暁の刻

煉獄薙

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ally

hurt

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「…暁月が消えた?」

「…長州の人間が出入りしていた時なので恐らく……」

連れていかれたのだろう。

山崎は、冷静に報告しつつ、雫のことを思い出していた。

あれほど怖がっていたくせに、あの日はそんなことを気にかける暇すらなかった。

「…総司を呼んでこい」

土方さんに言われ、廊下をトボトボ歩いていた。

土方さんの用はこのことの報告と、これからの対策についての話だろう。

未来人の雫が関わっているから、沖田さんから話を聞く必要がある。

だけど……

「んーやっぱ辛いなぁ」

狙われているのが分かっていた上で雫にお願いをした。

雫の存在を餌のように使っておびきだしたのだ。

彼女もその考えには薄々気付いていたようだが、餌を持っていかれるつもりは毛頭なかった。

絶対に守る覚悟でいたのだが……





「……そう。わかった」

雫のことを報告し、土方さんからの伝言を伝えると、意外にもあっさりとしていた。

サッと動く彼の後ろをついて歩く。

動揺している様子はあまり見られない。

むしろ覚悟していた様子すら見受けられた。


「…失礼します」

「山崎から話は聞いてると思うが」

低いトーンで、申し訳なさそうに口を開いた 。

だが、それに対して総司は冷静にしている。

「…雫は、大丈夫ですよ」

僕らが助けますから、と。

僕ら、という言葉に二人は不審感を覚えつつ、ただ総司を見ていた。

にこにこと笑っている総司だったが、心の底でははらわたが煮えくり返っていた。


雫は笑っていた。

笑って言った。

「…私は、絶対に総司の味方ですから」


あの言葉は嘘ではない。

だから、連れ去られても、あいつらの仲間にはならない。
ずっと抵抗し続けてくれるはずだ。

雫を気に入っている吉田が、そう簡単に引き下がるとは思えないし、言うことを聞かないから殺す、ということもしないはずだ。


「…僕には仲間がいるんです。そいつに雫の救出を手助けしてもらいます」

一番の理想は、一ヶ月後にあるはずの池田屋事件で、吉田を殺すこと。
そうすれば、雫が狙われることもなくなる。

「…雫のことは、他の隊士には内緒にしておいてください」

未来のことは、未来の人間が解決しなければ………
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