夏花

八花月

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4.峻と冬絹

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「うおお! 一気に開けた場所に出たなあ!」

 しゅんは、子供のように鼻先をバスの窓にくっつけ、喰い入るように外の風景を見ている。

「一面の田んぼだね~」

 冬絹ふゆきが答えた通り、道の両脇には青々とした夏の稲が、絨毯を敷いたように生え揃っていた。

 二人ともTシャツにチノパン・Gパンという全く外見に気を使っていないことが丸わかりの恰好だ。

「おっ! あれ見ろよ! なんだあれ?」

「ああ……」

 峻が指差したほうを見遣ると、確かに盆地を囲む周囲の山の頂きの一角に、異様な建造物の建っているエリアがある。

「でけー風車ふうしゃ! あれ下の山の二分の一……は言い過ぎか。三分の一くらいあるぞ」

「あ、ああ、あれ風力発電のやつだね。似たようなの見たことあるよ」

「風力発電ね~。へぇ~、なんか未来感ある景色だなぁ~」

 峻の視線は、顔を窓に押しつけたまま、遠方の風車を追った。

「どう?」
「何が?」
「あれで一句」

 冬絹が言うと、峻は露骨に不機嫌になる。

「なんだよその顔~。もう斧馬に入ったんだから、始めなきゃダメでしょ。初めの句があれってのもいいんじゃない?」

「う~ん。まあそうかもな……。よし、出来た」

 嫌がっていたわりに、峻の作句はそれほど時間がかからなかった。

「〝夏空に 羽根冴ゆるなり かざぐるま〟どう?」

「かざぐるま……うーん。あれかざぐるまって感じじゃないなぁ……大きいし」

「その辺はお前の文章でカバーしろよ」

「いやまあ、してもいいんだけど、僕が言ってるのは句としてちょっと……って話で」

「いやだからさ、風力発電っていう未来感のある題材を、子供の玩具のイメージに落とし込むことによって……」

「あっ、ダメだ。それ以前の問題だよ」

 冬絹はスマホを弄りながら、呟く。

「以前ってなんだよ」

「〝冴ゆる〟って冬の季語だってさ。〝寒さが極まった感じ〟らしいよ」

「うわ~マジかよ~めんどくせ~」

 峻は、座席の背凭れに身体をあずけ、大きく伸びをした。

「じゃあどうっすっかなあ……。かざぐるまはかざぐるまで良いとして……」

「こだわるね」

 冬絹は軽く笑った後、足元のバッグからガサガサとパンフレットの類を取り出した。

「なにそれ?」

「斧馬とその周辺に関するパンフレット。松山で降りた時に駅にあったから持ってきてたの」

「俺にも見せて」

「君はこんなの見なくても、斧馬のこと知ってるでしょ? 推敲してなよ」

「いや、知らないよ。ここ来たの今回が初めてだもん」

 冬絹は峻の返答を聞き、眼を丸くする。
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