友達

八花月

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 そうだ。誰かに相談するにしても、一応中を確認してからだろう。

 開けないでいい、とは言われているが『中から音がしてるんですけど』なんて、子供の使いではないのだ。みっともない。

 鍵は今、持っていた。すぐにでも開けられる。

「浩二か? その、生きてるのか?」

 呼びかけてみる。シンプルで無機質なガタガタいう物音以外に答えはない。

 昭雄はなんだか恥ずかしくなった。

 そんなわけがないではないか。

 いや、でも音がしている時は霊安室の戸を開けるな、なんて指示も充分〝そんなわけがない〟。

 そうだった! 浩二は自分の手荷物の中からあの紙の人形を持ってきた。

 引き人形、だったか。

 ものは試しだ。入れてみるか。

 昭雄は屈んで、ヒトガタを引き戸の隙間から差し込もうとした。

 頭上でガチャカチャ、南京錠が鳴る冷たい音がする。


 ……昭雄はすっ、と途中まで入れた紙人形を引っ張り出した。

 おかしい。大真面目にこんなことをするなんて、自分はちょっとおかしくなっている。普通ではない。

 昭雄は薄汚れた紙をビリビリに破り紙片をポケットに突っ込んだ。くだらない。

 職務を遂行するだけだ。これでいいのだ。

 昭雄は迷わず南京錠を外し、勢いよく戸を開けた。

「開けんかあ」

 なんとも緊張感の無い声が響いた。

 引っ張られる。部屋の中に引き摺り込まれる。異様だった。ストレッチャーも、簡易祭壇もない。何も無い。

 真っ暗。ただ闇に引き摺り込まれる。
 
 中は光の存在出来ない空間だった。昭雄は必死でドアと壁の縁を掴んでいた。少しでも力を抜いたら引き摺り込まれる。

「誰か……!」

 声を上げようとしたその時、昭雄は誰かに後ろから押された。

 振り向く間もなかった。昭雄は暗黒の中に落ちていった。


「やっせなあ」


 ゲタゲタゲタゲタッ!

 南国の鳥を想起させる啼き声がこだました。
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