夏花

八花月

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14.訪問者たち

005

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「ねえ君たち、今幽霊がどうとかって聞こえたんだけど」

 萩森は敏感に、何やら不穏な空気を感じ取り、峻たちに声をかけた。

「はい。僕たち幽霊を撮影しに来たんです」
「なんか結構有名ですよね~。ここ。松良屋の女将さんにもたくさん待宵屋敷の怪談聞きましたよ~」 

「武音さん!」 

 萩森は血相を変えて乙女のほうに、身体を一回転させた。

「えっ、えっ?」
「ぼ、僕たちちゃんとその事伝えてますよね?」

「ちょっ、ちょっと待っててね」 

 不安そうな峻と冬絹を宥め、萩森は乙女と雅樂の間に割って入った。

「武音さん! 彼ら、幽霊を撮影するとか言ってますけども!」
「うん。宣伝になるからいいかと思って」

 乙女はいともたやすく答える。

「いいわけがないでしょうっ!」

「萩森さん、お客様の前ですので声を荒げるのは遠慮していただけると」 
 雅樂に言われ、萩森は声を落とした。

「何を考えてるんですか? ……撮影って彼ら、動画撮る気ですよ」

 着々と撮影準備している学生たちをチラ見しながら、萩森が言う。

「ちょうどいいじゃん。どうせ動画撮ってYOUTUBEかなんかにUPするんだろうし、ここで親切にしとけば、口コミで良い評判だって広がるよ。……なあ、それ撮った動画どうせネットに上げるんでしょ?」

 乙女に声をかけられた学生たちは、両人ともえもいわれぬ表情を見せた。

「いやあ……そういうのは別に考えてないんですよ~。あくまでも資料的な意味合いで」

「そうそう。僕たちはあくまで文化的な活動としてやってるんで。ただの物見遊山とか動画配信者とは一線を画してるんです」

「えっ? 電話で文芸部の宿題とか言ってなかった? ダメだったらクビになるとかいう。いいじゃん、よくわかんないけど、どうせ動画も撮るんだから、宿題とは別口でネット配信しちまえよ。有名になれるかもしんないぜ」

 乙女が言うと、峻が一歩前に出た。 

「いえ、まあ、あくまでキッカケは部の宿題だったんですが、目的意識自体は常に高く持っていたいというか……。俗に流れたくないんですよね」
「僕たちわりと高尚なんです~」

 乙女は学生二人組を遠慮なしに、ジロジロと上から下まで眺め回した。

「……その、文芸部の宿題なんだから、文章でなんか表現すんだよね? どんな感じのモン書いてんの?」

「あ、見ます~?」

「旅館で夜ヒマだからぼちぼち形にしてるんですよ。僕たちの合作なんですけど。いえ、あくまで下書き段階なんですが……これから推敲を重ねに重ねて……」

 グダグダと言葉を連ねつつ、峻は一冊の大学ノートを荷物から引っ張り出す。

「あ、見せてくれんだ。ありがと」

 軽く礼を言い、乙女はノートを受け取った。

 ノートを縦書きに使い、二人で交互に文章を書いているらしい。
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