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14.訪問者たち
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「は、萩森さんっ! 少し手伝っていただけせん?」
あ、山名さん! と上ずった声で呼びかけながら、萩森は走り寄った。
「どうしたんですか? この大荷物」
「しゅ、宿泊に、必要な、ものですわ」
ぜえぜえと息を荒くしながら、山名雅樂は力尽きたように肩から荷物を外し床に置く。
「あ、ああ、なるほど。でも、今さっき聞いたんですが、彼ら寝具は必要ないって……」
「違いますわよ」
険のある表情を萩森に向けながら、雅樂は言う。
「わたくしとあなたの分ですわ。お、乙女様はご自分の物をお持ちでしょうし」
雅樂は、喋り終わったのちゴクリと生唾を飲み込む。
「あのー……あなたが、山名雅樂さん? 〝空き家リノベーション係〟の?」
「申し訳ございません!」
乙女が声をかけると、雅樂はきっちり九〇度に身体を折った。
「わたくし、仰る通り空き家リノベーション係で主任をしております、山名雅樂と申す者です。武音乙女様が地方振興おたすけし隊に着任なされてのち、一度も顔を合わせることなく、この段に及びようやく直接ご挨拶できましたことを、深く謝罪いたしますとともに……」
「あ、いやいや、いいよそんなの! 萩森さんもたくさん手伝ってくれたし、今んとこスムーズにやれてるから」
乙女は手を振りながら言う。本当に気にしてはいない。むしろかしこまった感じで接せられると、照れてしまうのである。
「えーっと……なんか、大丈夫? 体調とか悪いんじゃないの?」
「はい、確かにずっと心身の調子を崩しておりまして……。こんな有様であの武音乙女様にお会いして失礼があったらと思うと、ご挨拶も出来ず……その節は誠に申し訳なく……」
「山名さん、市役所も休みがちだったんですけど、出てきてた時もほんっとうに調子悪そうでしたよ」
萩森はすかさずフォローするように言った。
「はい……。最近は猫のお化けも現れなくなり、ようやく復調の兆しが見え始め……」
「猫のお化け?」
思わず乙女は身を乗り出す。
「あ、あの、それあまり言わないほうが……」
「萩森さん、ご忠告はありがたいのですが……やはり尊敬する方には隠し事はしないほうが良いかと……変わり者扱いは慣れておりますので……」
「それ、子熊くらいのデカい猫じゃない?」
乙女が発した言葉を聞き、雅樂はハッと目を見開いた。
「もしや……乙女様も……?」
「うん。見た見た。休憩所の前で」
「そ、それは少し煤けた黒猫で、もっさりした感じの、気だるい感じで喋る風格のある大きい猫では……?」
「喋るかどうかは知らないけど……多分それだと思う」
乙女にとっては一瞬の事だったので、細かい見た目はうろ覚えだった。
「やはり!」
雅樂はかまわず、乙女の両手を強く握りしめる。
「ずっと不思議に思っておりました。何故あのような妖がわたくしの元にしつこく現れるのかと……。それは、今日この時のためだったのですね!」
「な、なんで?」
手を握ったまま、ぶんぶんと激しく上下させる雅樂に、乙女は若干引いていた。
「それは、その……絆と申しますか……。わたくしその、乙女様が斧馬におたすけし隊として来られると聞いた日から、何やら運命的なものを感じておりまして……あの猫は兆しのようなものだったのかと……ええと、その……」
雅樂は頬を紅潮させ、語尾が小さくなっていった。
「化け猫だって。なんか面白そうな話してる~」
「今日は幽霊のほうに集中しとけ」
学生二人組にも声は届いていたらしく、ぼそぼそ話しあっている。
あ、山名さん! と上ずった声で呼びかけながら、萩森は走り寄った。
「どうしたんですか? この大荷物」
「しゅ、宿泊に、必要な、ものですわ」
ぜえぜえと息を荒くしながら、山名雅樂は力尽きたように肩から荷物を外し床に置く。
「あ、ああ、なるほど。でも、今さっき聞いたんですが、彼ら寝具は必要ないって……」
「違いますわよ」
険のある表情を萩森に向けながら、雅樂は言う。
「わたくしとあなたの分ですわ。お、乙女様はご自分の物をお持ちでしょうし」
雅樂は、喋り終わったのちゴクリと生唾を飲み込む。
「あのー……あなたが、山名雅樂さん? 〝空き家リノベーション係〟の?」
「申し訳ございません!」
乙女が声をかけると、雅樂はきっちり九〇度に身体を折った。
「わたくし、仰る通り空き家リノベーション係で主任をしております、山名雅樂と申す者です。武音乙女様が地方振興おたすけし隊に着任なされてのち、一度も顔を合わせることなく、この段に及びようやく直接ご挨拶できましたことを、深く謝罪いたしますとともに……」
「あ、いやいや、いいよそんなの! 萩森さんもたくさん手伝ってくれたし、今んとこスムーズにやれてるから」
乙女は手を振りながら言う。本当に気にしてはいない。むしろかしこまった感じで接せられると、照れてしまうのである。
「えーっと……なんか、大丈夫? 体調とか悪いんじゃないの?」
「はい、確かにずっと心身の調子を崩しておりまして……。こんな有様であの武音乙女様にお会いして失礼があったらと思うと、ご挨拶も出来ず……その節は誠に申し訳なく……」
「山名さん、市役所も休みがちだったんですけど、出てきてた時もほんっとうに調子悪そうでしたよ」
萩森はすかさずフォローするように言った。
「はい……。最近は猫のお化けも現れなくなり、ようやく復調の兆しが見え始め……」
「猫のお化け?」
思わず乙女は身を乗り出す。
「あ、あの、それあまり言わないほうが……」
「萩森さん、ご忠告はありがたいのですが……やはり尊敬する方には隠し事はしないほうが良いかと……変わり者扱いは慣れておりますので……」
「それ、子熊くらいのデカい猫じゃない?」
乙女が発した言葉を聞き、雅樂はハッと目を見開いた。
「もしや……乙女様も……?」
「うん。見た見た。休憩所の前で」
「そ、それは少し煤けた黒猫で、もっさりした感じの、気だるい感じで喋る風格のある大きい猫では……?」
「喋るかどうかは知らないけど……多分それだと思う」
乙女にとっては一瞬の事だったので、細かい見た目はうろ覚えだった。
「やはり!」
雅樂はかまわず、乙女の両手を強く握りしめる。
「ずっと不思議に思っておりました。何故あのような妖がわたくしの元にしつこく現れるのかと……。それは、今日この時のためだったのですね!」
「な、なんで?」
手を握ったまま、ぶんぶんと激しく上下させる雅樂に、乙女は若干引いていた。
「それは、その……絆と申しますか……。わたくしその、乙女様が斧馬におたすけし隊として来られると聞いた日から、何やら運命的なものを感じておりまして……あの猫は兆しのようなものだったのかと……ええと、その……」
雅樂は頬を紅潮させ、語尾が小さくなっていった。
「化け猫だって。なんか面白そうな話してる~」
「今日は幽霊のほうに集中しとけ」
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