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act
joe
しおりを挟む「…この子はさっきのでわかるように薬を作れる。植物の知識があるからな。それで、新撰組を潰すために利用出来ないかと思ってお前に預けたいと考えた」
「新撰組を潰すためなら別に俺に預ける必要はないだろ?」
ちらりと真琴を見るが、真琴はこちらの話など興味を持っていないようだった。
「…今度、外国船を攻撃する。それで京から離れるんだ」
唐突な話に一瞬眉をひそめたが、一呼吸置いて
「なるほどな。それなら分かったが、こいつの取り扱いを教えてくれ」
と返した。
「私は動物じゃないんだよー」
薬を作りながら真琴が口を挟む。
しかしその言葉は二人に無視され、
「…普通の女の子よりは扱いやすいぞ。植物以外の要求はしてこないからな」
「ならいいや」
「なんか扱いが適当すぎるぞー」
少女の突っ込みは風に消えた。
*****
「…じゃあ、そいつをよろしく頼むな」
「まぁ、任せとけ!!」
「…晋作に全部押し付けるから大丈夫」
マジかよ!と大声で叫ぶ高杉に対し、なんとも怠そうな様子の吉田。
久坂は玄関で見送るとすぐに中へと入っていく。
それを気配で確認しつつ、京の街へと戻っていった。
「…吉田?どうかした??」
自分への視線に気づいた真琴が顔をあげて訊ねる。
「吉田っていうのバレるから違う呼び方にしてくれない?」
「…あ、そっか……んじゃ何がいい?」
「栄太郎って呼んでよ。幼名だから」
今は呼ばれない懐かしい名前だが、姿を欺く時には使いやすい名だ。
その意図を理解したのかしてないのか、
「じゃあ栄太郎も私のこと真琴って呼んでね!」
晋作も、と笑顔で応えた。
真琴は予想に反して、京の街並みを見てはしゃぐことなく、隠密行動を心がけてくれた。
そして隠れていた宿まで入ると、真琴は深く息をついた。
「…しばらくは久坂に嫌味を言えなくなるのかぁ」
「晋作に言えばいいよ」
「そっかぁ、そだねー」
抑揚のない反応は本当か嘘かを判別しにくい。
しばらくぼんやりと外を眺めていた真琴は、吉田を振り返り、
「…そういえば栄太郎、君にこれあげる」
ぽいっと渡したのは何かの包み。
開けてみると緑色で、草の匂いがした。
「…これは、薬?」
吉田が訊ねると、当たり前の事を聞くなと言わんばかりに視線を寄越した。
「…傷、医者に見せれないからって適当にしすぎ。しかも、傷のせいかは分かんないけど最近寝不足でしょ。それの薬。有り物で作ったから効能は低いだろうけど」
それだけ言うと、真琴はまた外を眺めていた。
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