暁の刻

煉獄薙

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「…清潔な布と水を持ってきてください!」

屯所へと戻ってすぐに、雫は皆に指示を出した。
医者が来るまでの応急手当と言い、出血している腕の上部を紐で軽く縛り、その腕を怪我の部分を押さえながら持ち上げる。

だが、すぐにその作業を他の人間に任せ、高熱を出している総司の頭に濡れタオルを置いた。

医者はその後すぐに訪れた。




「………君の処置が早かったお陰だね。彼はもう大丈夫だよ」

初老の医者は安堵する笑みを浮かべ、雫の頭を撫でた。

「…まだ幼いのに賢い子なんだね」

子供扱いされたのは癪だが、医者はきちんとその後の治療についても教えてくれた。

医者というものは、ああも心の広い人間なのだろうか。

雫の知っている医者とは全く異なるため、違和感を覚えていた。



*****


「…雫ちゃん、交代しよ」

「…山崎、さん」

それから二日後。
眠そうな目をしている雫に、入ってきた山崎は提案した。

「…いや、大丈夫で、すっ!?」
ぐいと顔を上に向け、目をしっかりと見て
「…やっぱ寝るべきやわ………目が赤くなっとる」
赤。
そう言われて、雫はすぐに顔を覆い隠した。

「…そんなに嫌がらんでもいいやろ?眠ってないから目が真っ赤になっとるだけやし……」

雫の極端な反応に、少し心を傷つけられてしまったようだった。

もじもじしている山崎を宥め、雫はしばらく休息をとった。


ほんの三時間程度のことだろうが、深く眠っていたようだった。

目を開けた雫を、山崎はのぞきこんで微笑んでいた。

「…さっき沖田さんの熱が下がった。もうじき目を覚ますと思うよ」

「…あ、はい……」

生返事をしつつ、んーっと伸びをした。

そして総司の熱を確認する。

「……。…し、ずく?」
「っ!総司、体調はどう?気分悪くない?腕の感覚はある?」

矢継ぎ早に質問する雫に対し、総司はただ雫の顔を見つめていた。
しばらくして、
「……僕は、助かったんだね」

安堵の表情を浮かべた。

「…お腹すいてない?お粥持ってこようか?」

立ち上がって出ていこうとした雫をぐいっとひっぱった。

体勢を崩した雫は、崩れ落ちたが、総司の傷に触れないように気を付けていた。

そのため、端から見ると危ない態勢になってしまった。

「…山崎さんにお願いして。雫、君と話をしなくちゃいけない」

その真剣な眼差しに射ぬかれ、雫は山崎に目で訴えた。

「…あ、うん。後はお二人で」

ささっと居なくなってしまった。
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