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noise
tempt
しおりを挟む今日は森さんと平隊士の一人と一緒に買い物に来ている。
先日平助たちと外出して、店の場所もきちんと覚えた。
だが、初めて一人で買い物、というのはさすがに駄目だと言われ、仕方なく森さんに同行をお願いした。
いつもは当番の人が買い物に行くことが多いらしいけど、さすがに毎回任せるのも申し訳ない上、買ってきた野菜の当たり外れが多いため、出来るだけ自分で見てみたいのだ。
「…今日はすいません。せっかくのお休みなのに」
「…いいえ、いつも美味しいご飯を作ってもらえるので、このくらいは当然ですよ」
「…あのご飯ってそんなに美味しいですかね?他のご飯と比較したことがないのでよくわかんないんですけど」
「…美味しいですよ!」
それまで黙っていた平隊士が食いぎみに話に入ってきた。
「暁月が料理を作ってくれるようになって、みんなちゃんと飯を食うから健康になってるんだ!俺はすごく感謝してる」
「…ありがとうございます。えーっと……」
「中村さんです。藤堂さんの隊の」
「…中村さん、そういってもらえると光栄です」
人からこのように感謝されるのは少し気恥ずかしい雫は、二人から顔をそらして笑った。
いくつかの店を周り、たくさんの買い物をした。
二人が荷物を持ってくれていて、雫は楽をすることができた。
それからもいくつかの店を周り、ウィンドーショッピングを楽しんだ。
「…少し、あれをみても良い?」
中村さんは刀を売っている店を指差した。
「…刀、ですか?」
「うん。自分はあまりお金がないから、こうやって外出したときは刀を見て頑張ろうと思うんだ」
目標に向かってただただ一生懸命に生きる様は、常に無関心な雫が経験したことのないものであった。
買いたいと言う刀に触れ、キラキラした瞳でそれを見る。
少し離れていた場所から見ていた雫に、二人は手招きをして一緒に見るように誘った。
何が良いのか全くわからないが、楽しそうにしている二人につられて笑ってしまっていた。
「…さて、帰りましょうか」
森の一声で三人は帰路につくことに。
「…すいません、少しいいですか?」
中村が教えてくれた裏道で帰ると、灰色の髪の青年が道を塞ぐように立っていた。
あからさまに怪しい男に、森は警戒を強めるが…
「…っ!」
その後ろから首筋に強い痛みを感じて意識を失った。
「………あなたたちは、誰ですか?」
雫は、目の前の男と森を気絶させた男……中村に向かって淡々と訊ねた。
「…僕は吉田稔麿。君が今いる新撰組とは敵対している、倒幕派の人間だよ」
「……それで、何か用ですか?」
倒れた森をチラリと見て、また淡々と訊ねた。
「…君をこちらに誘おうと思って!」
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