暁の刻

煉獄薙

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act

ivy

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「そんな簡単な話じゃないよ?」

真琴の瞳は死に近い光をしていた。

「………」

二人は黙ったまま次の言葉を待っていた。

「…タイムリープには代償が必要になる。人によって違うけど、私が失ったものは記憶。ここにくるまでの自分についての記憶を代償にタイムリープした。それだけが私が分かっている情報」

そう言ったあと、真琴は袖をまくりあげた。
高杉は少し慌てたが、すぐに腕に記された紋様に気をとられた。

それは鎖のような形をして腕に巻き付いているようだった。

「これはタイムリープした人間に特有のマーク……印。私はこの時代でたまたま久坂に見つけてもらって生き延びたけど、どうしてこの時代に来たのかの理由が全く思い出せないんだよ」

ニコッと微笑んで、寂しそうに外を眺めた。

「で、でもお前植物のことに詳しいって聞いたぞ?記憶が無いんじゃねーのか?」

「…無くした記憶は自分が何者なのかと今までの自分がどうやって生きていたのか。…何故か知識だけはそのままあるんだよねー」

軽い口調で言った。
久坂はまだだろうか。
帰ってきた方が説明しやすいのに、と真琴は呟いていた。

「あ、そだ。貴方達のこと聞かせてよ。凄く強いんでしょ?というか……」

言葉を途中で止めて、真琴は吉田にぐっと顔を寄せた。

「…貴方、瞳も灰色なんだ。髪の色も綺麗だけど、その瞳も綺麗だね」

「……っ!…男に綺麗とかいうもんじゃないだろ」

吉田は思いっきり顔をそらし、動揺を見せた。

「…ん?変なの…」

真琴が首を傾げるのとほぼ同時に戸が開いて久坂が入ってきた。

「…久坂遅いよ」

「…お前がついでといって変な注文するからだろ?ほら、これで合ってるか?」

「…あ、正解正解。お疲れ様ー」

帰ってきた久坂は、真琴の頭を撫でると何かを渡した。

その中身を確認した真琴は満足そうに笑っていた。

「ごめんな、遅くなって」

「お前、情報をわざと制限してただろ。」

キッと睨む吉田の視線を適当に流し、久坂は真琴の横に腰かけた。

「だって本人の口から聞かないと信じないだろ?」

「だとしても言う分は問題ないだろ?なんで……」

「久坂、話長くなりそうなら私席はずそうか?薬作りたいし」

喧嘩をし始めた二人に、全く動じることなく話しかける真琴はある意味で強者だと、高杉だけが思っていた。

「…いや、このままここにいてよ。」

薬はそこで作ればいい、と軽く言う久坂に、真琴は口を尖らせた。

「久坂が苦しむ薬でも作ろうかな」

怖いことをさらっと言う真琴に、内心同意する高杉だった。
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