暁の刻

煉獄薙

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潜入していた密偵を処刑してから1週間……

屯所内はまだ少しざわついていた。


「…一撃だったんだってな」
「…裏切り者とはいえ、躊躇いもなく斬ったらしいな」
「お前らはまだいいよな。俺なんて処刑後の二人に会って少し吐きそうになったよ」

新撰組は京都守護の警ら隊として設立された。

新撰組という名をもらってから、隊士が少し増えたが、覚悟のない者が多くいた。

それらは毎日のように愚痴を放っていた。

「…すいませんが退いてくれませんか?」

そんなところに、洗濯物を抱えた雫がやって来た。

後ろには平助がいるが、彼も多くの洗濯物を抱えているため、隊士からは見えていない。

「…あ、あぁ…すまない」

総司の小姓であることを知っているため、話を聞かれていたかと動揺する隊士に目もくれず、開けてもらったスペースを悠々と歩いていた。

通りすぎて振り返り、

「…人の返り血をみたくらいで吐きそうって、情けないですね。それでも隊士ですか?町を守れないんならここから出ていけばいいんじゃないですか?」

「…お前っ!!」

肩に掴みかかった隊士に、雫は平然としていた。

もう一人の隊士はその隊士を制し、
「…ここから逃げたら切腹だ。お前も知らない訳じゃないだろ?」
と訊ねた。

「…そんなこと知ってますよ?……わざわざ訊ねるなんておかしな人ですね」

小馬鹿にしたような笑いをうかべ、再び歩こうとした。

だが、隊士は掴んでいる手に力を加えた。


「…じゃあお前は平気なのか?むせかえるような血の臭いや、簡単に仲間を殺せる隊長と一緒にいれるっていうのか!?」

男は感情的に投げかける。

雫は依然冷静なままだった。


表情一つ変えず、
「…自分は、人を殺したことありますよ?……簡単に」
と答えた。

それに、と続け
「…彼らは仲間ではありません。密偵としてここに入り込んでいた敵ですよ?」
笑顔で言った。




「…お前、すげーな」
「ん?どうしてですか?」
彼らと別れた後、平助はやっと話しかけた。

「だって、彼らには覚悟がありません。そのくせ総司たちの悪口は言うのですよ?……あのくらい言っても文句はないでしょう」

悪戯じみた笑みを浮かべながら、雫は洗濯物を畳んでいた。

一方、平助は大きく笑っていた。

「確かに文句は言えねぇわ」

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