11 / 11
011
しおりを挟む
翌朝、僕は住居を出ていつも通り漫喫に出かけた。当たり前だけど、そこにはもう建物はなかった。
警察やらなにやらが現場検証をしているかな、と予想していたのだが誰もいない。野次馬すら一人も見なかった。
類焼はなかったようでそこは安心したが、少し拍子抜けしたのも事実である。悪くすれば警察に捕まるか、尋問を受けるくらいは覚悟していたのだ。
僕は釘や尖った破片に気を付けながら、漫喫の焼け跡に入って行った。軍手を嵌めて瓦礫の撤去を始める。
ボランティア精神を発揮したわけではなく、あの防空壕のような地下室を探しているのだ。死体がどうなっているのか見てみたい。
単純にどうなっているのか知りたかった。
人間でないなら、死んだ後それなりの形になっている気がする。気がするだけだ。
道行く人々が、さりげなく僕をちら見していく。声をかけられないかヒヤヒヤしたがそれはなかった。
関係者だと思われたのかもしれない。関係者であることは間違いではない。
小一時間ほど探してみたが、死体は見つからなかった。確か今朝の時点で死亡者は発見されていない、とは報道されていたのだ。
だいたいが、あの地下へ通ずる落とし戸さえ見つからないのだ。全てが僕の幻覚だったのだろうか?
最後に大き目のガレキを引っぺがしてみた。焼けてない部分からアスベストらしきものが飛び散ったが気にしない。だいたいマスクもしていない。
落とし戸はない。他のゴミもどかしたが、冷たい焼け焦げたコンクリートの床が新たに姿を現しただけだった。
「あっ」
隅っこの小さな建材の下に、マンガ本が一冊転がっている。手塚治虫の『火の鳥』だ。
月刊マンガ少年別冊の版である。焦げ跡もなく濡れてもなく、不思議なほどまっさらで美しい。まるで真空保存されていたように新品そのものに見えた。
僕はそれを懐に入れて家に持って帰った。なんとなく、そうすべきだと思ったのである。
それからしばらくして、僕は紀見屋社長に呼び出され漫喫の店舗を一軒任されることになった。
店長のようなものだが、権限はもう少し大きいらしい。系列店があったことも、僕はこの時初めて知った。
僕は後々まで『何故そのようになったのか?』を考え続けたのだが、明確な答えは最後まで得られなかった。
仮説は幾つかあるのだが。
了
警察やらなにやらが現場検証をしているかな、と予想していたのだが誰もいない。野次馬すら一人も見なかった。
類焼はなかったようでそこは安心したが、少し拍子抜けしたのも事実である。悪くすれば警察に捕まるか、尋問を受けるくらいは覚悟していたのだ。
僕は釘や尖った破片に気を付けながら、漫喫の焼け跡に入って行った。軍手を嵌めて瓦礫の撤去を始める。
ボランティア精神を発揮したわけではなく、あの防空壕のような地下室を探しているのだ。死体がどうなっているのか見てみたい。
単純にどうなっているのか知りたかった。
人間でないなら、死んだ後それなりの形になっている気がする。気がするだけだ。
道行く人々が、さりげなく僕をちら見していく。声をかけられないかヒヤヒヤしたがそれはなかった。
関係者だと思われたのかもしれない。関係者であることは間違いではない。
小一時間ほど探してみたが、死体は見つからなかった。確か今朝の時点で死亡者は発見されていない、とは報道されていたのだ。
だいたいが、あの地下へ通ずる落とし戸さえ見つからないのだ。全てが僕の幻覚だったのだろうか?
最後に大き目のガレキを引っぺがしてみた。焼けてない部分からアスベストらしきものが飛び散ったが気にしない。だいたいマスクもしていない。
落とし戸はない。他のゴミもどかしたが、冷たい焼け焦げたコンクリートの床が新たに姿を現しただけだった。
「あっ」
隅っこの小さな建材の下に、マンガ本が一冊転がっている。手塚治虫の『火の鳥』だ。
月刊マンガ少年別冊の版である。焦げ跡もなく濡れてもなく、不思議なほどまっさらで美しい。まるで真空保存されていたように新品そのものに見えた。
僕はそれを懐に入れて家に持って帰った。なんとなく、そうすべきだと思ったのである。
それからしばらくして、僕は紀見屋社長に呼び出され漫喫の店舗を一軒任されることになった。
店長のようなものだが、権限はもう少し大きいらしい。系列店があったことも、僕はこの時初めて知った。
僕は後々まで『何故そのようになったのか?』を考え続けたのだが、明確な答えは最後まで得られなかった。
仮説は幾つかあるのだが。
了
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
扉をあけて
渡波みずき
ホラー
キャンプ場でアルバイトをはじめた翠は、男の子らしき人影を目撃したことから、先輩の中村に、ここは"出る"と教えられる。戦々恐々としながらもバイトを続けていたが、ひとりでいるとき、その男の子らしき声がして──
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
孤悲纏綿──こひてんめん
Arakane
ホラー
ある日、一人の男の元に友人から日記帳が届く。その日記帳は、先ごろ亡くなったある女性高校教師のもので、そこには約四十年前に彼女が経験した出来事が事細かく書き記されていた。たった二日間の出来事が、その後の彼女の人生を大きく変えることになった経緯が……。
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
【完結】ハッピーエンドのその後は・・・?
夜船 紡
恋愛
婚約者のいるアイザックに惹かれ、秘密の愛を育んでいたクリスティーヌ。
ある日、アイザックはクリスティーヌと生きることを決意し、婚約者であるイザベラに婚約破棄を叩きつけた。
障害がなくなった2人は結婚し、ハッピーエンド。
これは、ハッピーエンドの後の10年後の話。
物語の終わりが本当に幸せなのだという保証は、どこにもない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる