夏花

八花月

文字の大きさ
上 下
45 / 96
14.訪問者たち

003

しおりを挟む
 午後を大きく過ぎ、そろそろ上天が紅に色づき出した頃、件の学生二人組があの長い坂を登って待宵屋敷に到着した。

「こんばんはー。いや、これが待宵屋敷ですか。なんとも歴史の風格を感じさせるお屋敷で……あれ? なんかすっごい綺麗ですね」

 背の高いほうの学生は、首を回して玄関ホールを見渡している。声からして、これが自分の喋っていた幡野峻のほうだな、と乙女はあたりをつけた。そうすると、もう一人のくせっ毛で赤毛のほうが有純冬絹だ。

「うん。今リフォームしてんの。明かりもLEDに変えたし、危なそうなとこや劣化してるとこは補修してんだ」

「いやあ、ほんとすみません。オープン前なのに無理言っちゃって」

 峻のほうはにこやかに乙女と話しているが、もう一人の冬絹は我関せずといった調子で玄関ホールを見渡している。

「こんな綺麗になっちゃっても、ちゃんと出るのかなあ……」

「ああ、出るよ! そりゃもう100%間違いない」

 耳聡く冬絹の呟きを聞きつけた乙女が、太鼓判を押しそうな勢いで言った。

「お姉さんは見たことあります?」

「おう。あるある。だってあたしここ住んでっからね」

「えっ! ここお姉さんの家なんですか?!」

 驚いた峻が横から入ってくる。

「いや。違うけど色々あって今住んでんの」

「ね、ねえ君たち。ここ今本当に宿泊設備全くないけど大丈夫なの? 従業員もいないから、お世話も何も出来ないけど……。ベッドも布団も無いよ?」

 萩森は見かねたように口を出した。二人が寝具の代わりになるようなものを何一つ持っていないことを見て取ったのである。

「え? ああ、大丈夫ですよ。今日は僕たち一晩中起きてますから」
「えっ?」

 問われた峻は不思議そうな様子だが、返された萩森も不可解な出来事に遭遇した者の顔をしている。

「ねえ、バッテリー大丈夫かなあ……?」

「一晩くらいなら、今ある分で大丈夫だろ。切れそうになったらコンビニ行けばいいし」

「国道まで出れば、ちゃんと24時間開いてるコンビニあるぜ」

 乙女が言うと、今度は二人とも同時に顔を向けた。

「あ、分かってます。僕たちもう結構斧馬に滞在してるので」
「ご親切にどうも。ありがとうございます」

「武音さん、部屋はどうしますか?」

 萩森が声を掛ける。

「部屋?」

「ええ、一晩中起きてるにしても、一応こちらで部屋を割り当てて案内したほうがいいと思うんですが……。君たち、同室でいいでしょ?」

 萩森に問いを投げかけられた学生たちは、微妙な表情で顔を見合わせている。

「あー……どうする?」

 乙女が重ねて訊ねた。

「そのー、可能であれば、この玄関ホールでお願いしたいんですが」
「広いほうが何となく出やすそうだしね~」

「だよな! あたしもそれがいいと思うよ」

 二人の返事を聞き、乙女は歯を見せて笑顔を作った。

「あの、さっきからなんの話を……」

 萩森が口を開きかけたその時、轟音とともに、屋敷の扉が開いた。

「こっ、ここここっ、こんばんはっ!」

 大きいリュックサックを背負った、汗だくの女が出入り口に立っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...