夏花

八花月

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21.鵺

003

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「誰か寄こすとは思ってたけど……あなたとはね」
 新早薬子は、三人を見下ろしながら言った。

「あー……悪ぃな。なんかやってたんだろ?邪魔しちゃって」
 武音乙女は、気軽に丘の上の薬子に向かって呼びかける。

「別に……かまわない……けどね」
 薬子は、堪え切れなくなったように、くぐもった声で笑い始めた。

「あの方、こんな場所でもコスプレしてますのね」
 雅樂は自分のことは棚に上げ、半ば感心したように呟いた。

「何してんの?」 

「何をしているように見える?」

 薬子は両手を広げ、からかうように言う。手に持っている棒のようなものが、不吉な影のように宙を踊った。

「いや、わかんねえ」
「見てなさいよ」 

 言い残して、薬子は背中を向ける。

「待てっ!」

 乙女が強く呼びかたが、特に反応はない。

「何してんのか教えろ。ここの古墳壊そうとしてんのか?」

「……まあ、結果としては壊れるかも」
 薬子は、初めて応答らしい応答をした。


いったいっ!」


 バチンッと何かが弾けるような音と同時に、ミラの悲鳴が響く。その後丘の上、文字通り上空からミラの肢体がゴロゴロと転がり落ちてきた。

「な、何やってんだミラ。大丈夫か?」

 乙女が声をかけると、ミラはバネのように身体を跳躍させ、すぐさま起き上がる。

「めんどいから、アタマの後ろを蹴り飛ばして終わりにしようと思ったんだけど……」

「お前勝手なことすんな! ケンカしにきたんじゃねえっつって何回言やあわかるんだよ!」

「何かに跳ね返された。魔法円マジックサークルみたいなの作ってる」


「正直こんなものが来るなんて想定してなかったんだけど……まあ結果オーライね」
 薬子は口の端を薄く曲げて笑った。

「これに阻まれたということは、あなたの連れてるチャーミングなお嬢ちゃんは魔性のモノということよ。わかってるの?」

「いや、それはまあ、結構わかってはいるんだけど……」

「えっ?! なんですのそれ! 初耳なのですが!」

 雅樂が仰天している。

「それは後で話すからさ……」


「可愛いペットみたいに思ってるとヤケドするわよ」
 乙女が薬子の言葉に反論しようとした矢先、怒りに燃えたミラが一歩前に出た。


「わ・た・し・がっ! 飼い主なんだから!」


 止めようとする雅樂の手も間に合わず、ミラは弾丸のような勢いで薬子に突っ込んでいく。


「奥津鏡」


 ぼそりと何か呟き、薬子が手を微妙に動かすと何かがキラリと光った。

 瞬間、目前まで薬子に迫っていたミラが、遥か後方に吹き飛ばされる。先程よりも強烈な勢いで、山の麓まで行くかと思われる程の飛距離であった。

「ミ、ミラちゃん!」

「あー、お願いね。暗いから気をつけて」 

 ミラを追って慌てて駆け出す雅樂の背中に、乙女が声をかけると〝心得ました~!〟と、やっとのことで絞り出したような声が返ってくる。

『あいつ多分、あれぐらいなら大丈夫なんだけどな』 

 乙女はミラのことは心配してなかったが、むしろ雅樂にこの場から離れていて欲しかったので、そのまま行かせたのである。
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