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ally
glen
しおりを挟む「…楓、これを菊の間に!」
「はい」
それから一週間くらいした夜は少し慌ただしかった。
何でも、大人数で客が来たらしく、ほとんどの太夫が出ていた。
そのため、雫のようにペーペーの遊女は酒の用意などに駆り出されていた。
途中、何度かすれ違うその客に、気分が悪そうにしている人もいて、空いている部屋を案内したりして、結局山崎とはあまり顔を合わせる時間が取れなかった。
「…あ、」
また廊下にしゃがんでいる人がいた。
「…大丈夫ですか?横になるお部屋を用意しましょうか?」
さっきまで何度も繰り返した言葉だから、思いの外スラスラと出てきた。
「…うん、お願いしていいかな?」
よほど辛いのか、口元を押さえている。
すぐに空いている部屋を確認し、その男性を案内した。
「…お連れ様はどちらのお部屋ですか?」
「…菊の……」
「…菊の間ですね。お帰りになるときにお声がけしますね」
スッといなくなろうとすると、男は雫の裾を引っ張った。
「すいません、自分は戻らなくては…」
「何で君はそんな格好をしているの?」
男はそのとき初めて顔を見せた。
「よ、しだ……」
「やぁ、雫。君、もしかして女の子だったの?」
余裕ある笑みを浮かべる吉田に対し、雫は護身用の刃物も何も所有していないため警戒して距離をとっていた。
「…今日は最後のお願いに来てみたんだー。ねえ、やっぱり来る気はない?」
「何度も言ってるよね?私はあなた達につく気はないよ」
「…んー、そう答えられたら困るんだよねー。今日は連れてこいって言われてるし……」
「ついて行くわけないでっ…………しょ?」
体から力が抜けていく。
思わずその場で膝をついた。
「…やっと効いてくれた。あぁ、本当これに耐えるのキツいんだよねー」
吉田は戸を開けて換気をした。
「…なに、した?」
「最近居候してた子が作ってくれた物なんだけどね、慣れたら平気なんだ。しかも効果は短いから……」
吉田は雫の口に布を押し当てた。
最初は抵抗していた雫も、次第に気が遠くなり、眠ってしまった。
「こっちは強いんだけどね、ってもう聞いてないよね…」
薄暗い部屋で、吉田の声だけが響いていた。
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