根古谷猫屋

八花月

文字の大きさ
上 下
8 / 20

008

しおりを挟む
 ちょっと迷いながら、時々人に道を聞いて、曲がるところを二・三回間違え、やっと目的地に着いた。

 大きな門だ。これは……民家なのか? ちょっと、いや、かなり緊張する。

 これも〝文化財〟なのだろうか。存分にそのような雰囲気はある。

 幸い現代的なドアフォンもついていた。恐る恐る押してみる。

「はい? どなたですか?」
「えーと……その、山海堂古書店さんに用事があるのですが」

 〝古書店〟にアクセントをつける。

……今更だがどこからどう見てもこの佇まいは古書店ではなかった。間違っていたらどうしよう、とドキドキする。

「ああ、入ってください。山海堂に御用でしたら断わる必要はありませんよ」

 呆気ないほど簡単に言われた。

 言葉通り、お寺のような屋根のついた木製の門は押せば簡単に開く。

 中に入ると、すぐに厳めしい文字で『山海堂』と墨書きされた看板が立っていた。明らかに母屋とは別方向に誘導されて到着したところは大きな土蔵の前であった。

 さっき道端で聞いてきた通りである。聞いてきた通りではあるのだが俄かに信じられない。

「あれ、夏雄君じゃないですか。久しぶりですね」

各務かがみさん!」 
 
 古本屋の店主は〝各務さん〟だった。今思い出した。

 最後にあの古本屋に行ってからだいぶ経ったと思っていたのだが(三~四年?)、各務さんの印象は全く変わっていなかった。

 元々色白だったのが、さらに白くなったような気がする。土蔵を背景にして見ると、ますます幽霊とか妖怪のような風情が醸し出されていた。

 僕は我ながら失礼なことを考えているな、と思って鼻の奥の方でふふっ、と小さく笑った。

 各務さんは、タックの入った会社員の人がはくようなズボンを着用していた。上は日に映える白が眩しい開襟シャツ。眼鏡の下の柔和な目は、涼しい顔の中でこちらに向けられている。

 男の僕から見ても均整のとれた顔立ちで、いかにも女子に騒がれそうな見た目ではあるのだが、如何せんこの場所では周囲と調和しすぎていて〝イケメン〟という雰囲気ではなかった。

「あの、お店こっちに変わったんですか?」

「ああいえ、っていうか家賃が払えなくなったんですよね」

 耳の後ろを掻きながら、各務さんは気弱そうに笑った。

「商品の整理も大変だし、どうしようかな、って思ってたんですけど家族が使ってない土蔵を店にして良いって許可をくれたんで……なんとか営業してる感じですね」

 恥ずかしそうに目を瞬かせながら、訥々と話してくれる。よくわからないが、僕のような子供に訊かれもしないのに話さなくても良い事なのではないかと思う。

「まあ入って」

 古本を買いに来たわけではないのだが、土蔵の古本屋さんというのも正直興味があるので、お邪魔することにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マトリックズ:ルピシエ市警察署 特殊魔薬取締班のクズ達

衣更月 浅葱
キャラ文芸
人に悪魔の力を授ける特殊指定薬物。 それらに対抗するべく設立された魔薬取締班もまた、この薬物を使用した"服用者"であった。 自己中なボスのナターシャと、ボスに心酔する部下のアレンと、それから…? * その日、雲を掴んだ様な心持ちであると署長は述べた。 ルピシエ市警察はその会見でとうとう、"特殊指定薬物"の存在を認めたのだ。 特殊指定薬物、それは未知の科学が使われた不思議な薬。 不可能を可能とする魔法の薬。 服用するだけで超人的パワーを授けるこの悪魔の薬、この薬が使われた犯罪のむごさは、人の想像を遥かに超えていた。 この事態に終止符を打つべく、警察は秩序を守る為に新たな対特殊薬物の組織を新設する事を決定する。 それが生活安全課所属 特殊魔薬取締班。 通称、『マトリ』である。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

【完結】あの伝説のショートギャグ 猫のおっさん

むれい南極
キャラ文芸
元ホームレスのおっさんが、金持ちの男の子に拾われた。どういうわけか、こちらを猫と勘違いしているらしい。 おっさんは生活のために猫のフリをするが、そのうちに、自分は本当に猫になってしまったのかと思い始める。 予期せぬトラブルが日常を狂気に変えていく。 軽く読めるハートフルコメディ、ときどき下ネタの物語です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

赤司れこの予定調和な神津観測日記

Tempp
キャラ文芸
サブカル系呪術師だったり幽霊が見える酒乱のカリスマ美容師だったり週末バンドしてる天才外科医だったりぽんこつ超力陰陽師だったりするちょっと奇妙な神津市に住む人々の日常を描くたいていは現ファの連作短編集です。 5万字を超えたりファンタジーみのないものは別立てまたは別シリーズにします。 この街の地図や登場人物は1章末尾の閑話に記載する予定です。 表紙は暫定で神津地図。当面は予約を忘れない限り、1日2話程度公開予定。 赤司れこ@obsevare0430 7月15日 ーーーーーーーーーーーーーーー こんにちは。僕は赤司れこといいます。 少し前に認識を取り戻して以降、お仕事を再開しました。つまり現在地である神津市の観測です。 神津市は人口70万人くらいで、山あり海あり商業都市に名所旧跡何でもありな賑やかな町。ここで起こる変なことを記録するのが僕の仕事だけれど、変なことがたくさん起こるせいか、ここには変な人がたくさん住んでいる。霊が見えたり酒乱だったり頭が少々斜め上だったり。僕の本来の仕事とはちょっと違うけれど、手持ち無沙汰だし記録しておくことにしました。 ーーーーーーーーーーーーーーー RE Rtwit イイネ! 共有

処理中です...