17 / 20
017
しおりを挟む
数日経って、僕が学校から帰るとちょうど父さんが玄関にいた。
「何してるの?」
「いやあ……変な箱が置いてあってな。なにか変なんだよな……」
父さんは〝変〟を連発しながら、丁寧に紐が掛かった桐箱を矯めつ眇めつしている。
「今ちょうど物音がしたと思ったら、玄関に置いてあって。宅配かと思ったんだけど、宛名シールも何も無いんだよな」
父さんが箱を傾けた瞬間、僕の目にある印が目に入った。
「それ! 僕が頼んどいた物!」
素早く箱を奪い取る。
「頼んだっても……間違いないのか? 通販とかじゃなさそうだぞ」
「あ、ああ、いや、友達に頼んどいたモノなんだよ。ありがと」
妙な顔をしている父親を後目に、僕は急いで自室に駆け込んだ。……本当は通販なのだが、そんな説明出来るわけがない。
扉を閉めて、さっきの印を確認してみる。あった。
小さく子猫くらいの可愛らしい手形が、スタンプかハンコのように箱の片隅に押してある。
『根古谷猫屋』
僕にはそう読めた。どういう仕組みになっているのかはわからないが、とにかくそう読めるのだ。
猫語であれば書き文字までも理解出来るらしい。……書き文字か? これ。
紐はそんなにキツく絞められてはおらず、切らずに解くことが出来た。
「あー、着ましたにゃ」
気配を感じ、窓を開けるとハルがぴょんっと窓枠に乗った。
行儀良く、僕が〝入っていいよ〟と告げるまで待ってハルは畳に着地する。
僕はそれなりに厳粛な気持ちになり、ゆっくりと箱の蓋を外し中の品物を取り出した。
「……二本ある?」
中身は言うまでもなく手ぬぐいである。パッと見には普通の手ぬぐいと見分けがつかない。
ただ、模様は猫の手形がポンポンと無秩序風に並んでいるもので、ちょっと変わっている。が、普通の店屋にも無いこともないだろう。
「『根古谷猫屋謹製・化け猫手ぬぐい』……?」
「おおっ、猫代文字まで読めみゃすとは。さすがですにゃ」
何故だがまた読めてしまったので、声に出したまでなのだが感心されてしまった。
「なんで二本あるの?」
「猫屋のサービスでしょうにゃあ」
猫屋通販の代金はカツオブシだった。
モノによって変わるらしいが、化け手ぬぐいは削ってないやつ支払いで中学生の僕としては、まあまあのお値段がした。
根古谷の修行で必要になるとかで、ハルは数本持っていったらしいがどこからどうやって手に入れたのだろう? まあ、そこは聞かなくてもいいだろう。
「せっかく二本ありますだによって、夏雄殿も参加しみゃしょう」
「ええ~……?」
「大丈夫。わたくし、はばかりながら術に関しては根古谷で修行した同期の中でも随一であると自負しておりみゃす。筆記はあまり得手ではありませんでしたが」
「筆記もあるんだ? っていうかそんなことはどうでもいいんだけど……」
カツオブシは僕が用意したが、通販の手続きは全部ハルまかせだった。
当たり前だけど。
どうも、ハルの言うことをそのまま信用していいのかどうか疑問が残る。けどまあ、仕方がないだろう。
ここまできたらこちらも乗りかかった船だ。
僕は腹を括った。
「何してるの?」
「いやあ……変な箱が置いてあってな。なにか変なんだよな……」
父さんは〝変〟を連発しながら、丁寧に紐が掛かった桐箱を矯めつ眇めつしている。
「今ちょうど物音がしたと思ったら、玄関に置いてあって。宅配かと思ったんだけど、宛名シールも何も無いんだよな」
父さんが箱を傾けた瞬間、僕の目にある印が目に入った。
「それ! 僕が頼んどいた物!」
素早く箱を奪い取る。
「頼んだっても……間違いないのか? 通販とかじゃなさそうだぞ」
「あ、ああ、いや、友達に頼んどいたモノなんだよ。ありがと」
妙な顔をしている父親を後目に、僕は急いで自室に駆け込んだ。……本当は通販なのだが、そんな説明出来るわけがない。
扉を閉めて、さっきの印を確認してみる。あった。
小さく子猫くらいの可愛らしい手形が、スタンプかハンコのように箱の片隅に押してある。
『根古谷猫屋』
僕にはそう読めた。どういう仕組みになっているのかはわからないが、とにかくそう読めるのだ。
猫語であれば書き文字までも理解出来るらしい。……書き文字か? これ。
紐はそんなにキツく絞められてはおらず、切らずに解くことが出来た。
「あー、着ましたにゃ」
気配を感じ、窓を開けるとハルがぴょんっと窓枠に乗った。
行儀良く、僕が〝入っていいよ〟と告げるまで待ってハルは畳に着地する。
僕はそれなりに厳粛な気持ちになり、ゆっくりと箱の蓋を外し中の品物を取り出した。
「……二本ある?」
中身は言うまでもなく手ぬぐいである。パッと見には普通の手ぬぐいと見分けがつかない。
ただ、模様は猫の手形がポンポンと無秩序風に並んでいるもので、ちょっと変わっている。が、普通の店屋にも無いこともないだろう。
「『根古谷猫屋謹製・化け猫手ぬぐい』……?」
「おおっ、猫代文字まで読めみゃすとは。さすがですにゃ」
何故だがまた読めてしまったので、声に出したまでなのだが感心されてしまった。
「なんで二本あるの?」
「猫屋のサービスでしょうにゃあ」
猫屋通販の代金はカツオブシだった。
モノによって変わるらしいが、化け手ぬぐいは削ってないやつ支払いで中学生の僕としては、まあまあのお値段がした。
根古谷の修行で必要になるとかで、ハルは数本持っていったらしいがどこからどうやって手に入れたのだろう? まあ、そこは聞かなくてもいいだろう。
「せっかく二本ありますだによって、夏雄殿も参加しみゃしょう」
「ええ~……?」
「大丈夫。わたくし、はばかりながら術に関しては根古谷で修行した同期の中でも随一であると自負しておりみゃす。筆記はあまり得手ではありませんでしたが」
「筆記もあるんだ? っていうかそんなことはどうでもいいんだけど……」
カツオブシは僕が用意したが、通販の手続きは全部ハルまかせだった。
当たり前だけど。
どうも、ハルの言うことをそのまま信用していいのかどうか疑問が残る。けどまあ、仕方がないだろう。
ここまできたらこちらも乗りかかった船だ。
僕は腹を括った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~
斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている
酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚
京都かくりよあやかし書房
西門 檀
キャラ文芸
迷い込んだ世界は、かつて現世の世界にあったという。
時が止まった明治の世界。
そこには、あやかしたちの営みが栄えていた。
人間の世界からこちらへと来てしまった、春しおりはあやかし書房でお世話になる。
イケメン店主と双子のおきつね書店員、ふしぎな町で出会うあやかしたちとのハートフルなお話。
※2025年1月1日より本編start! だいたい毎日更新の予定です。
ゼンタイフェチ女ですが受け入れてくれといいませんけど
ジャン・幸田
キャラ文芸
私はミチル。どこにでもいるような女の子だけど、家族に絶対言えない秘密があるの。ゼンタイフェチなのよ! 毎晩、家族が寝静まった後はゼンタイに着替えてお楽しみしているのフェチに目覚めたのよ。しかもフェチ友達がいっぱいいるのよ。変態? そんなことお構いなしよ! 今日も楽しんじゃうわ、ゼンタイでいろんなことを!
*いわゆるゼンタイ(全身タイツ)好きな主人公とその仲間との物語です。そのようなものが嗜好に合わない方は閲覧をお控えください。なお、特定のモデルはいない空想の物語ですので、どこかの誰かに似ていても気のせいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる