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「すいませーん……警察のものなんですけども~」
中が騒がしいので、僕は声を張り上げた。一瞬、ワイワイガヤガヤが消えてしんとなる。
文字通り森閑とした夜の大気の中で寂しげなフクロウの鳴き声が響いた。
僕はこの間に、自分の姿とちょっと後ろに立っているハルの姿を再確認してみる。
……よし、ぬかりはない。ちゃんと国道沿いにある駐在所のお巡りさんの姿になっている。
少し前にハルと一緒に観察して細かい部分まで再現出来るように頭の中に叩き込んだのだ。
「鍵でも掛かってるんですにゃ? 早く開けましょう」
「いや、待って。向こうで開けるまで待とう」
僕たちは小声でぼそぼそと喋った。中の人たちに証拠を片づける時間を与えたいのだ。
僕たちは警察の恰好はしているものの、逮捕なんか出来ない。
窓から目だけがこちらを覗いている。僕たちが本当の警察かどうか確認しているのだろう。
中ではドッタンバッタン大騒ぎをしている。畳はのける必要がないので、そんなに時間はかからないと思うが。
「あのー?」
急かすつもりはないのだが、黙っているのは不自然なのでもう一回ノックしてみた。
「はい~、ああえっと、ちょっとね~、今ね~」
曖昧な返事で胡麻化している。
片づけている、とも誰かの家というわけでもないので立て込んでいる、みたいなことも言えず、苦労の跡が見て取れる。
「にゃんちゅうごまかしかたですかにゃ~」
ハルの言葉には完全に同意であるが、これを聞くと結構冷や汗ものだ。
人間の姿になってもこの喋り方では、やはり僕が話したほうがいいだろう。
「いやー、どうもどうも……あれ? 巡査さん? どうしましたこんな夜更けにこんな場所に」
ハルに注意しようと思った矢先、戸が開いた。父さんだった。
「ああ、いえ。集会所に明かりが見えたもので……。ちょっと気になって。皆さん何してるんです? 今日は何かの集まりですか? 私は把握してませんでしたが」
あのお巡りさん、こんな話し方だったっけ? と内心ドキドキしている。今更確認のしようはない。
「把握って……そんなことまで警察に届ける義務はないはずだけど」
酔っているから強気なのか、父さんは不満げに言った。
「もちろんそうなんですけどね~、物音が聞こえてきたんで寄らせてもらったんです。宴会ですか? 楽しそうですね」
「……通報でもありました?」
建物の中から不安そうな声が聞こえてきた。
「いえいえ、まあ、そういうこともにゃきにしも非ずというか……」
ハルがもごもご言っている。気をきかせているのだろうが黙っていてくれた方が良かった。これでは全然人のことは言えない
「巡回の時間と場所が少し変わりまして……これからも時々寄らせてもらいますね」
我ながら即興にしてはまあまあ良く出来た嘘だった。
大人たちは顔を見合わせている。これで止めてくれればいいのだが。
もし止めてくれないのなら、またハルとこれをやらなければいけないのかもしれない。
「ああ、そこの方、確か駅前のほうの人ですよね? こんなところまで来るなんて、陣池の皆さんと仲が良いんですね」
「ええ、まあ」
胴元の男は、びっくりするくらい底光りのする暗い目で僕を見つめた。
「向こうのほうでもこういう集まり、あるんですか? 今度同僚に言っときますよ」
少しやりすぎだろうか? まあいい。
「……心得ました」
男はおとなしく頭を下げた。
「じゃあ、私はこの辺で! 宴会の邪魔して申し訳ありませんでしたね!」
僕が言うと父さんは一言〝ほんとだよ〟と残してバタンと戸を閉める。
……終わった。まだ胸の鼓動は早いままだ。
「これで上手くいけば良いですがにゃ~」
ハルがのん気な声を上げた。
中が騒がしいので、僕は声を張り上げた。一瞬、ワイワイガヤガヤが消えてしんとなる。
文字通り森閑とした夜の大気の中で寂しげなフクロウの鳴き声が響いた。
僕はこの間に、自分の姿とちょっと後ろに立っているハルの姿を再確認してみる。
……よし、ぬかりはない。ちゃんと国道沿いにある駐在所のお巡りさんの姿になっている。
少し前にハルと一緒に観察して細かい部分まで再現出来るように頭の中に叩き込んだのだ。
「鍵でも掛かってるんですにゃ? 早く開けましょう」
「いや、待って。向こうで開けるまで待とう」
僕たちは小声でぼそぼそと喋った。中の人たちに証拠を片づける時間を与えたいのだ。
僕たちは警察の恰好はしているものの、逮捕なんか出来ない。
窓から目だけがこちらを覗いている。僕たちが本当の警察かどうか確認しているのだろう。
中ではドッタンバッタン大騒ぎをしている。畳はのける必要がないので、そんなに時間はかからないと思うが。
「あのー?」
急かすつもりはないのだが、黙っているのは不自然なのでもう一回ノックしてみた。
「はい~、ああえっと、ちょっとね~、今ね~」
曖昧な返事で胡麻化している。
片づけている、とも誰かの家というわけでもないので立て込んでいる、みたいなことも言えず、苦労の跡が見て取れる。
「にゃんちゅうごまかしかたですかにゃ~」
ハルの言葉には完全に同意であるが、これを聞くと結構冷や汗ものだ。
人間の姿になってもこの喋り方では、やはり僕が話したほうがいいだろう。
「いやー、どうもどうも……あれ? 巡査さん? どうしましたこんな夜更けにこんな場所に」
ハルに注意しようと思った矢先、戸が開いた。父さんだった。
「ああ、いえ。集会所に明かりが見えたもので……。ちょっと気になって。皆さん何してるんです? 今日は何かの集まりですか? 私は把握してませんでしたが」
あのお巡りさん、こんな話し方だったっけ? と内心ドキドキしている。今更確認のしようはない。
「把握って……そんなことまで警察に届ける義務はないはずだけど」
酔っているから強気なのか、父さんは不満げに言った。
「もちろんそうなんですけどね~、物音が聞こえてきたんで寄らせてもらったんです。宴会ですか? 楽しそうですね」
「……通報でもありました?」
建物の中から不安そうな声が聞こえてきた。
「いえいえ、まあ、そういうこともにゃきにしも非ずというか……」
ハルがもごもご言っている。気をきかせているのだろうが黙っていてくれた方が良かった。これでは全然人のことは言えない
「巡回の時間と場所が少し変わりまして……これからも時々寄らせてもらいますね」
我ながら即興にしてはまあまあ良く出来た嘘だった。
大人たちは顔を見合わせている。これで止めてくれればいいのだが。
もし止めてくれないのなら、またハルとこれをやらなければいけないのかもしれない。
「ああ、そこの方、確か駅前のほうの人ですよね? こんなところまで来るなんて、陣池の皆さんと仲が良いんですね」
「ええ、まあ」
胴元の男は、びっくりするくらい底光りのする暗い目で僕を見つめた。
「向こうのほうでもこういう集まり、あるんですか? 今度同僚に言っときますよ」
少しやりすぎだろうか? まあいい。
「……心得ました」
男はおとなしく頭を下げた。
「じゃあ、私はこの辺で! 宴会の邪魔して申し訳ありませんでしたね!」
僕が言うと父さんは一言〝ほんとだよ〟と残してバタンと戸を閉める。
……終わった。まだ胸の鼓動は早いままだ。
「これで上手くいけば良いですがにゃ~」
ハルがのん気な声を上げた。
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