暁の刻

煉獄薙

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ally

iron

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雫が目を開けたとき、目元を何かで覆われていて真っ暗だった。

さらに、声を出せないように猿轡をし、両手両足は何かで縛られていた。

人が近くにいる可能性も踏まえ、雫は冷静に辺りを伺う。


枕元に誰かがいる。

そう気づいたとき、戸が開く音がした。

「…起きた?」

「まだ」

前者は吉田の声に似ていて、部屋にいるのは女の子だということが分かった。

「…起きたら教えてって久坂が言ってたよ」
「……あいつが何を考えてるか全然わかんね」

よほど女の子に嫌われるような奴なのだろう。久坂という男は……

「…まぁ、起きたら僕にも教えてよ」

吉田らしき男はすぐにいなくなる。

気配が完全に消えてから、女の子は大きくため息をついた。
そしてはっきりと私に聞こえる声で
「…もう起きてるんでしょ?」
と訊ねた。


「…寝てるふりとかしなくていいから。あの薬、私が作ったし、効果時間も私はしっかりと分かってるし」

口調からして嘘は言っていなかったため、観念してたぬき寝入りをやめた。

「…ん、」

声を出すことは出来ないため、肯定だけをすると、袋のようなものを外し、猿轡もほどいてくれた。

質素な着物に身を包んだその少女は、どことなく違和感があった。

それは適当に結ばれた髪だけでなく、雰囲気全てであった。

「…私は朧真琴。あなたは暁月雫、なんでしょ。雫はなんで男の子の格好をしているの?」
「…あなたは、何者?」

真琴は小さく笑い、「あなたと同じ未来人なんだって」と答えた。

「…それにしても変な奴に目をつけられたね」

「…吉田のこと?」

真琴は首をふった。

「…久坂のこと」

先ほどから話に上がってくる久坂という男。
一度も会ったことがないのだが、誰なのだろうか。

雫は自分の記憶を遡る。

忘れているものがあるとはいえ、人はほとんど覚えているはずなのに……


そのとき、戸がスッと開いた。

「…まぁ、名前を変えていたら分からないよね」
「久坂!」

見張っておいてと言われたのに、仲良く話をしている。

そんなのがバレてしまったと真琴は少し動揺していた。

だが、「真琴、君は外に出ていてもらえるかな?」
その事については触れず、出ていけと言った。




真琴が出ていくと、久坂は雫の近くに座った。

その間、雫は動揺して、言葉を失っていた。

「…久しぶりだね、雫」
「…司、兄さん?」
顔についた特徴的な傷は、もう会うことのないはずの兄のものだった。
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