根古谷猫屋

八花月

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にゃかを見てみてください」
 まねき猫のように、指先をくいっと曲げて窓を差している。身長が低くてわかりにくかったが、集会所の中を示しているようだ。

 僕は窓から中を覗いてみる。畳が敷かれ何だか雑然としていた。

 あれっ、と僕は声を上げる。畳が敷かれているのはおかしい。

 ここは普段板敷きで何か寄合がある時だけ、畳が敷かれるのだ。きっちり隙間なく敷き詰められているのではなく、むしろのような塩梅で真ん中の方に並べられる。

 伝わるかどうかわからないが、武道場で柔道をする時に畳が並べられるあの感じだ。剣道をやる時は片づけられる。

 管理は地域全体でやっているので、誰かが勝手に中に入ることは出来ない。

 今年はウチが当番なので、父さんがカギを持っているはずだ。

「よーく見てくださいにゃ」

 注文が多い……しかし、言われた通りよーく観察してみると、食べ物や飲み物のカスらしきものや、見慣れない箱のようなもの等、僕の知っている集会所の様子とは少しずつ違いが見受けられた。

「なんか汚れてる」
「さもありにゃん」

 ハルはしたり顔で頷いた。

「宴会でもしてるの?」

 気をつけて五感を研ぎ澄ませてみると、ほのかに酒臭さが漂っている気がする。

「でもありますが……総じて賭博行為がおこにゃわれておりますようですにゃ」

「とばく……え? とばく、博打? なんの?」
 
「よくはわかりませんが、四角いものを転がしたり、時には紙札にゃども使っているようですが」

「サイコロにトランプ……花札?」

 僕もそれほど詳しいわけではないが、とても嫌な予感がしていた。

「で、それにウチの父さんも関係していると……」

 そういえばハルはもう見つかったのに、まだ父さんは夜に外出している。おかしいとは思っていた。 

「あっ、胴元ではにゃいようですよ。なにか調子の良い流れ者の男が仕切っているようで」

 まずは一安心だ。

「胴元って。詳しいね、ハル」

「賭博自体は我々もやりみゃすので……人間のものはルールがよくわかりませんが」

 猫がそんなことをしているとは初耳である。ちょっと各務さんが言っていた〝動物行動学〟に興味が出てきた。

「それでですにゃ、稲荷の神はそれを止めさせたいとお考えなのです」

「なーるほど。それが〝何かさせたがってる〟につながるわけか。ご神勅なんて言うからちょっと構えちゃったよ」

「いえいえ、それがにゃかにゃか容易ならざることで」

 ハルは少し居住まいを正した。もう中を見る必要もないので、僕もハルと目線の高さを合わせる。

「既にご神意を受けた狐たちが試みたのですが失敗しておりみゃして……次は我々猫組にお鉢が回ってきております。幸い私の根古谷修行もみゃに合いまして」

 言ってしまってからハルは〝しまった〟という顔をした。猫にも表情があるものだ。
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