暁の刻

煉獄薙

文字の大きさ
上 下
39 / 73
atlas

funny

しおりを挟む


潜入していた密偵を処刑してから1週間……

屯所内はまだ少しざわついていた。


「…一撃だったんだってな」
「…裏切り者とはいえ、躊躇いもなく斬ったらしいな」
「お前らはまだいいよな。俺なんて処刑後の二人に会って少し吐きそうになったよ」

新撰組は京都守護の警ら隊として設立された。

新撰組という名をもらってから、隊士が少し増えたが、覚悟のない者が多くいた。

それらは毎日のように愚痴を放っていた。

「…すいませんが退いてくれませんか?」

そんなところに、洗濯物を抱えた雫がやって来た。

後ろには平助がいるが、彼も多くの洗濯物を抱えているため、隊士からは見えていない。

「…あ、あぁ…すまない」

総司の小姓であることを知っているため、話を聞かれていたかと動揺する隊士に目もくれず、開けてもらったスペースを悠々と歩いていた。

通りすぎて振り返り、

「…人の返り血をみたくらいで吐きそうって、情けないですね。それでも隊士ですか?町を守れないんならここから出ていけばいいんじゃないですか?」

「…お前っ!!」

肩に掴みかかった隊士に、雫は平然としていた。

もう一人の隊士はその隊士を制し、
「…ここから逃げたら切腹だ。お前も知らない訳じゃないだろ?」
と訊ねた。

「…そんなこと知ってますよ?……わざわざ訊ねるなんておかしな人ですね」

小馬鹿にしたような笑いをうかべ、再び歩こうとした。

だが、隊士は掴んでいる手に力を加えた。


「…じゃあお前は平気なのか?むせかえるような血の臭いや、簡単に仲間を殺せる隊長と一緒にいれるっていうのか!?」

男は感情的に投げかける。

雫は依然冷静なままだった。


表情一つ変えず、
「…自分は、人を殺したことありますよ?……簡単に」
と答えた。

それに、と続け
「…彼らは仲間ではありません。密偵としてここに入り込んでいた敵ですよ?」
笑顔で言った。




「…お前、すげーな」
「ん?どうしてですか?」
彼らと別れた後、平助はやっと話しかけた。

「だって、彼らには覚悟がありません。そのくせ総司たちの悪口は言うのですよ?……あのくらい言っても文句はないでしょう」

悪戯じみた笑みを浮かべながら、雫は洗濯物を畳んでいた。

一方、平助は大きく笑っていた。

「確かに文句は言えねぇわ」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

永き夜の遠の睡りの皆目醒め

七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。 新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。 しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。 近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。 首はどこにあるのか。 そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。 ※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい

開国横浜・弁天堂奇譚

山田あとり
歴史・時代
村の鎮守の弁天ちゃん meets 黒船! 幕末の神奈川・横濵。 黒船ペリー艦隊により鎖国が終わり、西洋の文化に右往左往する人々の喧騒をよそに楽しげなのは、横濵村の総鎮守である弁天ちゃんだ。 港が開かれ異人さんがやって来る。 商機を求めて日本全国から人が押し寄せる。町ができていく。 弁天ちゃんの暮らしていた寺が黒船に関わることになったり、外国人墓地になったりも。 物珍しさに興味津々の弁天ちゃんと渋々お供する宇賀くんが、開港場となった横濵を歩きます。 日の本の神仏が、持ち込まれた異国の文物にはしゃぐ! 変わりゆく町をながめる! そして人々は暮らしてゆく! そんな感じのお話です。 ※史実をベースにしておりますが、弁財天さま、宇賀神さま、薬師如来さまなど神仏がメインキャラクターです。 ※歴史上の人物も登場しますが、性格や人間性については創作上のものであり、ご本人とは無関係です。 ※当時の神道・仏教・政治に関してはあやふやな描写に終始します。制度的なことを主役が気にしていないからです。 ※資料の少なさ・散逸・矛盾により史実が不明な事柄などは創作させていただきました。 ※神仏の皆さま、関係者の皆さまには伏してお詫びを申し上げます。 ※この作品は〈カクヨム〉にも掲載していますが、カクヨム版には一章ごとに解説エッセイが挟まっています。

【架空戦記】蒲生の忠

糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。 明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。 その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。 両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。 一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。 だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。 かくなる上は、戦うより他に道はなし。 信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

遠の朝廷の大王

望月なお
歴史・時代
仮想大陸の仮想歴史譚です。

新・大東亜戦争改

みたろ
歴史・時代
前作の「新・大東亜戦争」の内容をさらに深く彫り込んだ話となっています。第二次世界大戦のifの話となっております。

処理中です...