32 / 73
noise
unity
しおりを挟む目の前には敵だと名乗る青年。
後ろには中村さん、だけど敵。
中村さんは脅しのように倒れた森さんに刀を突きつけている。
いつでも殺せると言わんばかりに
「…あなたの言う意味が分かりません。そもそも派閥に興味ありませんから」
この場をどう切り抜けるかを考えていた。
総司と出会ったあの日のように大声で叫ぶ…いや、森さんが殺されてしまうだろう。
相手の隙を窺いつつ森さんを助け出す……簡単に出来ることではない。
素直に相手の言うことに従うのは性に合わない。
ならとるべき行動はひとつ。
「…何故自分なのですか?」
「…君は新撰組に入ったばかりだし、特別新撰組に思い入れはないでしょ?なら別にこっちでも変わりはないじゃん」
「その理屈は理解出来ません」
青年、吉田は相対する少年に違和感を覚えていた。
仲間が裏切り、仲間が人質となっているのに表情ひとつ、眉ひとつ動かさない。
ただ、隙を探すように吉田から時々視線をそらす。
こういう場慣れしている人間こそ味方にほしいのものだ。
唯一嬉しいのは少年が完全否定をしていないことだ。
だが、肯定もしていない。
「…君みたいな冷静な人間は倒幕を狙う僕たちの計画に役立つ。しかも君はまだ子供だ。大人からは油断されやすい」
「…それは少し納得です」
少年はもう一度仲間を振り返った。
否、正確には仲間だった男を、だ。
「…中村さんも同じ考えなんですか?あの人と」
「…あ、あぁ」
「では、先程の話はどこまでが本当でどこまでが嘘だったんですか?」
無表情で訪ねる雫に、中村は一歩後ずさった。
「…全て本当のことだよ。ただ、自分が活躍したいのは新撰組ではないけどね」
中村は刀を雫に突きつけた。
「…僕の役目はこれで一先ず終わりになるんだ。君がこちらにつくにしろつかないにしろ僕はもう新撰組にはいられないからね。殺されちゃうよ」
「…隊務違反、ですからね」
少年が即決してくれないことに少し飽きを感じ始めた吉田は、ふと遠くから高杉の気配を感じて振り返った。
もうしばらくすると追い付かれてしまう距離だな、とぼんやりと考えていると
「…うぁっ!」
叫び声と肉を絶つ音が聞こえた。
視線を戻すと、少年は刀を持ち、仲間を庇うように立っていた。
中村は腕を斬られて、その場にうずくまっていた。
「…んーっとどういうことなのかな?」
少年の持っている刀は中村が持っていたもの。
そして刀を握る少年の手からは少し血が流れていた。
「…この状況をみて分かりませんか?お断りしたいということです」
うずくまる中村の首に刀を当てる。
「…この場は退いてください。私もあなた方をあまり殺したくはありません」
吉田は笑顔でズカズカと近寄る。
「…彼を殺してもいいんですか?」
仲間が見えていないかのように、吉田は目の前まで迫ってきた。
そして、自分の刀を抜いて中村に突き立てた。
「あ゛………よし、ださん……」
ほぼ即死だった。
「…こんなのはいらない。やっぱり君が欲しくなったよ」
吉田はニヤリと笑った。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説


永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
開国横浜・弁天堂奇譚
山田あとり
歴史・時代
村の鎮守の弁天ちゃん meets 黒船!
幕末の神奈川・横濵。
黒船ペリー艦隊により鎖国が終わり、西洋の文化に右往左往する人々の喧騒をよそに楽しげなのは、横濵村の総鎮守である弁天ちゃんだ。
港が開かれ異人さんがやって来る。
商機を求めて日本全国から人が押し寄せる。町ができていく。
弁天ちゃんの暮らしていた寺が黒船に関わることになったり、外国人墓地になったりも。
物珍しさに興味津々の弁天ちゃんと渋々お供する宇賀くんが、開港場となった横濵を歩きます。
日の本の神仏が、持ち込まれた異国の文物にはしゃぐ!
変わりゆく町をながめる!
そして人々は暮らしてゆく!
そんな感じのお話です。
※史実をベースにしておりますが、弁財天さま、宇賀神さま、薬師如来さまなど神仏がメインキャラクターです。
※歴史上の人物も登場しますが、性格や人間性については創作上のものであり、ご本人とは無関係です。
※当時の神道・仏教・政治に関してはあやふやな描写に終始します。制度的なことを主役が気にしていないからです。
※資料の少なさ・散逸・矛盾により史実が不明な事柄などは創作させていただきました。
※神仏の皆さま、関係者の皆さまには伏してお詫びを申し上げます。
※この作品は〈カクヨム〉にも掲載していますが、カクヨム版には一章ごとに解説エッセイが挟まっています。

【架空戦記】蒲生の忠
糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。
明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。
その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。
両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。
一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。
だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。
かくなる上は、戦うより他に道はなし。
信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる