暁の刻

煉獄薙

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今日は新撰組についての報告をしようと思う。

自分は監察方の一隊士なので名は伏せておく。

え、自分が誰だか予想がつく?
いやいや、きっと間違いだ。
そんなことあり得ない。

「…山崎さん、そんなとこで何をしてるんですか?」

「あ、雫ちゃん?今日の夜は何?」

彼女………彼は暁月雫。
最近一番隊の隊長をしている沖田総司が拾ってきた子で、料理がとても美味しい。

本人は自信がないようだが、隊士の間では『暁月雫のいない生活には戻れない』
とまで言われている。

まぁ、男所帯だったから料理出来る隊士も数人いるかいないかで、それも食べれるだけで特別美味しい訳ではなかった。

そんなところに来たこいつはさながら天子のようだった。

「…今日は玉子焼きとご飯、お味噌汁……あ、漬物を頂いたので今日は少し多いですよ?」
普段は笑顔を見せるような優しい女の子だが、怒ると沖田さんか土方さんしか対応出来ない。
皆萎縮してしまうのだ。

つい先日も一人の隊士が犠牲になっている。

「…あ、そうだ。山崎さん今から土方さんのとこ行くんですよね?はい。これ持っていってください」
「…あ、あぁ……って何で?」
「…何でって、ついでですよ」
「…いや、じゃなくて土方さんのとこ行くってことを」

彼女……彼が指摘したのは、袖に少しついた紅と香の香り。

彼女はぐいっと襟を引き、
「…どんな手で情報をつかんでるんだか」
意味深なことを耳元で呟いた。



「…土方さん、入ります」

煙管の匂いが立ち込める部屋に入ると、不思議そうな顔をされて、手元を見ていた。
おそらく茶と茶菓子が気になったのだろう。

「…あいつからです。もうそろそろほしくなるころかと」
土方さんは小さく声を出して笑った。

お使いに出された俺と、暁月の観察力に対してだ。
「…あいつは監察方に合ってるかも知れねぇな」
「…かも、というより確実に、と言うべきでしょうが……それより今回の件について報告致します」

俺は調査結果を報告した。

土方さんは時々眉をひそめ、ため息をついた。




そして外に出ると、もう夕暮れの時間だった。
また調査を引き続き行う事が決定した。

「…あ、山崎くん」

ため息をついた俺に声をかけてきたのは、八番隊隊長の藤堂さん。
小柄な癖に力がしっかりとあり、戦闘となったときは魁先生としていの一番に飛んでいく。

実力者だ。

「…また出かけるなら台所に置いてある包みを持っていくようにって伝言。………最近忙しそうだね」
彼はその実力と反して優しい一面もある。

そしてそれは時に弱さにもなる。
だからあの時も……

いや、今はその話はやめておこう。
「監察方はいつでも忙しいですよー」
軽い口調で誤魔化して、俺はその場を後にした。

そして台所に行って包みをとる。

中身は想像ついていた。

昼下がりに話したとき、彼女の手は白く汚れていた。

あれは団子を作っていたのだろう。

小腹がすいた時のために、誰でも簡単に食べれるようにと用意してくれている。

さて、京を守るための僕なりの仕事をしてきますか。

青年は暗闇にとけていった。





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