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act
lag
しおりを挟む「…君の存在は、イレギュラーなんだ」
一呼吸置いて、東雲は雫を見据えた。
「…誰かが意図的、もしくは意図なんてないのかもしれないけど、君をこの時代に送った」
「…うん、それは何となく今の聞いて考えてた」
もし何も意味がないのならば、タイムリープという莫大なエネルギーを無駄使いしたということになる。
しかし、タイムリープで元々あちら側……吉田達の前に落ちていたら、雫は無条件で長州に拾われていただろう。
どこかで異常が起きて、総司の前に落ちたのかもしれない。
「…その誰かっていうのが変革者の可能性が高い。つまるところ、君が僕らサイドにいることは僕らにとって幸運なことなんだ」
だから、と少年は続ける。
「だから君のその知識や力を貸してもらえないかな?」
東雲は不安げに、だが心からそう言っていた。
総司も雫の答えを、息を殺して待っていた。
「…そんなの、答えはとっくに決まってます」
雫は二人の手を取る。
「…恩を仇で返すつもりはありませんし、私も過去は変えちゃいけないことだと思います。だから、自分に出来ることなら、何でもしますよ」
雫の笑顔につられて、二人も少しだけ笑っていた。
*****
「……それで、総司を外して話したいことってなんですか?」
総司は少し離れた場所に立っていた。
こちらの話は聞こえないけど、視認は出来るほどの距離だった。
「…君に一つだけ確認しておきたいことがあってね……」
言葉を濁らせ、次の言葉を選んでいるようだった。
そして、顔をぐっと近づける。
「…記憶が無くなってるよね」
雫の眉がピクリと動いた。
「…僕と会うの2度目なんだよね。君、僕の雰囲気を感じとって警戒してたみたいだけど、はじめましての雰囲気が出てたよ」
誤魔化してしまおうかとも思ったが、東雲の悲しそうな顔を見て止めた。
「…全部忘れてしまった訳じゃなくて、所々記憶の抜けがあるね」
仕方ないと笑い、総司には言わないでほしいと告げた。
「出来るだけサポートはしてあげるけど、君はその瞳を使わない方がいい」
「…ありがとう。でも必要だと思ったら使うから止めないでね」
東雲の優しさを受け入れたうえで、雫はそう宣言した。
たとえ代償が何であろうと、守るために使える力は使う、という雫の決意。
東雲は「わかった」とだけ言い、総司の元へと戻っていった。
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