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ally
eddy
しおりを挟む「お待たせいたしました」
山崎と一緒に遊女の仕事を始めてから一週間が経った。
お酒を乗せた盆は、最初は不安定でぐらついていたが、今では落ち着いて運ぶことができる。
「…おや?新しい子?」
「はい。楓といいます。よろしくお願いします」
芸を出来るわけではないが、太夫の付き人としても動いたりしていた。
楓と言うのは、総司がつけてくれた。
風のようだからと言っていた。
理由はよく分からなかったけど、なんだか響きが気持ち良かったからそれにした。
今日も長州の人は来なかった。
毎日来るものではないらしいし、ここに来るためにはそれなりのお金が必要なのだと聞いた。
「…楓、こちらにおいで」
裏で休憩していた私に、太夫の山崎さんが声をかけた。
「はい、菫姉さん」
山崎さんは男であることを疑ってしまうくらいに美しいと思う。
「…どうかしました?」
どちらの仕事内容か判断するため、小さい声で訊ねる。
ニコッと微笑み、「今日も、頑張りましょな?」とだけ。
今までそんなこと言ったことないのにと、その意味を考えた。
恐らく今日来ているのだろう。
長州の人間たちが。
「そない怖がらんでええよ。いつも通りすればええ」
「はい。」
長州の人間の中に、吉田がいたらどうしようといつも考える。
本当にバレないのか。
バレたらどうすればよいのか。
「…止めるか?」
「いえ、大丈夫です」
怖がるなんてらしくない。
雫は笑顔で答えた。
*****
「失礼いたします」
ざっと全体を見るが、吉田はいない。
「…お?新しい子?」
どの人も同じ反応をする。
自分も同じように反応して、酒を注いだ。
話を適当に聞き流すが、有力な情報は得られなかった。
「…またおこしやす」
一刻ほどしてから彼らは帰っていった。
片付けをしようとしていると、他の遊女から声をかけられた。
自分に指名がかかっているという。
基本的に山崎さんとセットで扱われる私が、しかもまだ一週間程度の私が名指しされるのはおかしい。
警戒しながら座敷へと続く廊下を歩いていた。
「…失礼いたします」
「…待ってたよ!」
グイッと引っ張られる。
聞き慣れた声に顔をあげると、笑顔の平助がいた。
「…へい、すけ?」
突然のことに頭が追いつかなかった。
ここで働くことは総司しか知らないはずだ。
「…土方さんと様子を見に来ようとしたら着いてきたんだよ」
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