空想宵闇あやかし奇譚 ♢道化の王♢

八花月

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1 この出会いの偶然と必然

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「こっちこっち!」

食器の手前に、いつの間にかいつぞやの小人達が揃っている。

「きたみたいじゃないの。出番が」

「何の話?」

別に嫌味でも何でもなく、為綱は本当にわからなかったのだが、どうも小人達は気分を害したらしい。

「今の話をさあ、解決してやるって言ってんの」
紫微は気を取り直し、両手を大きく振りながら、呼びかけてくる。

「これほど、おあつらえむきのケースも、なかなかありませんな」
輔星も何かに感心した様子で頷いた。

「ただし、大君にも少しお力添えしてもらわんとなりませんぞ」
「俺もかよ……!」

少し声が大きくなってしまい、為綱は急いで語尾をかぼそくしていく。

「先輩のためだろ?」
紫微がニヤニヤ笑いながら言った。為綱は軽く舌打ちして頷く。

「じゃあ、また後でな」

と言い残して小人達は去って行った。為綱は周囲の人間達の様子を、それとなく観察してみたが気付いた者はいないようだ。俺以外には見えない、ってのは本当みたいだな、とぼんやり考えていたが、まだ飯を食べていないことを思い出し、急いでかき込み始めた。


数日後。

「これでいいのか?」
為綱は顔を近づけ、床の小人達に囁いた。

「オッケー!」

紫微は、満面の笑みで親指を立てて見せる。ここは吉村のアパートの一室である。今為綱は、促されるままに小人達に渡された薬を、寝ている吉村のまぶたの上に塗ったところだ。吉村は床に大の字になって酒臭い息を吐きながら、大いびきをかいている。

「なんか後遺症とか残らないだろうな、これ」

「大丈夫です。効果は一日で消えますので」

輔星が胸を張って答えた。

「じゃあ俺帰るぞ」

「どうぞどうぞ。後はわしらにおまかせを」
「俺ら入るのはしんどいけど、出るのは楽勝だから」

楽しくてしょうがないらしく、先程から紫微は頬がゆるみっぱなしである。少々不安に思いながらも、為綱は吉村の部屋を後にした。

すぐ自分のアパートに帰る気にもならず、外の道路からしばらく吉村の部屋を眺める。

しばらくすると吉村の絶叫と、ガチャガチャと物が壊れたり何かが倒れたりするような、騒々しい音が聞こえてきた。

「本当に良かったのかな……」

ぼそっと一言残して、為綱はフラフラと千鳥足で歩を進め始める。
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