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八花月

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 宿直室の鍵を貰い、昭雄は地階に降りていく。

 ひんやりとした空気が、一つ一つの毛穴からひたひたと浸み込んでくる気がした。冷房が効きすぎではないだろうか?

 霊安室の前を通り、鍵を開けて宿直室に入る。

 この病院はなんといっても田舎の病院で、詰めている葬儀屋などもいない。地階にはあまり人が来ない。

 部屋の中はがらんとしている。

 湯沸かしポットや小さい冷蔵庫、電話、TV、寝具など基本的には宿直室に備わっているものしかない。

 隅っこに鉢植えが置いてある。

 鮮やかな緑の葉に、とろりと血に染まったような真っ赤な花が咲いていた。種類はよくわからないが、昭雄はきれいな花だな、と思った。

 地下の部屋に置いていてこんなに美しく花が咲くわけはない。前任者か同僚がどこかから持ってきて忘れたのかもしれなかった。

 昭雄はまだ若い。二十代だった。

 普通、この地域ではこの時代、病院の宿直はリタイアした老人などが小遣い稼ぎに就くものであった。そういう仕事としては人気職だった。

 なぜ昭雄が、というと一つに彼はこの地方のとある有力な一族の傍系に連なる者で、その伝手でたまたま空いたこの仕事に就けたのである。順番待ちを大分飛ばすことが出来たのだ。 

 もう一つ、彼は辛抱が足りないのか人付き合いが苦手なのか、どうにも何をやっても長続きしない。病院の宿直なら務まるのではないか、と家族に断を下されたのである。

 まあ、厄介者だったわけだが、自覚はあったので昭雄はおとなしく従った。

 田舎ではあるし、時代も時代なのでだいぶ非道い言われようもしたのだが、黙って言う事を聞いた。

 昭雄は研修で聞いたことを思い出しつつ、取っておいたメモを確認し第一日目の業務に入った。
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