみたいじゃないの。出番が」
「何の話?」
別に嫌味でも何でもなく、為綱は本当にわからなかったのだが、どうも小人達は気分を害したらしい。
「今の話をさあ、解決してやるって言ってんの」
紫微は気を取り直し、両手を大きく振りながら、呼びかけてくる。
「これほど、おあつらえむきのケースも、なかなかありませんな」
輔星も何かに感心した様子で頷いた。
「ただし、大君にも少しお力添えしてもらわんとなりませんぞ」
「俺もかよ……!」
少し声が大きくなってしまい、為綱は急いで語尾をかぼそくしていく。
「先輩のためだろ?」
紫微がニヤニヤ笑いながら言った。為綱は軽く舌打ちして頷く。
「じゃあ、また後でな」
と言い残して小人達は去って行った。為綱は周囲の人間達の様子を、それとなく観察してみたが気付いた者はいないようだ。俺以外には見えない、ってのは本当みたいだな、とぼんやり考えていたが、まだ飯を食べていないことを思い出し、急いでかき込み始めた。
数日後。
「これでいいのか?」
為綱は顔を近づけ、床の小人達に囁いた。
「オッケー!」
紫微は、満面の笑みで親指を立てて見せる。ここは吉村のアパートの一室である。今為綱は、促されるままに小人達に渡された薬を、寝ている吉村のまぶたの上に塗ったところだ。吉村は床に大の字になって酒臭い息を吐きながら、大いびきをかいている。
「なんか後遺症とか残らないだろうな、これ」
「大丈夫です。効果は一日で消えますので」
輔星が胸を張って答えた。
「じゃあ俺帰るぞ」
「どうぞどうぞ。後はわしらにおまかせを」
「俺ら入るのはしんどいけど、出るのは楽勝だから」
楽しくてしょうがないらしく、先程から紫微は頬がゆるみっぱなしである。少々不安に思いながらも、為綱は吉村の部屋を後にした。
すぐ自分のアパートに帰る気にもならず、外の道路からしばらく吉村の部屋を眺める。
しばらくすると吉村の絶叫と、ガチャガチャと物が壊れたり何かが倒れたりするような、騒々しい音が聞こえてきた。
「本当に良かったのかな……」
ぼそっと一言残して、為綱はフラフラと千鳥足で歩を進め始める。
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