根古谷猫屋

八花月

文字の大きさ
上 下
1 / 20

001

しおりを挟む
 九十八回目。

「お願いします。ハルを見つけてください」

 僕は手を合わせて賽銭箱の前で祈った。お金は最初の一回しか入れてない。百円入れたからそれで許してくれるだろう。

 僕は回れ右して、小走りで鳥居に向かって走る。

 鳥居の前、参道の真ん中に小さな石碑が立っていた。『お百度石』というらしい。
   
 九十九回目。

「ハルを見つけたいんです。お願いします」

 賽銭箱まで駆け戻ってもう一度祈る。距離は短いし楽勝だと思っていたが、もうヘトヘトだった。

 厳かな書体で『お百度石』と刻まれている石碑まで戻る。

 『ハル』はこの辺りの地域猫の名前だ。ただいま絶賛行方不明中。

 春に仲間に入ったのでハル。ちょっと生き物に対する誠意を疑われそうなほど単純だけど、僕がつけた名前じゃない。

 死んでしまったお爺ちゃんがつけたのだ。

 僕が三歳の時にきたので、もう十歳になる。猫としては高齢だ。

 初めてハルと触れ合った日のことはうっすら覚えている。初めから仲はそう悪くなかったと思う。

 微妙に自信が無さそうなのはハルがどこかへ行ってしまったからだ。

 また賽銭箱の前に戻ってきた。

 百回目。これで終わり。やっとだ。

「ハルを見つけられますように」

 最後、静かに胸の前で小さく柏手を打った。

 効果があるかどうかはわからないが……

『なんなんだお前は? 言っている意味がよくわからん』

 僕がお百度の余韻に浸りながらぼんやりしていると、いきなり心に割り込んでくる声が聞こえた。 

 慌てて周囲を見渡すが人っ子一人いない。それはそうだ。晩御飯の後でもう日も落ちている。ここは昼間でも人出の少ない、小さな稲荷のお社だった。

「あの、もしかして神様ですか?」

 恐る恐る、僕は一応声に出して訊ねてみる。

『心配するな。毎日百回も来られたらかなわん。願いは叶えてやる』

 声は頭の中でのみ響いているようだった。

「あ、ありがとうございます!」

『いちいち声に出さんでもいい。聞こえる』

 心底うるさそうな様子だ。

『それで、どうすればいいんだ?』
『あ、ああ、えーっと……』

 慣れないが頭の中で返してみる。どっちの声も脳内なので一人で話しているようなおかしな感じだった。

『お前の言い方はその都度違ってよくわからん』

 そんなに違ったっけ? なにせもう最後の方はヘトヘトだったから……

『違う。最後の方だけではない。最初の辺りからずっとまちまちだった』

 どうも話しかけるつもりでなくても、心の中で考えたことは神様に通じてしまうみたいだ。ヘタなことは考えないようにしないと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】あの伝説のショートギャグ 猫のおっさん

むれい南極
キャラ文芸
元ホームレスのおっさんが、金持ちの男の子に拾われた。どういうわけか、こちらを猫と勘違いしているらしい。 おっさんは生活のために猫のフリをするが、そのうちに、自分は本当に猫になってしまったのかと思い始める。 予期せぬトラブルが日常を狂気に変えていく。 軽く読めるハートフルコメディ、ときどき下ネタの物語です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

マトリックズ:ルピシエ市警察署 特殊魔薬取締班のクズ達

衣更月 浅葱
キャラ文芸
人に悪魔の力を授ける特殊指定薬物。 それらに対抗するべく設立された魔薬取締班もまた、この薬物を使用した"服用者"であった。 自己中なボスのナターシャと、ボスに心酔する部下のアレンと、それから…? * その日、雲を掴んだ様な心持ちであると署長は述べた。 ルピシエ市警察はその会見でとうとう、"特殊指定薬物"の存在を認めたのだ。 特殊指定薬物、それは未知の科学が使われた不思議な薬。 不可能を可能とする魔法の薬。 服用するだけで超人的パワーを授けるこの悪魔の薬、この薬が使われた犯罪のむごさは、人の想像を遥かに超えていた。 この事態に終止符を打つべく、警察は秩序を守る為に新たな対特殊薬物の組織を新設する事を決定する。 それが生活安全課所属 特殊魔薬取締班。 通称、『マトリ』である。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

赤司れこの予定調和な神津観測日記

Tempp
キャラ文芸
サブカル系呪術師だったり幽霊が見える酒乱のカリスマ美容師だったり週末バンドしてる天才外科医だったりぽんこつ超力陰陽師だったりするちょっと奇妙な神津市に住む人々の日常を描くたいていは現ファの連作短編集です。 5万字を超えたりファンタジーみのないものは別立てまたは別シリーズにします。 この街の地図や登場人物は1章末尾の閑話に記載する予定です。 表紙は暫定で神津地図。当面は予約を忘れない限り、1日2話程度公開予定。 赤司れこ@obsevare0430 7月15日 ーーーーーーーーーーーーーーー こんにちは。僕は赤司れこといいます。 少し前に認識を取り戻して以降、お仕事を再開しました。つまり現在地である神津市の観測です。 神津市は人口70万人くらいで、山あり海あり商業都市に名所旧跡何でもありな賑やかな町。ここで起こる変なことを記録するのが僕の仕事だけれど、変なことがたくさん起こるせいか、ここには変な人がたくさん住んでいる。霊が見えたり酒乱だったり頭が少々斜め上だったり。僕の本来の仕事とはちょっと違うけれど、手持ち無沙汰だし記録しておくことにしました。 ーーーーーーーーーーーーーーー RE Rtwit イイネ! 共有

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...