77 / 96
19.胡乱な客
008
しおりを挟む
「えっ? 無理じゃねーよ。あたしあいつと普通に話したことあんぞ」
「まぁ、雑談なら大丈夫だろうが……」
「ワシもこいつもいいかげんなことは言うとらんにゃ! 信じてほしいみゃ! その、人が死んだりしたらワシら困るんにゃ。めんどくさいんにゃ」
どうにも真実味があるように思える、と乙女が考えていると〝ひにゃっ〟と何か間の抜けた声が聞こえた。上古だ。
「なんかかゆいにゃあ……」
腕を後ろに回し、腰の辺りを撫でている。
「嘘っ! 嘘よ! 嘘嘘嘘!」
ミラの絞り出すような声と共に、かなりのスピードで光球が飛んできた。開け放たれた扉の前に立っていた回向の近くで、何かに弾かれたようにそれらは跳ね返り、どこかに消えてしまう。何か意思のある存在が逃げているような動きだった。
「オトメ! そいつらの言う事信じちゃダメ! メチャクチャ自分勝手なんだから! アンタのことなんかどうやって利用しようかとかしか考えてないのよ!」
姿は現さず、いきりたったミラの声のみが屋敷を揺らす。
「こいつらのこと知ってんの?」
「……ちょ、直接は知らないけど似たのは知ってる……多分……」
「あの~、出来たらお嬢ちゃんにも力を貸して貰いたいんにゃけどにゃ~」
「貸すわけないでしょ! バカッ! バカッ! バカッ!」
再び、どこからか放たれた光球が上古の背中に数個衝突した。
「チクチクするにゃ~」
上古は長いヒゲをブルブルさせている。
「どれ」
回向は、飛来する光球を払いのけながら部屋の外に出た。
「ねえ、どこ行くの?」
乙女が呼びかけると、回向はゆっくり振り向いた。
「あの娘と少し話をしようと思う」
「やめてよ」
回向は頭の籠の中から無言で乙女を見つめている。
「怖がってんじゃん。ほっといてあげてよ」
「言う通りにするにゃ、回向」
「……わかった」
回向は素直に従い、腰を下ろした。
「こ、ここここ怖がってなんかないから! バーカバーカ!」
誰に向かって言っているのかわからない言葉を吐きながら、ミラはしつこく攻撃を繰り返す。
「うう~ん……」
上古は、背中に光球の攻撃を受けながら、さして気にしている様子もなく、思案を続けている。
「おおっ! そうにゃ! これにゃ!」
突然上古は、カッと目を見開いた。
「取りあえず乙女さんには、峠に向かってもらって薬子を止めて欲しいにゃ。お願い! この通り!」
上古は大きい両手を器用に胸の前で合わせて見せる。
「……よくわかんないんだけど、力づくであいつ止めればいいわけ?」
「そう! それにゃ!」
「まあそういうことになるかな」
上古と回向は、同時に首肯した。
「なーんか気が進まねーなー……。あたし今めっちゃ強くなってんだよ。ズルい気しない?」
「案ずるな。多分向こうの方が強い」
「バカッ! 余計なこというにゃ!」
慌てて口を出した上古は、回向とひそひそ話を始める。
「黙って行かせるというのもな……」
「どうせ説明したってわからんのにゃ!」
「しかし……」
「危ないってことだけ言うとけばいいんにゃ……後は実地で色々理解して貰うのが早道にゃ……まあここはワシにまかせて……」
「なあ、いいよ。行ってやっても」
乙女が一石を投じると、一瞬場がしんと静まり返った。
「まぁ、雑談なら大丈夫だろうが……」
「ワシもこいつもいいかげんなことは言うとらんにゃ! 信じてほしいみゃ! その、人が死んだりしたらワシら困るんにゃ。めんどくさいんにゃ」
どうにも真実味があるように思える、と乙女が考えていると〝ひにゃっ〟と何か間の抜けた声が聞こえた。上古だ。
「なんかかゆいにゃあ……」
腕を後ろに回し、腰の辺りを撫でている。
「嘘っ! 嘘よ! 嘘嘘嘘!」
ミラの絞り出すような声と共に、かなりのスピードで光球が飛んできた。開け放たれた扉の前に立っていた回向の近くで、何かに弾かれたようにそれらは跳ね返り、どこかに消えてしまう。何か意思のある存在が逃げているような動きだった。
「オトメ! そいつらの言う事信じちゃダメ! メチャクチャ自分勝手なんだから! アンタのことなんかどうやって利用しようかとかしか考えてないのよ!」
姿は現さず、いきりたったミラの声のみが屋敷を揺らす。
「こいつらのこと知ってんの?」
「……ちょ、直接は知らないけど似たのは知ってる……多分……」
「あの~、出来たらお嬢ちゃんにも力を貸して貰いたいんにゃけどにゃ~」
「貸すわけないでしょ! バカッ! バカッ! バカッ!」
再び、どこからか放たれた光球が上古の背中に数個衝突した。
「チクチクするにゃ~」
上古は長いヒゲをブルブルさせている。
「どれ」
回向は、飛来する光球を払いのけながら部屋の外に出た。
「ねえ、どこ行くの?」
乙女が呼びかけると、回向はゆっくり振り向いた。
「あの娘と少し話をしようと思う」
「やめてよ」
回向は頭の籠の中から無言で乙女を見つめている。
「怖がってんじゃん。ほっといてあげてよ」
「言う通りにするにゃ、回向」
「……わかった」
回向は素直に従い、腰を下ろした。
「こ、ここここ怖がってなんかないから! バーカバーカ!」
誰に向かって言っているのかわからない言葉を吐きながら、ミラはしつこく攻撃を繰り返す。
「うう~ん……」
上古は、背中に光球の攻撃を受けながら、さして気にしている様子もなく、思案を続けている。
「おおっ! そうにゃ! これにゃ!」
突然上古は、カッと目を見開いた。
「取りあえず乙女さんには、峠に向かってもらって薬子を止めて欲しいにゃ。お願い! この通り!」
上古は大きい両手を器用に胸の前で合わせて見せる。
「……よくわかんないんだけど、力づくであいつ止めればいいわけ?」
「そう! それにゃ!」
「まあそういうことになるかな」
上古と回向は、同時に首肯した。
「なーんか気が進まねーなー……。あたし今めっちゃ強くなってんだよ。ズルい気しない?」
「案ずるな。多分向こうの方が強い」
「バカッ! 余計なこというにゃ!」
慌てて口を出した上古は、回向とひそひそ話を始める。
「黙って行かせるというのもな……」
「どうせ説明したってわからんのにゃ!」
「しかし……」
「危ないってことだけ言うとけばいいんにゃ……後は実地で色々理解して貰うのが早道にゃ……まあここはワシにまかせて……」
「なあ、いいよ。行ってやっても」
乙女が一石を投じると、一瞬場がしんと静まり返った。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女
にせぽに~
ファンタジー
何処にでもいそう………でいない女子高校生「公塚 蓮」《きみづか れん》
家族を亡くし、唯一の肉親のお爺ちゃんに育てられた私は、ある日突然剣と魔法が支配する異世界
【エルシェーダ】に飛ばされる。
そこで出会った少女に何とプロポーズされ!?
しかもレベル?ステータス?………だけど私はレベル・ステータスALLゼロ《システムエラー》!?
前途多難な旅立ちの私に、濃いめのキャラをした女の子達が集まって………
小説家になろうで先行連載中です
https://ncode.syosetu.com/n1658gu/
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる