13 / 20
013
しおりを挟む
……いや、そうでもないか?
僕は〝ハルが帰ってきますように〟とお願いしたら、何故か猫と会話出来るようになったのだ。そしてハルは帰ってきたのだが、僕の能力とそれは直接的には関係がない。
どうもあの様子だと放っておいても帰ってきたような気がする。
「ま、まあでもお礼参りはしたほうが……」
いいことは間違いがないというか……
いや、した、したぞ!
僕はあれからも能力を消してほしいがために、何度もお稲荷さんには足を運んでいる。
小銭を数枚分だが、少しは賽銭箱も重くしている。その際ハルが帰ってきたお礼も何十回も心中で唱えているのだ。
「油揚げか? 油揚げが問題なのか?」
しかし揚げが欲しいなら神様もそう言ってくれればいいのに。
「……う~ん、これ以上は僕もなんとも……。もうちょっと詳しい話がわからないとアドバイスしにくいですねえ」
各務さんはため息をついて、小さく首を振った。
「で、ですよね」
もういっそのこと全部喋ってしまおうか、とも思ったが寸でのところで踏み止まる。
「まあ、進展がありましたら教えてください。何か力になれるかもしれません」
「はい。今日はありがとうございました!」
僕はレジ内の狭いスペースで深々と頭を下げた。ここまで色々分かったのだ。ありがたい。
「ただ、なんでしょうね。私見を言わせてもらえれば何かが起こっている気がしますね。何かおかしな、いつもと違うことが」
「え? 陣池にですか?」
「いえ、沢巳全体にですね」
沢巳、は僕たちの住んでいる町の名前である。旧町名だ。今沢巳町は合併で飴子市の一部になっている。
「何かしら不穏な感じがするんですよねえ……町全体に、雰囲気っていうか」
「な、何かあったんですか?」
急にトーンが変わったので、こっちにも何か懸念が伝染してきたような気がした。
「いえ、特には何も……。具体的に何かって訊かれると困るんですが。僕の感じですよ。感じ。ほら、最近何か違う感じがしませんか? 町の空気が」
「そう言われると……」
どうだろう。何か変事があっただろうか? 少なくとも僕の周囲では……
「う~ん。でもあんまり関係ないような……って、現在の話じゃないんですったら!」
各務さんは僕以上にうろたえ、やがて空笑いしながら謝ってくれた。
それからすぐに、またお客さんがレジに来て僕は別れの挨拶もそこそこに家に帰った。
僕は〝ハルが帰ってきますように〟とお願いしたら、何故か猫と会話出来るようになったのだ。そしてハルは帰ってきたのだが、僕の能力とそれは直接的には関係がない。
どうもあの様子だと放っておいても帰ってきたような気がする。
「ま、まあでもお礼参りはしたほうが……」
いいことは間違いがないというか……
いや、した、したぞ!
僕はあれからも能力を消してほしいがために、何度もお稲荷さんには足を運んでいる。
小銭を数枚分だが、少しは賽銭箱も重くしている。その際ハルが帰ってきたお礼も何十回も心中で唱えているのだ。
「油揚げか? 油揚げが問題なのか?」
しかし揚げが欲しいなら神様もそう言ってくれればいいのに。
「……う~ん、これ以上は僕もなんとも……。もうちょっと詳しい話がわからないとアドバイスしにくいですねえ」
各務さんはため息をついて、小さく首を振った。
「で、ですよね」
もういっそのこと全部喋ってしまおうか、とも思ったが寸でのところで踏み止まる。
「まあ、進展がありましたら教えてください。何か力になれるかもしれません」
「はい。今日はありがとうございました!」
僕はレジ内の狭いスペースで深々と頭を下げた。ここまで色々分かったのだ。ありがたい。
「ただ、なんでしょうね。私見を言わせてもらえれば何かが起こっている気がしますね。何かおかしな、いつもと違うことが」
「え? 陣池にですか?」
「いえ、沢巳全体にですね」
沢巳、は僕たちの住んでいる町の名前である。旧町名だ。今沢巳町は合併で飴子市の一部になっている。
「何かしら不穏な感じがするんですよねえ……町全体に、雰囲気っていうか」
「な、何かあったんですか?」
急にトーンが変わったので、こっちにも何か懸念が伝染してきたような気がした。
「いえ、特には何も……。具体的に何かって訊かれると困るんですが。僕の感じですよ。感じ。ほら、最近何か違う感じがしませんか? 町の空気が」
「そう言われると……」
どうだろう。何か変事があっただろうか? 少なくとも僕の周囲では……
「う~ん。でもあんまり関係ないような……って、現在の話じゃないんですったら!」
各務さんは僕以上にうろたえ、やがて空笑いしながら謝ってくれた。
それからすぐに、またお客さんがレジに来て僕は別れの挨拶もそこそこに家に帰った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
なにげない猫の日常
夏目 沙霧
キャラ文芸
ゆるーっと毎日だらけて、時には人に癒しを与える猫。
その猫達の日常を小話程度にしたものです。
※猫、しゃべる
文・・・霜月梓
絵・・・草加(そうか) (着色・・・もっつん)
ブラック・ジャッキー ~視能訓練士Nの毛深い眼球~
伊佐坂 風呂糸
キャラ文芸
視能訓練士の中村は、家族と共に車で外出中、突発的な追突事故に巻き込まれ重傷を負ってしまう。
不幸な事に、その時の事故により最愛の妻と愛娘を一瞬にして失ってしまったのだ。
その後、回復した中村は、死亡したはずの家族と暮らす奇妙な日常生活にのめり込んでゆく。
彼の前に現れた妻と娘は、脳に受けた傷害の後遺症により生み出された妄想・幻覚の類いなのか、あるいは本物の亡霊なのか……。
ただ一つ言える事は、人間以外の何かである2人だった。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
加藤貴美華とツクモノウタ
はじめアキラ
キャラ文芸
――あ、あれ?……僕、なんでここに?……というか。
覚えているのは、名前だけ。付喪神の少年・チョコは自分が“何の付喪神なのか”も、何故気づいた時住宅街でぼんやりしていたのかも覚えてはいなかった。
一体自分は何故記憶を失っていたのか。自分は一体誰なのか。
そんなチョコが頼ったのは、加藤ツクモ相談所という不思議な施設。
所長の名前は、加藤貴美華という霊能者の女性。そこはなんと、政府から認可された“付喪神”に絡む事件を解決するという、特別な相談所で。
小熊カチョー物語
燦一郎
キャラ文芸
真面目でひたむきな小熊カチョーのサラリーマン生活の悲喜こもごもをシリーズでお送りします。
連載物でなくて、各回読み切りです。
キャストを紹介しておきます。
**********************************************
■小熊(おぐま)カチョー
・所属:企画部企画すいしん課
・役職:カチョー
・まじめ。45歳既婚者。子供がふたりいる。
・塩サバが大好物
■大馬(おおば)ブチョー
・所属:企画部
・役職:ブチョー
・見かけだおし。自己中心的。ずるがしこい。
■リス子さん
・所属:企画部企画課
・役職:なし
・美人で利発的。おおらかでいきいきしている。28歳独身。
■ねず美さん
・所属:総務部庶務課
・役職:なし
・適当。おおざっぱ。少々いじわる。
40歳独身。
■燕(つばめ)ちゃん
・所属:営業部営業課
・役職:なし
・入社2年目の女子社員。ひたむき。
正直。24歳独身。
■その他
・猫目(ねこめ)シャチョー
・牛音(うしね)ジョーム
・狸木(たぬきぎ)センム
・蛇丘(へびおか)さん(重要顧客)
・青鹿(あおじか)くん(企画すいしん課カカリチョー)
・舞豚(ぶぶた)くん(営業部営業課)
金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷
河野美姫
キャラ文芸
古都・金沢、加賀百万石の城下町のお茶屋街で巡り会う、不思議なご縁。
雨の神様がもてなす甘味処。
祖母を亡くしたばかりの大学生のひかりは、ひとりで金沢にある祖母の家を訪れ、祖母と何度も足を運んだひがし茶屋街で銀髪の青年と出会う。
彼は、このひがし茶屋街に棲む神様で、自身が守る屋敷にやって来た者たちの傷ついた心を癒やしているのだと言う。
心の拠り所を失くしたばかりのひかりは、意図せずにその屋敷で過ごすことになってしまいーー?
神様と双子の狐の神使、そしてひとりの女子大生が紡ぐ、ひと夏の優しい物語。
アルファポリス 2021/12/22~2022/1/21
※こちらの作品はノベマ!様・エブリスタ様でも公開中(完結済)です。
(2019年に書いた作品をブラッシュアップしています)
あやかしと神様の子供たち
花咲蝶ちょ
キャラ文芸
あやかしと神様シリーズ。
葛葉子と瑠香の息子、桂と薫の不思議体験ファミリーストーリーです。
子供たちが、いつの間にか迷い込んでしまう異界やあやかし、神様、宇宙人?と不思議な出来事を、家族で解決する物語です。
前作の
あやかしと神様の《恋愛成就》《円満成就》《昔語》を、読んでもらえると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる